
新刊『waneellaピクセルアート集 追憶の風景』刊行記念トークショー レビュー
12月7日(土)夜、渋谷の404 Not Foundにて『waneellaピクセルアート集 追憶の風景』刊行記念イベントが開催されました。
本イベントはトークショーとサイン会で構成され、ピクセルアートの魅力やwaneellaさんの創作背景に触れる貴重な機会となりました。
本記事では、トークショーの内容やサイン会の様子、さらにwaneellaさんへのインタビューを交えて、イベントの模様をご紹介します。

トークショーには、著者のwaneella(ワニーラ)さん、美術評論家のgnckさん、そして「ピクセルアートの学校」の主催者である坂口元邦さんが登壇し、弊社・室賀がファシリテーターを務めました。
◆ピクセルアーティストになるまでの歩み
冒頭では、waneellaさんの経歴と作品の特徴について紹介がありました。
1993年にロシアで生まれ、ゲラシモフ映画大学でアニメーションを学んでいたwaneellaさんは、在学中の2013年にビデオゲーム『スキタイのムスメ』に触発され、趣味としてピクセルアートの制作を始めました。
SNSで作品を発表していた彼女が、アーティストとして一躍注目を浴びるきっかけとなったのは、人気バンド twenty one pilotsのタイラー・ジョセフによるリポストでした。以降、世界中で評価される作品を次々と発表し、現在ではXで23.2万人、Instagramで9.6万人のフォロワーを持つトップクリエイターです。
彼女の作品は、誰もいない街角や都会のビル街といった静寂に満ちた風景が特徴的で、日本の風景をモチーフにしたものも多く含まれています。その背景には、日本のアニメや文化に親しみ、想像力とGoogleストリートビューを駆使して日本の街並みを描いてきたというユニークな制作スタイルがあります。
例えば、本書のP76に収録された「小諸そば」を描いた作品では、タイトルがGoogleストリートビューの緯度・経度となっています。これは彼女がロシアにいながら、ストリートビュー上で街を散策して見つけた風景をもとに描いたもので、夜の雰囲気や背景のアレンジを加えた独自の解釈が光る作品です。

◆waneella作品の魅力について
質疑応答の中で、「ピクセルアートの学校」主催者の坂口さんはwaneella作品の特徴について次のように語りました。
「どこかの都市のようでありながら、どこでもない“現実と架空のはざま”を描いている。また、人物を描かないことで、見る人がその空間に入り込んで主人公になったような気分を味わえる。」
作品に人物を描かない理由について、waneellaさんは、「人物を描いてしまうと作品が具体的になりすぎてしまうため、見る人自身に想像してもらうため、あえて描かないようにしている」と語りました。受け取り手によって、さまざまなシチュエーションを想像できるのも、彼女の作品が多くの人々を魅了する理由の一つと言えそうです。
美術評論家のgnckさんは、「光の捉え方」「色の扱い方」「パースペクティブ」という3つの観点で彼女の技術を称賛していました。waneellaさんの描く、夕方や明け方の情景、現実と空想が交錯するような構図や色づかいについて「エモい時間を的確に捉えている」とコメントし、パースペクティブの扱いについても、「ストリートビューの画角をそのまま模倣するのではなく、独自の再構築がなされている」と高く評価しました。
waneellaさんご自身も「光やパースペクティブには試行錯誤を重ねており、原理原則を理解しつつもそれに縛られず、自分が良いと思うものを描いている(実際の見え方とは違う表現でも、それがより良くなることもある)」とコメントしました。

特に印象的だったのは、彼女が描く薄暗い時間帯への思いです。「夕方や夜明けといった移ろいゆく時間が子どもの頃から大好き。中間的な時間であり、人生の別次元への扉のような感覚がある。そうした神秘性を作品の中でも表現したい」との言葉には、彼女の創作に込められた哲学が垣間見えました。
トークの間、背後の大画面には彼女のピクセルアートがアニメーションで映し出され、観客はその静寂とカラフルさの共存する世界に浸りながら、トークを聞くことができました。

◆サイン会とインタビュー
トークショー終了後のサイン会では、waneellaさんの親しみやすい人柄が印象的でした。参加者一人ひとりと丁寧に交流し、写真撮影にも笑顔で応じる姿が見られました。

また、後日行われたインタビューでは、本来画面上でアニメーションを伴うピクセルアート作品を、“本”という形で残す意義についても語っていただきました。
「デジタルの世界は便利だけど儚い。データが突然失われることもあるし、将来的には国境を越えたインターネットへのアクセスに制限がかかる可能性もある。だからこそ、今回“本”という、いつまでも消えない形で作品集を残せたことに、大きな意義を感じています。」
さらに、今回の作品集の刊行をきっかけに「静止画として高いクオリティを持つ作品を今後さらに追求していきたい」という新たな目標も持つようになったそうです。
◆イベントを終えて
この素晴らしいイベントを実現に導いてくださった、ピクセルアートの学校関係者の皆さま、404 Not Foundの皆さま、そしてご来場いただいたすべての方々に心より感謝申し上げます。
最後に、waneellaさんから、イベントに参加された皆さま、本書を手に取ってくださる皆さまへのメッセージをお届けします。
「私の作品を支持してくれる日本の皆さまの存在にとても救われています。日本でイベントを行うたびに、誰も来てくれなかったらどうしようと思っているのですが、毎回大勢の方に来ていただき、嬉しい言葉をかけてもらえることをとても光栄に思っています。私に、自信と創作を続けるモチベーションを与えてくれてありがとうございます。私の10年間の創作の結晶ともいえる本書を、ぜひお楽しみいただけると幸いです。」

<著者プロフィール>
waneella(ワニーラ)
ピクセルアーティスト。本名バレリヤ・サンチロ。ロシアのゲラシモフ映画大学でアニメーションを学ぶ。大学在籍中の2013年にピクセルアート制作を開始。Tumblrで多くのファンに支持され、人気アーティストとなる。16ビットゲーム的魅力あふれるタッチで詳細に描かれる都市風景は、独自の創造空間を構築している。
<書籍情報>
書名:waneella ピクセルアート集 追憶の風景
著者:ワニーラ
翻訳:石田亜矢子
ISBN:978-4-7661-3922-8
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