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私の漢詩紀行とシルクロード  3 易水


易水にねぶか流るゝ寒さかな 蕪村

易水の夕暮れ 詩は駱賓王の「易水送別」


 もう20年も前の話。2004年11月『史記 刺客列伝』にある「荊軻」を偲んだ塔を北京郊外の易県に訪れた。易県を流れる易水附近が舞台。秦の王政(後の始皇帝)を暗殺しようと白装束に身を固めて出発した時の荊軻の絶句「風蕭蕭兮易水寒 壮士一去兮不復還」――風しょうしょうとして易水寒し 壮士ひとたび去ってまた還らず――というのである。「始皇帝を敢然と刺そうとした荊軻の勇気に驚嘆しないものはなく,燕の国を離れる荊軻を泪とともに見送る人々との別れを描いたもの」だという(宮城谷昌光『史記の風景』より)。易水の畔に立てば,何となく荊軻の気持ちも分かるような気もするし,悠久な中国の歴史に触れ『史記』の舞台を垣間見たような気分になった。人間の性なのか,何時の世も刺客はいるものだ。蕪村の句はこの史実を詠んだもので,ねぶかとは白い長ねぎのことで,白装束に身を固めた荊軻をいう。今の酷暑とは似合わない句だが,暑気払いも兼ねて。

易水の夕暮れ
易水の畔で釣りをする人
荊軻の碑 易県で

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