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「インパクト雇用」が変えたシングルマザーの未来~auフィナンシャルグループとの取り組み事例(前編)~

私たちグラミン日本は、シングルマザーを中心にした女性に対して起業や就労支援を行うことで、彼女たちの経済的自立を応援する団体です。私たちが経済的自立をサポートするための研修や雇用機会の提供などさまざまな活動を進めていく中で、「インパクト雇用」が私たちの活動を支える重要なフレームワークだと考えています。

「インパクト」雇用とは、一般的な採用方法では就労の機会が得にくい人々を雇用対象にすることで、会社や組織に変革をもたらす、あるいは社会貢献を目指す、新たな雇用の形です。私たちは、インパクト雇用を日本社会の中で広めるために、セミナー開催などさまざまな発信をしており、今回は「インパクト雇用」の1つ「インパクト・ソーシング(=業務委託モデル)」の事例をご紹介いたします。

グラミン日本は、この「インパクト・ソーシング(=業務委託モデル)」手法を取り入れたBPO事業※を運営しています。

※BPO=ビジネス・プロセス・アウトソーシング。業務の一部を外部委託すること。

このBPO事業の一環で、対外的に使用する資料の制作業務を一部受託するという、新たな取り組みに今回挑戦しました。2023年12月に連携協定を締結したauフィナンシャルグループ(以下、auFG)様から依頼を受け、パワーポイントで資料を作り上げるという業務です。

グラミン日本が運営に関わったデジタルスキル研修を修了したシングルマザー3名に、学んだスキルを実際に活用してもらうことや、さらなるスキルアップ、今後の仕事につなげてもらうことなどを目標とした取り組みでした。

今回は業務を担当した3名のシングルマザー、作業のディレクション業務を企業プロボノとして担当していただいた、アドバンド株式会社の2名に、業務に関する具体的な内容や、作業を完了して無事に納品できた心の変化などを尋ねました。

インタビューに参加いただいた5名

<シングルマザー3名>
■富田 あやの さん
■仲村渠(なかんだかり) 睦 さん
■大城 彩夏 さん

<アドバンド株式会社>
■鳥居 陽平 さん
■日野 悠月 さん


「お帰りなさい」が言える環境をつくりたい!

――今回の業務に参加する前の状況や、なぜ加わったのかという動機を教えてください。

仲村渠:私は化粧品の製造や研究開発を行う正社員として働いていますが、私の帰宅時間が遅い為、子供たちに「お帰りなさい」が言えない状態なんです。これではまずいと思っていろいろ考えたときに、在宅ワークで家にいられれば、子供が学校を休みたいと言った時に、いいよと答えてあげられるなと思ったのがきっかけです。
パワーポイントを使ったことはありましたが、仕事にできるレベルかは分かりませんでしたし、またデザインに関してもまったく学んだことがなかったので、とても不安でした。

自宅で作業をする仲村渠さんの様子

大城:私は事務の仕事をしていて、 空き時間を利用して収入アップしたいと考えていました。在宅ワークをするための学習を始めて、このプロジェクトにも挑戦しました。当時は、プロから技術を学べるという期待がありつつ、自分にできるんだろうかという不安もありました。

自宅で作業をする大城さんの様子

富田:私は子供や両親に時間を合わせていて、正社員としてフルに働くのはちょっと難しかったんです。ずっと前からコールセンターの仕事をしているのですが、下の子がこの3月に大学を卒業したので、老後のことも考えて、長く働けて、できたら自宅でできる仕事をしたいと考えたのが動機です。
デジタルスキル研修では最初何もわからなかったので、ご迷惑をおかけしてばかりでしたが、もう進むしかない、やるしかないという気持ちで挑みました。

自宅で作業をする富田さんの様子

――アドバンド様は最初どんなお気持ちでしたか。

鳥居: 当社はデザインやライティングを手がけていますが、業界のなかでは珍しく、未経験者も採用しているんです。なので教えるためのプログラムや経験は持っており、心配はそこまでありませんでした。
ただ、当社に入社してくる未経験の若手たちはデザインに興味があって来ますが、今回は必ずしもそうではなかったので、教え方や伝え方に工夫が必要だというのは、やり始めてから気づいたことでした。

時間のやりくりに苦労しつつ着実に成長

――何十枚かあるスライドを3人で分担して作り、大城さんがそれを合体して最終調整したと聞いています。実際にやってみて、いかがでしたか?

富田:私は元々のコールセンター業務もあり、時間配分に苦労したのと、前半は「できない自分」に苛立ちがありました。1つの作業に時間がかかり、焦るばかりで辛かったですね。

でも、できあがったスライドを見たときは嬉しくて嬉しくて。今でも涙が出ます。3人でチームを組んで、助け合ったり、気持ちを共有できたりしたのも心の支えでした。私が「もう無理」とチャットで送ると、2人も「もう無理」と返してくれて、私だけじゃないと思えたり(笑)

仲村渠:私は初めてのことばかりだったので、 すべてが学びで、自分の成長になるのがうれしかったです。たとえば、デザインについてはまったく知らない世界だったので、見方が変わりました。時間配分も「これ一つ作るのにはこれくらいの時間がかかる。だから家族の予定を入れないようにしよう」と考えられるようになったり、そんな点も成長できました。

大城:前半は期限内に終わらせることに必死で、楽しむ余裕は全然なかったです。しかも経理の資格取得に向けて夜間の受講も別にしていたので、 週末や夜中も作業して大変でした。

乗り越えられたのはアドバンド社のお二人の丁寧なサポートがあったのと、やはり一緒に作業してくれた仲間がいたからだと思います。後半はスピードもあがって成長できたと思います。広告のチラシを見てデザインのズレが気になるようになったり、何を伝えようとしているのか考えられるようになりました。

今後の独立を意識した工夫

鳥居:皆さんのスキルアップが感じられたのはもちろん、完成にたどり着けたのは、私としても大きな喜びでした。

パワーポイントそのものの完成度を高めることはもちろん必要ですが、そこに至るまでのコミュニケーションやプロセスが、顧客満足度に大きく影響するんです。パワーポイントの出来はよかったけど、やり取りがぶっきらぼうで打ち合わせしづらいといった様子だと、リピートにはつながらない。

ですので、今後当社が間に入らなくなって、皆様が独り立ちしていく時のことを考えて、お客様とのやり取りをできるだけ見える化することを意識しました。我々がどんなことを考えて、どういうやり取りをauFG様としているのか。パワーポイントの修正指示の理由なども、明文化してお伝えするようにしていました。

プロジェクトリーダーの鳥居さんと日野さん

仲村渠:今後全部1人でしなければいけなくなったときには、形に残してくださった今回のやりとりを参考書にして、取り組めたらと思っています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
後編では5人のインタビュー続きと、auFG様の本件ご担当者様からお寄せいただいたコメントと、グラミン日本でBPO事業を推進する担当理事から本事業にかける想いをご紹介いたします。


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