角で待つ男の話
その男は通称 角待ち君 と呼ばれている。
毎日毎日、道の曲がり角に立っているからだ。
彼は小さい頃から人に話しかけるのがとても苦手。
人から話しかけられないと自分から話すことができないのだ。
そんなある日、彼はふと思いついた。
『角を曲がってくる人とぶつかれば
話しかけてくれるかも』
彼はそう思い、毎日朝から夕方まで立っている。
彼の思惑通り一日に一回か二回、人とぶつかることがある。
「そんなとこに立ってるんじゃないよ」
「びっくりしたな。危ないからどいて」
そんな強めの言葉を浴びせられることが多い。
でも、彼にとってはそれが成功なのだ。
『すみません』
彼は一言謝り、相手に話題を振ってみる。
『今日は良いお天気ですね』
しかし、相手は既に歩き始めておりその場にはもういない。
それが毎日毎日。
何年も続いている。
『話題が間違ってるのかな。
・・・よし。今度は動物の話を聞いてみよう!』
彼は意気揚々とまた角で待ち始めた。
しばらくして、曲がり角の先からはしゃいでる
子どもの声が聞こえてきた。
彼がわくわくして立っていると、走ってきた子どもが彼の足にぶつかった。
「いてて」
『すみません』
彼はいつも通り一言謝った。
すると子どもが
「あ!角待ち君だ!」
どうやら、彼を知っていた子どものようだ。
『うん。角待ち君って呼ばれているのが僕だよ』
彼が会話をできたことを喜んでいると、更に子どもから質問された。
「ねぇ?なんで角にずっと立っているの?」
『人がぶつかってくれると僕に興味をもって話しか
けてくれると思って』
「人と話したいの!?
じゃあ、そんなやり方じゃ駄目だよ!」
彼は戸惑った。
『え・・・じゃあどうすれば話してもらえるの?』
と質問した。
すると、子どもは
「常に人が居て、その人達もその場所に毎日居る
場所がいいよ!そしたら、顔も知られて話す機会
も増えるよ!」
『そうだったのか』
彼には目から鱗だった。
「そうだよ!じゃあ頑張ってね」
そう言い残すと子どもはまた走り出していった。
『沢山人が居て
その人達も毎日いる場所か・・・』
翌日、いつもの角に角待君の姿はなかった。
「あれ、あの変な男いなくなったわ」
「よかったー。本当に気味が悪くて嫌だったのよ」
どうやら、その角道は以前の平和を取り戻しているらしい。
場所は変わり、某県某市。
『あの子どものおかげで良い場所を見つけられた。
ここなら条件も合うし待ってみることにしよう』
角待ち君はどうやら新しい場所を見つけられたようだ。