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食品からフレーバーを抽出する工場を日米で営む家業をもつ、大﨑雄平さん

家業があって、それを自分に合った形でサポートしたり、進化させたりしている人のことを、僕らはグラフトプレナーと呼んでいる。いったいみんな、どんな活動をして、どんな毎日を送っているんだろう。今回は食品からフレーバーを抽出する会社を日本、アメリカで営む家業をもつ、大﨑 雄平(おおさき・ゆうへい)さん。

プロフィール
お名前 :大﨑 雄平(おおさき・ゆうへい)
家業:日本とアメリカにある食品からフレーバーを抽出する会社の経営
現在 :日本酒メーカーWAKAZEのパリ醸造所で商品作り

フレーバーを作る家業

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大﨑さんの家業は抽出、分離、濃縮、発酵という四つの技術それぞれに特許を持っていて、それらを使って食品加工品の原料になるフレーバーを作っています。工場は日本にふたつ、アメリカにひとつ。全てBtoBで食品メーカーに提供しています。

「フレーバーと言われても想像しづらいかもしれませんが、抽出の分野では、鰹節を例にとってみると、その味わいや香りは抽出物として保存していた方が圧倒的に効率的だし味わいも綺麗にでるので、鰹節を使った加工品を作りたい企業に需要があります。濃縮という分野だと濃縮還元ジュース。濃縮は、基本的には水分を抜くことを指すのですが、それによって容量が減って移動が楽になる。火を加えただ水分を蒸発させると、香りや味わいが飛んでしまいます。膜を使い圧力の差で水分を抜く技術によって味わいや香りを損なわずに濃縮還元が可能となります。そういったことをしている工場を経営するのが、僕の家業です」

出身はアメリカ

アメリカにある工場の近くで大﨑さんは育ちました。フレーバーの原材料となるフルーツや野菜に囲まれた環境で、小さい頃は農家の方と一緒に収穫をしたり、幼少期には自分のクラスの皆んなが工場に社会科見学に来た経験もあるそうです。「父親が開発しているプロダクトを家に持って帰ってきて試飲したことをよく覚えています。新作のサイダーを飲ませてもらったりだとか。プロダクトを生み出す父の背中を見て育ったので、ものづくりの仕事が楽しそうだと小さい頃から感じていました」

日本の強みは食文化 パリで日本酒作り

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今のところ家業を継ぐ意思はない大﨑さん。仮に自分が継ぐとしても、そのまま家業という守られた環境に入ってしまうと他のことを何も知ることができないと学生時代に考えました。アメリカで育ち、同級生とコミュニケーションを取る中で海外での日本の存在感が薄いと感じた大﨑 さんは、日本の強みとは何かを考えるようになっていきました。思索の結果、彼は日本の食文化を海外の人に伝えられる仕事を探し、WAKAZEに就職します。「日本の食文化は世界でも誇れると思いましたし、家業の背景もあって食に携わる仕事が自分に合うと思っていました。その中でもプロダクトを自分で生み出せる就職先を探そうと決めて、日本酒を作っているWAKAZEへ。WAKAZEは求人を出していなかったので、直接経営陣のひとりに連絡をして、フランスで働きたいと無理やりお願いして採用してもらいました。日本酒が何なのかは、日本人はそれなりに知っていますが、海外では日本酒を指すSAKEについて知っている人は少ないため、その定義から教えなければならない。それくらい日本の食文化が浸透していない場所でこそ、それを伝えていきたいという気持ちが強かったんです」

WAKAZEでのしごと

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WAKAZEでの仕事は、商品づくりに加えて、現在はクラウドファンディグに挑戦するなど幅広い分野をまかされています。「僕たちは地産地消を目指しフランスの原料を使ってSAKEを作っています。フランスの水は日本に比べてとても硬く発酵を進めてしまうので、それをどうコントロールするかなどの難しさがあります。さらに日本酒用の精米機がフランスにはないため、お米の成分構成も大きく変わってしまう。これもまた発酵に影響を与えます。全く違う環境でSAKEを作るというチャレンジに、試行錯誤しながら向き合っています」

この仕事での一番の喜びを尋ねると、自分でコンセプトから考えて醸したお酒が最終的にお客さんの元へ届いて飲まれる瞬間だとのお答え。すでに売り切れていますが、日本でもオリジナルのSAKEを作ったことがあるそうです。「日本酒は水で仕込むのですが、その水の一部を鰹節と昆布の合わせ出汁に変えて仕込みました。飲んだ瞬間の口当たりは昆布由来の甘みが入ってきて、その後、鰹節のスモーキーな香りがふわっと広がるお酒です。いままでにないお酒を作ろうというコンセプトで作りましたが、飲んでくれるお客さんの反応を見るのが楽しかったです」

自分がつくったお酒と家業

同じ食に携わる仕事をする者どうし、作ったプロダクトに対するお父様のフィードバックは的確で、妥協のないものが飛んできます。
「自分が出汁のお酒を作ったときには、父親に『鰹節は出汁抽出のみだと香り弱く、お酒の発酵が進むにつれて香りが飛んでいってしまうのでないか?鰹節の香りをどうの様に表現するのか?』と聞かれて、その質問をきっかけに鰹節の出汁以外の使い方なども考えました。自分で一から作ったオリジナルのお酒を両親にプレゼントすると、難癖をつけてきたりもしましたが(笑)なんだかんだで自分の息子が作ったプロダクトにすごく喜んでくれました」

食品を通して喜ばれるプロダクトを生み出したい

期せずして同じ業界に足を踏み入れたご自身と、家業とのあいだにはまだまだ絶妙な距離感があります。
「祖父は継がせたいと言っていたようですが父はどちらでも良かったようで、次男の僕も含め兄弟三人とも今は自由に就職しています。僕自身は家業の事業内容に興味がありますが継ぐことはまだ考えていないので、これから先は日本酒に限らず食品を通してお客さんに喜ばれるプロダクトを自分で生み出していきたいです」

違う業界でありつつ、専門領域がかぶっているからこそ親子でありながらお互いがプロとしてコミュニケーションをとれるのはグラフトプレナーならでは。大﨑さんが作った日本酒からは、食に関わる家業が与えた影響も香ってくるのかもしれません。



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本記事の内容・表現は、取材当時の"瞬間"を『家業エイド』視点で切り取らせていただいた、あくまで家業を通して皆様が紡いでいる物語の過程です。皆様にとっての「家業」そして「家業との関係性」は日々変わりゆくもの。だからこそ、かけがえのない一人一人の物語がそれを必要とする誰かに届くことを切に願っております。

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