テルテルナース(短編小説)

現役Ns(訪問看護師) 小説家を目指し上京 応援していただけるとスゴく嬉しいです☺️ 短編小説/恋愛小説/掌編小説

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【短編小説】バニーガール(AKASAKI:「Bunny Girl」)

「俺たちの人生には決定的に足りないものがある。何かわかるか兄弟よ」    社内の食堂で昼食を摂っていると、同期の宮本が悩ましげな表情でそう切り出した。 「突然何だよ相棒。人生相談か?」  俺は優しく皮肉を込めて聞き返した。 「相談じゃないんだ。報告なんだ」 「報告?」  もしかして彼女にでも振られたのだろうか。それにしては落ち込んだ様子はないが。 「あぁ丸山。俺たちの人生ってのは平凡だが、それなりに楽しい毎日を過ごしている。そうだろう?」  勝手に俺まで平凡と決めつけられた事

    • 【恋愛短編小説】 今もまだ君だけを ”邂逅”

       俺は今もまだ、君だけを。    それは、赫い感情との再会。  それは、碧い過去の記憶。 「待って」  そう言うと、陽橙は女性の手を奪った。それは無作為的な行動だった。  突然のことに女性は困惑し、少し怯えた表情を浮かべている。察した陽橙はそっと手を離す。  謝罪の言葉をかけ、改めて彼女の顔を見つめ直した。やはり見間違いではなかった。そこには決して忘れることの出来ない記憶に深く刻まれた顔貌があった。 「スミカ・・・」  彼女の表情は変わらず、緩みをみせない。 「スミカだ

      • 【恋愛短編小説】 今だけは私だけを

        「さむっ」  寒風が無防備な脚を冷やして通り過ぎていった。  二月の夜は、厚手のコートに身を包んでも熱が足りず、シバリングで無理やり補完する。  上着のポケットに手を入れカイロを握りしめながら、いつも通り遅刻してくる彼を想う。 「お待たせ」  落ちついた声が左の鼓膜を揺らした。  その声は、雑多とした街中でも鮮明に聞き取れた。  まるで、周囲の音が消えてしまったかの様に、明瞭に響く声。   「ハルくん。遅いんじゃないのかな?もう10分も過ぎてるよ」  形式だけの嫌味を吐きな

        • 【恋愛短編小説】 花弁と共に ”後編” 

             退院後、マネージャーとして部に復帰した。  顧問の先生に受験の事もあるため退部も提案されたが、僕は残ることを選んだ。  今度は、逃げたくなかった。  できる範囲で最後までやり切る。  今はそれが必要なことだと思ったから。  後悔はあるし未練もある。  そんな簡単に割り切れるほど大人には成れない。    でも、だからって。  今までしてきた事を無かったことにはしたくなかった。   ー  インターハイ県予選100kg級決勝戦  ー  両者一歩も譲らない攻めの姿勢で、激し

          【恋愛短編小説】 花弁と共に ”中編”

          「よっ」  振り向くと、そこには軽快な挨拶に反して固い表情をした屈強な男の姿があった。  軽量級の自分と比べると100kg級の大博は立っているだけで存在感がある。 「見舞い来るの遅いんじゃねーの?薄情者め」  久々に会った親友に軽く悪態をつく。 「すまん。色々と整理がつかなくてな」  そう言ってベッドの横にたたんでいたパイプ椅子を開き、ゆっくりと腰を下ろした。  静かな病室に椅子の軋む音が響く。 「それで、夏までには間に合うのか」  包帯で大袈裟に巻かれた右腕を見ながら、険

          【恋愛短編小説】 花弁と共に ”中編”

          【恋愛短編小説】 花弁と共に ”前編”

          桜を見ると、否応️なく君を思い出す。 淡く切ない記憶。桜の花弁のように美しくて、儚くて。 君は花弁と共に現れて、花屑が舞い散る頃には閑かに姿を消した。 刹那的で情動的な記憶を僕に植え付け、深く根をはって離れない。 幾度春を重ねようと、満開の桜を見て心動かされ、魅入ってしまうように 君への想いは、薄らぐことなく揺蕩い続けている。    高校2年の春休み。  当時、柔道部に所属し学生生活の全てを注いでいた。地元親元を離れ、他県の全国的にも名の知れた強豪校に進学し日々部活漬け

          【恋愛短編小説】 花弁と共に ”前編”

          【短編小説】 口唇残香

          「そろそろ出ようかな」  その言葉を合図に、三十分ほど先に出社する貴方を見送るため玄関に向かう。  貴方は靴を履きこちらに向き直る。  玄関ドアの硝子から挿す朝陽が貴方の外郭を曖昧にさせる。   親切な上り框が身長差のある二人の目線を合わせてくれる。  互いに少しだけ頭を傾け寄せると、唇が重なる。  一秒程の優しい接触。  僅かに漏れる貴方の吐息からは、いつも珈琲の香りがした。   味は苦手だけど、その香りは好きだった。    目を覚ましてリビングに向かうと、寝癖をつけ目

          【短編小説】 口唇残香