プランターを発明したメーカーを家業に持つ、芹澤孝悦さん
家業があって、それを自分に合った形でサポートしたり、進化させたりしている人のことを、僕らはグラフトプレナーと呼んでいる。いったいみんな、どんな活動をして、どんな毎日を送っているんだろう。今回は、プランターを発明した会社を家業にもつ芹澤孝悦(せりざわ・たかよし)さん。
プランターという言葉を作った祖父
画像:PLANTIO会社資料より抜粋
おじいさまが日本で初めてのプランターを作り、そのプランターという言葉を作ったご本人だという芹澤さん。その家業との距離は初めはあまり近いとは言えなかったようです。
「小さい頃の思い出はいじめられたなぁということくらい。社長の息子だとからかわれたりして、あまりいい思い出はありませんでした」
家業を継ぐことを熱心に進めたのはおばあ様。
「たかよしくんは三代目だからちゃんと勉強しなきゃね、と言われました。受け流すも何も、無視ですよね。家業を継ぐことは眼中にありませんでした」
家業との縮まらない距離
家業に背を向けて芹澤さんが目指したのはジャズの道。大学も著名なジャズプレイヤーを排出しているという理由で選び、頭の中はジャズ一色でした。将来もジャズプレイヤーになることだけを考えていた頭の中に、ふと疑問がよぎったのは、初めてステージにたった夜のこと。
「横浜でジャズを演奏する機会があって、バンドにギャラが5000円出たんです。でもそれをメンバー5人で割ったら1000円。交通費だけで消えてしまうことに驚いて、音楽の食えなさに驚きました。就職しなければ、と思って就職先を探し始めました。もちろん、家業以外で」
募集をしていた着信メロディーを作る会社に就職した芹澤さん。得意の音楽と好きだったコンピューターを扱う天職でした。
「めちゃくちゃ楽しかったですね。サウンドディレクターからプロデューサーとしてサイトを立ち上げたり、エンタメ業界ど真ん中の人たちと一緒に仕事をしたり。映画、テレビ、レコード会社など様々な業界の人たちと働きました」
天職のような仕事のことも、家業をやっているお父様やお母様には全く話さず、距離は遠いまま。ある時転機が訪れます。
家業に目を向けた転機「父親が倒れたんです」
「28歳の時に父親が倒れたんです。死にかけて......もう死んだと思いました。一命をとりとめて現在も生きているんですけど、その時の母親の姿が忘れられなくて。もともと家業を手伝っていた母親なのですが、足が悪いんです。父が危ないという時に足をひきずって仕事にいく後ろ姿を見ていたら、僕でなくて誰がやるんだ、と思いまして。大好きな仕事をすっぱり辞めたんです」
そこから、芹澤さんの家業との戦いが始まりました。
「最初は平社員の営業から始めました。既存社員からは激しい反発、ハレーション、いじめ。あんたのいうことは聞かないから、とはっきり言われたこともあります。僕が家業に入ったのは2008年でしたが、当時会社のホームページもインターネットにつながったパソコンもない状態でした。あいつは何をやっているんだと言われながら、コーポレートサイトを作って、企業と顧客向けのサイトをそれぞれ作って。できることは全部やりました」
さらに、仕事を進めるうちに家業の課題も見えてきました。
「親父は根っからのアナログ人間の元カメラマン。祖父がプランターを開発したところからずいぶん遠いところまでいってしまっていました。ビジネスのやりかたがわからないままバブル時代の波に流されて必要のないところまで事業を広げてしまっていたんです。目先の儲かることに手をだして、造花でできたインテリアを作っていることを知った時には大至急やめるよう掛け合いました。会社のメーカーとしてのポジションを真っ当なところに戻すことを始めました。事業を整理して、会社と社員にそれぞれ目標を持ってもらい、人事評価制度を入れました」
家業のコンセプトを踏襲し、
手段をアップデートした別会社を起業
画像:PLANTIO会社資料より抜粋(右から二人目が芹澤さん)
家業本体の事業があるべき状態になったのを見届けて、芹澤さんはもうひとつ新しいチャレンジを始めました。知人の紹介で知り合った孫泰蔵さんらと一緒に、PLANTIOというスタートアップを立ち上げたのです。そこで現代におけるプランターを作り始めたのです。
「祖父はプランターのことを命のゆりかごと呼んでいました。物理的な機構で水と空気が循環するそのプランターは、ひとびとに緑と触れ合う機会を与えたんです。僕が現在手掛けているアーバンファーミング(都市農)をするためのプラットフォームサービス『grow』は、そのコンセプトを踏襲して、手段をアップデートさせたものなんです」
画像:grow公式ウェブサイトより引用
『grow』は、「楽しく育てて、楽しく食べる」をコンセプトにIoTやAIを取り入れた野菜栽培のプラットフォームで、センサーが野菜栽培をアプリを通じてサポートしたり、同じように野菜栽培をしている人とつながることでき、提携レストランに持ち込んで一緒に食べることもできます。
画像:渋谷未来デザインHPより引用
「海外では当たり前になっている”FARM to TABLE”という育てるだけではなく、食べるところまでをサービスにしたのが『grow』の特徴です。それ以外にも、誰がどこで何を育てているのかを地図上で見ることが出来、さらにセンサーから取れたデータをその地図上にプロットするとこでソーシャルグッドなインパクトが可視化されている『grow SHARE』などエンターテイメントの要素を取り入れました。楽しい方が、いいですからね」
そして、外出がしづらくなった世相がこのプランター事業を後押ししているのだと語ります。
「こういう世の中になって、既存の仕組みが崩壊した時に真っ先に困るのが食だとみんな気づいたのでしょう。野菜栽培を始める人は急激に増えました。世界で進むアーバンファーミングが日本で当たり前になる時に、そのインフラを整えておくのが僕の役割だと考えています」
プランターに向き合うことで、かつて距離をおいていた家業をもう一度解釈し、現代の社会に提案している芹澤さん。奇しくもおじい様がプランターを世に広めたのは前回の東京オリンピックの時だったのだとか。もう一度オリンピックを迎えようとしている今、芹澤さんが再定義したプランターが産声をあげています。
(執筆:出川 光)
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