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インパクト雇用を"する側”に必要な準備とは ~JINS、グノシー、ペイロールで要職を歴任した経営・人事のプロに聞く~

「インパクト雇用」に関する発信をしている当連載。今回は、「興味はあるけれど、実際にやろうとすると何が必要なのかわからない…」という疑問にお答えしたく、インパクト雇用の実践者に具体的なノウハウの一端をお聞きしました。

シングルマザーや障がい者など「就労の機会が得にくい人々」を雇用対象にすることで、会社や組織に変革をもたらしたり、社会貢献を目指す新しい雇用モデルを「インパクト雇用」と言います。また、彼ら彼女らを直接雇用ではなく、業務委託先とする「インパクト・ソーシング」という形態もあります。

  

ぜひこちらの過去記事もご参照ください。


準備したこと・やらねばいけないこと


――インパクト雇用を実践するにあたって、どんなことを準備されましたか。

彼女たちにはHRTが行っている啓発活動のうち、オンラインセミナー運営全般(登壇者とのやりとり、告知ページ作成、SNSでの告知、当日の運営等)をお願いしています。彼女たちは沖縄在住ですが、すべてオンラインでできる作業で、やり取りに関してもコミュニケーションツールの「Slack」を活用しています。

インパクト・ソーシングをするにあたって必要なのは「標準化」と「デジタル化」です。

業務プロセスを細部に切り分け、「Notion」というプロジェクト/スケジュール管理、ファイル管理を集約できるツールにまとめており、これを見れば大概の業務はできるようになっています。「この作業は月に何回ある」「1つのプロジェクトにこのくらいの時間がかかる」といったことも記載されています。

2024年の2月から委託を始めて以降、習熟度に合わせて簡単なものから少しずつ業務目標を達成してもらうようにしました。委託を始めた当初はサポートする人がかなり手を貸す必要がありましたが、いまはほとんど手を離れています。時給に関してもスキル向上に合わせて少しずつ昇給しています。外部へ委託するにあたって、業務を属人化させずに標準化させることは必須です。

具体的には、委託する業務の内容と業務プロセスを分解して、一つ一つの業務処理にこれくらいの時間がかかる、という標準時間管理をしています。あとは過去に業務に携わってくれた方たちに、引き継ぎのタイミングでその都度きちんと業務内容/プロセスを言語化して 業務マニュアルを整備してもらいました。最初の言語化に時間はかかりますが、難しいことではありません。

社外に出していい業務をはっきりさせ、かつテクノロジーを活用すれば、インパクト・ソーシングはマッチしやすい。これは企業にとってもメリットですよね。いきなり直接雇用するよりハードルも低いと認識しています。

業務プロセスを標準化し、Notionで進捗管理をしています。

「標準化」は企業に絶対必要なこと

――インパクト・ソーシングをするには、まず業務を洗い出して標準化し切り出すことが有効なんですね。

たとえインパクト・ソーシングをしないにしても、経営者の観点からみると、「その業務は本当に正規雇用する社員がやらないといけないことなのか?」と根本的に問い直す作業は常に必要です。

たとえば人事業務には“攻め”と“守り”の業務に大別されます。優秀な人材を採用し、能力開発を進め、その人が長く活躍し、将来的に経営幹部となるように可能性を引き出すのが“攻め”の業務。

一方で“守り”の業務には、労務管理、給与計算業務などがあります。正確さが求められ、付加価値は低いですが、組織の安定運営に欠かせない業務です。ただし、HRテクノロジーが普及し、クラウド上でコンピュータに代替してもらえる業務領域が増えていくなかで、それを社員がやる必要はあるのか。優秀な人材を引っ張ってきて育てることにもっと時間を使えるようにするためにも、HRテクノロジーはどんどん使ったほうがいい。

でも、この人事領域の業務のデジタル化は標準化とセットでないと成功しません。なんだかこれは良さそうだぞと、とりあえずHRテクノロジーを搭載したクラウドサービスを導入してみたものの、うまく機能しないという失敗例はよく聞きます。その原因は業務の標準化ができていないから。「どういう業務をテクノロジーに代替させたいか」「どの部分を効率化したいか」が見えていないと、テクノロジーが無用の長物で終わってしまいます。

たとえば社内の業務のやりとりやコミュニケーションにおいて、対面重視であったり時間をかけたりする傾向のある企業が、そのままの状態で「Slack」のようなツールを導入しても、効率化の効果は十分に発揮されないでしょう。

――グラミン日本が委託している業務について、今後の展望は。

お任せする仕事の範囲、ボリュームを増やしたいのはもちろんですが、現時点ではまだ、決められたことをきちんと回すという「受け身の業務」のみなんですよね。でもこれからはもっと上流に入ってきてもらって、例えば、啓発セミナーの企画をゼロから立てて準備を進め、運営まで責任を持って実行する、などしてもらいたいです。そうすればもちろんお給料も引き上げられます。

委託を始めたばかりのころは「どうしたらいいでしょう?」という質問が多かったんですよ。けれど細かいところまでマニュアル化や標準化はできない。質問したい気持ちはわかるのですが、あえて「あなたはどうしたいですか?」と意識してもらうようにしています。彼女たちもだんだんと変わってきていてくれていますし、こういうプロセスは力や知識になりますよね。

 

自信がない人の育て方

――上手く仕事ができるか自信がないなど、メンタルに関する部分はどういうお考えで対応されていますか。

これは個人的な意見ですが、基本的に「やったことがないから自信が持てない」んです。

以前わたしはJINSという眼鏡店のチェーンにいましたが、店舗のパートタイムスタッフやアルバイトスタッフもそうでした。少しずつ経験を積んでもらってトレーニングする仕組みを整えることは絶対に必要です。そして、できたらとにかくほめる。9割ほめて、ちょっとこうしたほうがいいんじゃないかという話しは1割くらいに抑える感覚です。

眼鏡を作るには、実は三角関数を解けるようになることが必要です。サイン・コサイン・タンジェント、覚えていますか?(笑)三角関数をきちんと理解しないと正しい度数の測定ができないから、JINSではこれを叩き込み、入社後数十時間の教育研修を受ければ、誰でも眼鏡を作れるようにしていました。JINSの店舗では接客業務だけのスタッフはいないのです。属人化を排除して、誰でもどのポジションにでも入れるようにしていました。学歴なんて関係はなく、どう戦力化するかです。最初に徹底的に身に付けてもらえばできるようになり、できるようになったら自信が持てる。どこでも同じです。

 

雇用・委託される側に望むこと

――インパクト・ソーシングが普及するために、雇用や業務委託をされる側に必要なことはなんだと思いますか。

たとえばいま、グラミン日本から派遣されているシングルマザーのかたには、セミナーの告知やチケットの販売ができるサイト「Peatix」の運用をお願いしているのですが、使いこなすには慣れが必要で、悪戦苦闘しています。でもこれができるようになると、一つのスキルとして立派に職務経歴書に書けるんです。

いまデジタルスキルはどんどん細分化していて、たとえばデザインツールの「Canva」が使える、「TikTok」を見るだけでなく投稿や運用ができるなど、何ができるのかは細かいレベルで言語化していったほうがいいです。日本ではまだあまりこういう情報を労働者側が表に出していない。でも欧米では「この作業ができるなら、これだけ支払います」という相場ができあがっています。

今の時代に求められるのは「デジタルスキルの言語化」

つまりニッチなものだとしても、デジタルスキルを身に付ければ、そこだけ切り出して委託したいという需要は必ずあるはずです。シングルマザーなどのインパクト雇用をされる側の方々はこうしたスキルを身に付け、グラミン日本さんにはそれをメニュー化して、企業側が雇用や委託をしやすい環境を整えてもらえたらいいんじゃないかなと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。今後もインパクト雇用を通じて新しい世界を切り開こうとしているシングルマザーの事例などをご紹介してまいります。


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