- 運営しているクリエイター
記事一覧
小説・鯨の悲しみが止まらない(第3章)
死んで生きる
いつの間に主導権を握ったのか、そこそこ貫禄づいた一頭が、座礁に好適な景勝の海辺を見つけたとばかり、浅瀬に向かって突進したのだ。
三方の山を背にして、海洋へ開けた「大浦」は近隣の有名な大砂丘に連なって、打ち寄せる群青の波が際立ち、太古より人も鯨も魅了してきた。今まさに、我々一行もと虜(とりこ)になろうとしている。
しかし、海洋汚染の告発という任務を果たすのに、環境の良い浜を選ぶの
小説・鯨の悲しみが止まらない(第2章)
座礁死で告発
大会議での報告や議論は出尽くした。そのまとめは難しかったが、フィンの協力を得て次のような骨子に落ち着いた。
人類が繁栄を追い求めるのはもっともなことだ。しかし、そこから発生する毒物が海を汚し、鯨を始めとする海洋生物を絶望に追い詰めることだけは耐えがたい。この気持ちを、われわれは座礁死によって人間に訴える。座礁を多発させることで、人間の関心を引きつけ、海の浄化につなげるのだ。
私は
小説・鯨の悲しみが止まらない(序章)
序章
霊魂になった私を背中に乗せて、イヌワシは舞い上がった。広大無辺の宇宙を切り裂くように飛ぶ力と速さは、何者にも負けないという気概を感じさせる。そんな私の心を見透かしたようにワシは呟いた。
「疲れを知らない翼の天使、ペガサスを追い越すにはいま少し努力いたさねばな」
ワシ座の首星、アルタイルに住み、アンデス山脈のもっとも近づきがたい岩場で翼を休め、天上天下に爛々と目配りし、天の声を授かれば、すぐ