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123年続く呉服店。職人を守るため、横から手伝う──Sayaka Botanic

「家業を継いでいないのだから、家業は自分に関係のないこと」「社会に出て企業で働いているから、家業について考えたこともない」。こんな常識を一度疑ってみよう。家業と無関係に思えるあなたの今のキャリアや選択してきた仕事も、ひょっとすると家業のバックボーンがあるからこそなのかもしれない。

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今回インタビューするのは、アーティストのSayaka Botanicさん。実家は老舗の呉服店を営んでいる。

プロフィール
名前: Sayaka Botanic
年齢:非公開
家業:呉服店
代:5代目
事業承継:ない
現在:アーティスト

赤ちゃんの時も子供時代もお店で過ごした

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──まずは家業について聞かせてください。

私の家業は横浜にある123年続く呉服店です。結婚がきっかけで横浜に出てきた高祖母が、当時近くにあった製糸工場の女工さんむけにお教室を始めたのがきっかけなんだそうです。お花やマナーなどに加えて、着物の着付けも教えるサロンのようなところで、その生徒さんたち向けに着るものを売るお店を始めたのが「いわきや」さんの始まり。当時は誰でも着物を着ている時代だから、そのまま軌道にのっていきました。

──女性が事業を始めて、サロンをやるって当時の時代背景を考えるとすごいですね。

少し革新的だったのかもしれません。その後、祖父母の代、私の両親の代と続いて、今度私の兄が継ぐことになっています。

──着物のありかたは創業当時からずいぶん変わりましたよね。家業にも紆余曲折あったのでしょうか?

ありましたね。着物を着る人はどんどん少なくなっていきましたから。祖父が亡くなった時に借金と相続税を合わせてとんでもない額の負債ができたこともありました。

──それ、どうしたんですか?

両親が頑張って返したんです。時代の変化に合わせて、10年くらい前からレンタルに切り替えたんです。これが結構うまくいったみたいですね。今は、卒業式と成人式の着物レンタルと一般呉服の2つの軸でやっています。

──家業の思い出はありますか?

家業ありきで育ったのを覚えています。家の一階が本店で、歩いて15分くらいのところに支店があって。支店にいる祖母のところにいつもいましたね。赤ちゃんの頃は母が私をおぶってお店にでていました。上顧客の方の接待の時に着物を着て参加したのも覚えています。

イギリスに留学しても、着物の手触りでつながっていた

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──家業を継ぐことを考えたことは?

ないですね。兄のための家業だと思っていましたから。進路も自分の好きなように、高校生を卒業したと同時にイギリスに留学しました。当時、アレキサンダーマックイーンのショーに衝撃を受けたことで、ファッションの道に進もうと思って。家業とは正反対の選択でした。

──留学先で着物に親しむようなことはあったのでしょうか。

羽織をコーディネートに取り入れたりしていました。でも、可愛いからという理由だけで、あまり家業や着物のことを考えることはなかった気がします。

──家業から影響を受けていることもなかったんですか?

それはかなりありました。洋服を作りたいと思って留学したけれど、パターンや服を作るよりも素材を作る方が楽しくて、得意で。最終的にはテキスタイル学科に進みました。さらに色々あって今音楽や映像をやっているわけですが、音楽を始めた時にそのテクスチャーを求めていた感覚が戻ってきたのを感じました。クリーンで平らな音よりも、ぼこぼこ、ざらざら、ごわごわした音や映像を良いと思ってしまうんです。たどっていけば、それが小さい頃に無意識に見たり触ったりしていた着物の質感なんだとわかりました。

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──そのことを、ご両親は気づいていたのでしょうか?

テキスタイル学科に入った時くらいからなんとなくわかっていたでしょうね。「全然関係ない道に進んだように見えてやっぱりね」という感じで。

継ぐのではなく、横から手助けするように家業に関わっていくかもしれない

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──着物の手触りに思い入れがあるなら、家業に関わる可能性もありそうに思えます。

実は、それもいいなと考え始めたところなんですよ。メインの経営などではなく、布を作っている職人の方の思いや歴史を伝えたりするような役割で。最初のほうに、レンタルと一般呉服のふたつをやっているとお話しましたが、兄が主流になりつつあるレンタルの事業や経営をやって、私が一般呉服の方をほそぼそとやっていくようなイメージも最近持ち始めるようになりました。やっぱり職人の方の現場を見たりお話を聞くと伝統を守りたいなと思ったり、絶やしたくないなと思う美しい織物がたくさん日本にはあるんです。
10年後か、20年後かわからないし、今ある家業とは別のラインになるかもしれないけれど、何かの形で手伝うのもいいなと思ったりしています。

(撮影・執筆 : 出川 光)



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本記事の内容・表現は、取材当時の"瞬間"を『家業エイド』視点で切り取らせていただいた、あくまで家業を通して皆様が紡いでいる物語の過程です。皆様にとっての「家業」そして「家業との関係性」は日々変わりゆくもの。だからこそ、かけがえのない一人一人の物語がそれを必要とする誰かに届くことを切に願っております。

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