家業というより家そのもの、だからこそ打ったコロナ状況下における製麺業の守りと攻めの施策
創業62年目を迎える、麺の卸売をおこなう丸山製麺を家業に持つ丸山 晃司(まるやま・こうじ)さん。ネット系ベンチャー企業を経て家業を継ぎました。今、この難しい状況のなかで彼が打った施策について聞きます。
──まずは家業について教えてください。
家業は創業62年の製麺業、丸山製麺です。僕が中学生の頃までは工場兼自宅でした。1、2、3階が製麺所(工場)で4階に住んでいました。やっぱり麺食は多かった気がしますね(笑)両親とも忙しかったので学校の迎えは従業員の方が来てくれることも多かったですね。
──家業の思い出はありますか?
子供の時から会社の旅行や忘年会にはすべて出席していました。製麺組合で旅行に行く時もついて行っていましたし、そういった環境で育ったので家業というよりは”家そのもの”という感覚が強いです。家業を継ぐ、というより、家に戻る、という感覚です。
30歳で辞めると宣言してネット系ベンチャー企業で働いた経験
──正式に継ぐことになったのはいつですか?
2018年に家業である株式会社丸山製麺に入社しました。就職活動の時に「30歳で辞めるのでそれまでに一番成長できるところを探しています。」と宣言していた事もあって、キャリアの描き方は会社も配慮してくれました。デメリットは出世しづらい事ですが、逆にいうと8年間は必ず会社にいる人材であるとも言えると思います。むしろネット系ベンチャー企業
で8年間は長い方なのでそういった意味では会社としては損をしない存在だったと思います。会社では家業に戻る時必要になるであろう、営業、新規事業立ち上げ、営業統括などを担当させて頂いておりました。。宣言通り30歳で辞めて、家業の会社に入社しました。
──入社してからはどんな仕事をしているのでしょうか?
入ってからは半年間は製造をしていました、定時は午前4時から午後2時でした。小さい頃から家業のことを意識していましたが、取引先ことや麺の専門用語などを知らなかったのでその半年間で勉強しました。その後、新規事業とバックオフィス、既存のセールスを伸ばす仕事をしています。
──新規事業ではどんなことをしていますか?
それが難しいところで、もともとIT系の企業にいたので通販などを考えていたんですが、なかなか社長(父)と意見が合わず…。
──家業あるあるですね。
法人向け×リアルの領域で商売をやってきた会社ですから、個人向け×通販というのはリスクだよね、という話になりました。他に考えられる展開としては生産側か、小売側(店舗)か、今やっているビジネスを横にずらす形で今の機械を使ってパンを作るとか、海外に行くとか、またはチャネルを変えて通販を始めるくらいの選択肢しかなくて、その中で社長からOKが出たのが店舗をやることでした。結果、錦糸町にあるうどん居酒屋をM&Aしましたが、新型コロナウイルスの影響もあって日々店舗運営の難しさを感じています。
コロナ状況になってから打った守りと攻めの施策
──新型コロナウイルス影響が出てからのお話を聞かせてください。noteに書いてあった守りと攻めの施策に関してですが、もともと二つ分けて考えていたのでしょうか?
中小企業では、まず助成金や銀行回りのやり取りをしなければなりません。これが守りの施策です。一方で、うちの家業は製造に関わる社員ががほとんどで、営業やマーケティングという部署があるわけではないので攻めの施策も僕が両方考えなければならなかったんです。
──新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出てお父様と話し合いましたか?
どうしようね、という話はしましたね。ある程度未来を想定しながら先のことを話し合いました。
──守りの施策としてされた助成金や借入に関して教えてください。
とりあえずやれることは全部やりました。大きく分けると、日本政策金融公庫・大田区から借入、持続化給付金の支給、雇用調整助成金の三つなので、この三つ全てを申請しました。
──それはご自分で情報収集されたのでしょうか?
そうですね。周りで起業している知人や家業を継いでいる知人も多かったので、横で連携を取って共有していました。ネット系で働いてから家業に戻った人も多かったので迅速に情報は集まりました。
──申請はスムーズに通りましたか?
税理士さんや社労士さんに協力してもらわないと厳しい部分はありました。雇用調整助成金がすごく難しくて、それ以外は比較的に区役所側や銀行側も割とスムーズだった印象です。郵送でも対応してくれるので、修正等は面倒ですが、直接、役所等に行かなくても済むのはありがたかったですね。
──守りの施策で家業を持っている人や、まだ何かできていない人にアドバイスはありますか?
借入をおこなってまで家業を存続させるかどうかがカギだと思っています。今回、お金をもらえるタイプの補償は多くなくて基本的には借入中心なので、それをどう捉えるかが大事になってきます。存続させるのであれば借りたほうがいいし、存続しないのであれば無理して借りる必要はないと思います。家業を持っている人は悩むポイントだと思いますが、借りないなら借りないで清算するためにどうすべきかを考えるべきだと思います。うちの場合はこれからどうなるかが不透明だったが、存続させると決めたので借りました。
攻めの施策はEC化。新規事業にお金をかけないでミニマムで始めるのが自分流
──今回借り入れしたお金は新規事業に使うことも考えられますか?
いいえ、現状ありません。借入の話とは別で、新規事業を立ち上げるにあたりキャッシュを最初に突っ込むものは避け、まずはミニマムでスタートをして、PDCAを回しつつ成長させ、いけそうだったらお金を突っ込もうという考え方です。なのでコロナが落ち着き、新規事業が伸びてきたらそこに投資するのもありです。
──それはもともとネット系ベンチャー企業にいたことが影響しているのでしょうか?
その影響は大きいと思います、それぞれの経営スタイルの違いですよね。
──攻めの施策で通販を選んだのは何故ですか?
それしかなかったという感じです。社員食堂や駅の中の蕎麦屋さん・ラーメン屋さんに卸していましたが、やはり新型コロナウイルスの影響をかなり受けています。一方で製麺業の場合、コロナの状況下で唯一伸びているのがスーパーや宅配でした。しかし、スーパー用の麺を作るには衛生基準や工程、機械に違いがあり参入障壁が高すぎたので通販を選びました。
もともと友人から注文を受けた時のために通販サイトを作っていたので、そのサイトをリニューアルする形で個人のお客様に向けて通販を始めました。
親がわからない未知のことをはじめるには、既知になるまで勝手にやること
──先ほど、お父様は通販には反対されていたと聞きましたが、この状況下だからOKが出たのでしょうか?
社長は厳密にはよく理解しきれていないというのが正しいですね(笑)僕たちにとっては通販やネットは身近なものですが、やってこなかった人にとっては未知なるもなので、親にとっては見えないリスクが大きいみたいです。やってからある程度見えてきたら、こういうものだと見せられるし理解してもらえると思います。また、テレビなどで「通販で麺が売れている」と知ってチャンスがある領域だと少しづつ理解してくれています。
──言わないまま小さく始めてみるのは良いアドバイスかもしれませんね。
そうですね。新しいことを始める時、コストをなるべく抑えるのは、ある程度勝手にやるためでもあります。例えば始めるのに100万円かかるとすると、その100万円を投資する意味があるのかどうかという話になってしまい、論点がずれてしまいますよね。
──通販はやってみてよかったですか?
やってよかった方かなと思います。3月は注文数1件だったのが、4月は約300件になりました。5月は1,000件弱まで発注を頂いております。売上インパクトだけでなく、コロナ影響で社内が暗い雰囲気だった部分もあるので、伸びている領域があると見せられたことはすごいプラスになったと思います。
まわりに意見をきいたりコラボをしながら家業を大きくしていく
──家業を持っていて手伝う、グラフトプレナーにアドバイスはありますか?
まわりによく相談することが大事だと思います。僕の場合は自分の考えていることやアイデアを家業を持っている仲間、前職の仲間、同業者、取引先などに相談してフィードバックをもらい、修正を重ねつつを実行することを大切にしています。今回始めた通販では麺のパッケージなどを改善しました。そして、自分だけで考えないでコラボレーションするのも一手だと思います。一社でできることはたかが知れているけれど、コラボレーションしながら商品づくりをしていけば、それぞれの会社にとっては普通のことでも、世間からすれば特別なものが出来るかもしれませんから。
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本記事の内容・表現は、取材当時の"瞬間"を『家業エイド』視点で切り取らせていただいた、あくまで家業を通して皆様が紡いでいる物語の過程です。皆様にとっての「家業」そして「家業との関係性」は日々変わりゆくもの。だからこそ、かけがえのない一人一人の物語がそれを必要とする誰かに届くことを切に願っております。
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