【比較】探偵チームKZ事件ノートとKZ少年少女ゼミナール
少女向けのミステリや少女探偵についてあれこれ探している間に、超大型シリーズがノーチェックだったことに気が付きました。
「絶対これは採り上げないと駄目だろう」そう思って急遽記事を書いています。「少女向けミステリを調べてるのに今まで知らなかったの……? やばくね?」と哀れまれそうですが、何とか頑張って追いつきたいと思います。
更新情報
11月29日に9に追記。
『探偵チームKZ事件ノート』とは?
『探偵チームKZ事件ノート』──原作・藤本ひとみ先生、文・住滝良先生の、名門塾秀明ゼミナールに在籍している少年少女が探偵役のロングセラーです。アニメ化もされています。
もちろん現在も刊行中です。
NHK Eテレ 天てれアニメ
2015年10月~2016年1月
コミックスも刊行されています。コミックスの作者は桜坂メグ先生です。
未読、未見の方には一番気になるのは『KZ』という単語だと思います。こちらは『カッズ』と読みます。
KZというのは秀明ゼミナールが塾生の体力増強を意図して作ったサッカーチームで、一定以上の成績を取った生徒のみに所属資格があるというかなり少女漫画っぽい設定の団体です。
主人公は立花彩という塾内では普通くらいのクラスに属する小学六年生。国語はトップクラスなのに算数、理科はあまりにもひどい成績の彩が、得意不得意のばらつきがある生徒のための特別クラスに入ることになって、そこでKZのメンバーを含む四人の少年達と出逢い、彼らと共に事件と向かい合うことになります。
各シリーズの対比
ただ、この『探偵チームKZ事件ノート』はいきなり立ち上がった企画ではありません。この作品の元となった藤本ひとみ先生の『KZ少年少女ゼミナール』というシリーズが昔あったのです。こちらのシリーズは以前コバルト文庫で三冊出ていた作品です。この三冊が『探偵チームKZ事件ノート』の三冊目までにリメイクされた、彩達が小学生の間のストーリーです。(四作目『卵ハンバーグは知っている』からが完全新作になり、彩が中学に入学した時点からの話になります)
それぞれこの順番です。
『KZ少年少女ゼミナール』→『探偵チームKZ事件ノート』
『友愛クエスト』→『消えた自転車は知っている』
『親友アイテム』→『切られたページは知っている』
『初恋プロセス』→『キーホルダーは知っている』
『消えた自転車は知っている』『切られたページは知っている』『キーホルダーは知っている』はそれぞれのリメイクというよりはほぼリライトです。
『友愛クエスト』の刊行が1992年4月、『消えた自転車は知っている』で『探偵チームKZ事件ノート』が始まるのが2011年3月、二十年近い年月が経っています。そして新たに刊行された講談社青い鳥文庫はコバルト文庫よりは対象年齢が低く小学生から読める作品です。いくつかの理由によってリライトがされています。
1.児童書レーベル向けの書き方に
青い鳥文庫は小学生向けの児童書レーベルなので、難しい漢字などは開いています。その上で総ルビです。あと台詞のカッコ書きの末尾に句点が付記される教科書と同じ書き方になっています。数字を漢数字からアラビア数字に変更されてる箇所は住滝先生の文体なのか青い鳥文庫のガイドラインなのかは解りませんでした。
ちょっとセクシーな話題、言い回しなどもカットされています。
2.実在の学校名などが仮名に
リライト版三冊では原作版では実在の名門中学、進学塾の名前が書かれていた箇所が仮名になっています。ただ、四作目の『卵ハンバーグは知っている』を見たら一校が実在の学校名になっていたので、もしかしたらこの後は違うガイドラインになっているかもしれません。
3.主人公達の犯罪を匂わせる要素をカット
原作版では調査のためにダーティな方法で情報を入手する箇所がありましたが、そのあたりの言い回しなどが合法的な感じに書き直されています。
4.彩と若武和臣の恋愛描写をカット
元はコバルト文庫だったので、小学生ヒロインであっても三作目『初恋プロセス』では恋愛の自覚がありましたが、その要素を大幅に緩和、カットされています。仲間としていいな、素敵だなと思う程度にとどめる感じです。この後シリーズ展開する時に、早い時点で恋愛対象が決まってしまうと困るなどの理由があったのだと思います。
5.小塚和彦の体型(作画)、台詞回しの変更
シャリ(社理)の小塚こと、小塚和彦の体型は文章で語られている内容ではぽっちゃり型、もしくは肥満タイプです。原作版のイラストレーター、いのまたむつみ先生の作画では「上に乗せて壁を越える時に体重がきつい」ほどには見えないものの、ちゃんとぽっちゃり型の作画になっていますが、『探偵チームKZ事件ノート』の駒形先生の作画ではぽっちゃり型には全く見えないデザインになっています。(むしろ痩せています)
ただし、シリーズが進んだ時にその体型について言及されないかもしれないので「設定揺れかな?」とまでは断言できません。今のニーズに合った改変だと思います。
ただ、小塚の設定については結構変更をかけた箇所が多く、一人称も「オレ→僕」になり、言い回しもちょっと可愛い感じになっています。
追記
原作版よりも体型について言及している箇所は少ないものの、『探偵チームKZ事件ノート』の方でも最低でも中学時代には肉付きがいいことについて話しています。ただし彩の妹の奈子を主人公としたスピンオフの『妖精チームG事件ノートシリーズ』で、高校時代の小塚の体格について言及するシーンがあり、高校生時点では痩せていることが判明しています。
そこから考えると「中学生時代にはある程度太っていた(卒業する時点でどうなっているか未確認。後で書きます)ものの、高校生時点では痩せている」「イラストでのみ痩せた少年のように描かれている」ようです。
6.黒木貴和の髪型変更
原作版では黒木の髪は癖毛でしたが、ストレートに変更されています。ストレートであると書いてある訳ではありませんが、癖毛の描写が全てカットになり、イラストでもストレートになっています。
7.彩の一人称、言い回しが刷新
彩の一人称も原作版では『あたし』で、語尾も「~なの」「~だわ」などの言い回しになっていますが、一人称は『私』になり、言い回しもある程度今時っぽい感じに変更されています。
8.男子キャラの一人称が『オレ→俺』に
小塚を除く仲間の少年達の一人称が「オレ→俺」に変更になりました。
9.KZの制服デザインや秀明ゼミナールのバッグデザインが変更
イラストの変更だけでなく、設定的にも変更になっています。サッカーのユニフォームのボトムがショートパンツからハーフパンツに変更。バッグがリセバッグからリュックに変更されています。(『妖精チームG事件ノートシリーズ』ではバッグを秀明バッグと呼んでいる箇所があります。1作目は『クリスマスケーキは知っている』(2014年11月13日発売)。本編では26作目『ブラック教室は知っている(2018年3月8日発売)』から秀明バッグの名前が出ています。ここより前に秀明バッグの名前があるのを確認した時には追記します)
10.彩が小説を書く&イマジナリー彼氏、一樹の設定がカット
小説を書きたいという彩がアイディアをあたためている中に、彼女のイマジナリー彼氏である一樹という少年の設定がありましたが、小説を書きたいという趣味ごと一樹の設定は完全にカットになっていました。
原作版では作中の小説のアイディアとして藤本ひとみ先生の『ロマンスパン伝説』『さくらんぼ聖書』などのタイトルが出てきます。
追記
23作目『学校の都市伝説は知っている』で読むことになった梅津奈緒美の小説に感銘を受け、彩が小説を書き始め、24作目『危ない誕生日ブルーは知っている』で彩が文芸部に入り執筆活動をすることになります。この後続刊や他のシリーズなどを確認して何かありましたらまた追記します。
原作版を買うべき?
大体こんな感じの変更点がありましたが、ベースは原作版の文章をそのまま使っているので、『探偵チームKZ事件ノート』を読んで「シリーズ大好きだから『KZ少年少女ゼミナール』も読んでみようかな?」と思った人がいても、あまりお勧めはできません。
ワタシはこの2シリーズのそれぞれ三冊を比較するために、まずは原作版を一通り読み、その後に両手で一冊ずつ本を広げて違いを検証するというアクロバットに挑戦する羽目になり、手首がつりそうになりました。こういうアホなことをやるくらいしか役に立ちません。片方が大きめの本だったら腱鞘炎になっていた気がします。
『KZ少年少女ゼミナール』のイラストのいのまたむつみ先生のファンの方、「藤本ひとみ先生の本はみんな揃えるぞ」という方、「シリーズのガチオタなのでアイテムは全てコンプリートしたい!」という方にはお勧めです。そして「元々あった原作をリライトしたものが長く続いている」実例として、年月を経て現役となったシリーズのリライトの仕方については、小説を書く方にはものすごく参考になると思います。
あと最後に『少女トラベルミステリ』で扱うのでミステリ部分についても少し。(トラベル要素はこの三冊の中にはないので省略)
小学生向けのミステリとして読むと「結構ヘビーなネタだな」という事件が起こります。だからこそ犯罪的な要素を主人公サイドの描写からカットしていったんだろうなと思います。
続きも気になるので全部読もうと思います。
(主に原作版についての)おまけ的な感想
しばらく読んでいてやっと気付いたのですが、男子の初期メンバーって全員名前に『和』の字が入ってるんですね。「それでKZなのかーおおう」と妙な感心がありました。
若武和臣、黒木貴和、小塚和彦、上杉和典──全員入っています。作中の読みは違いますが、彩のイマジナリー彼氏である一樹も『かずき』と読むこともできます。
一樹は『探偵チームKZ事件ノート』に出てこないキャラですが、一応初期メンバー男子はみんなそれで揃えてあったんだなーと気付きました。