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家業を潰したくなかったから、起業家になろうと思った──起業家・井出 飛悠人

「家業を継いでいなければ、家業はまだ関係ないこと」、「サラリーマンとして働いているから、家業は関係ない」。こんな常識を一度疑ってみよう。家業と無関係に思えるキャリアや今の仕事にも、ひょっとすると家業がいきているのかもしれない。

今回インタビューするのは、起業家の井出飛悠人さん。実家は長野県で種苗会社を営んでいるが、自身は東京のど真ん中で会社を経営している。一見家業と今のキャリアは全く関係ないように思えるけれど、実は彼のキャリアには家業のエッセンスがたっぷりつまっているようだ。

プロフィール
名前:井出 飛悠人(いで・ひゆと)
年齢:22歳
家業:種苗会社
代:4代目
事業承継:関わりたいが、未定。
現在:農業の課題をシェアリングエコノミーで解決する事業「シェアグリ」代表取締役、ガイアックス社員

まずは、彼の家業の話から、現在のキャリアについて聞いてみよう。

「ひゆとは戻って来なさいよ」。
家を継ぐために戻るのが当たり前に期待されていた。

──家業はなんですか?

家業は長野県佐久市で種苗(しゅびょう)会社をやっています。種や苗を農家さんやJAさんに売っている仕事です。150年くらい続いている会社で、曽祖父が創始者で、現在はパートの方を合わせると20名くらいが働いてくれています。

──家族経営なんですね。ご自身も家業を継いでほしいと言われたことはありますか?

長男なので、「継ぐよね」みたいな雰囲気は強かったです。
祖母には直接「ひゆとは戻って来なさいよ」と圧をかけられていましたね(笑)

──けっこう強い圧ですね(笑)。でも、ご自身は今起業されているんですよね?

はい。農業系の人材事業で、「シェアグリ」という会社をやっています。農業をしてみたい方と、特に繁忙期などに人手を必要とする農家の方をマッチングする事業です。

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ピッチコンテストで、家業のストーリーが思わぬ武器に

──どんなきっかけで起業することになったんですか?

大学生の時、株式会社ガイアックスがやっていたシェアリングエコノミーをテーマにしたピッチコンテストがあって、それに参加して出資して頂くことになったんです。それがきっかけでこの事業を始めることになりました。

──ピッチコンテストって、どういう感じなのでしょう。

ひとりずつ事業についてのプレゼンテーションをして出資を得るというものです。実は、家業のことを話したんですよ。

──そうなんですか!どんな風に?

農業系の事業であることもあって、なぜこの事業を始めようと思ったかのストーリーを家業のエピソードを使って伝えました。また、実家のリソースを使えることがアピールに繋がると思い、それも話しました。

──反応はどうでしたか?

感触はよかったなと思います。家業というストーリーがあることで、ただ事業をやりたいだけではなく深みが出たのではないかと思います。

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起業家になることと、家業を継ぐこと

ストーリーや事業の必然性をアピールするピッチコンテストという場で、家業を持っていることやそれに関連する事業をやりたいという思いは、プラスに働いたようだ。ここからは実際に起業してからのエピソードや家業との関わり合いをもう少し掘り下げてみよう。

──起業をすることは、家族からはどんな反応だったのでしょう。

大変さがわかるからこそ「やめておきなさい」と言われていました。起業が出資を受けて始まる形だということも理由のひとつで、家族にはなかなか理解されませんでした。家業は家族以外に株を持っている人がいない家族経営ですから、他に株を持っている人がいることはリスクだと受け取られてしまったんです。社員の生活を守ることや、失敗すれば借金を背負いながら路頭に迷う覚悟があってはじめてできることなのだと強く忠告されました。厳しいなと思いましたけど、そういう経営者としての話を聞けるのは、やはり家業を持っているからこそのメリットだと思います。

──起業を決心したのは大学生の時だったんですよね。その時家業についてはどんなイメージを持っていましたか?

最初はあまり、プラスではなかったですね。特に大学1、2年生の頃は、前向きに捉えられなかったです。自分の道が決められてしまっているような気持ちが強かったですね。自分の30年後はお父さん、60年後はおじいちゃんを見ればわかってしまうというのが嫌でした。

──気持ちが変わったきっかけは?

起業をしようと思い立ち試行錯誤しているうちに、自分の家業を生かして起業するべきだという思いが芽生えて、家業があるというのは自分の強みだということに気づき、気持ちが変わりました。ゼロから始める人と、家業というバックグラウンドやつながりを持っている人だったら、後者のほうが強い事業を作れると思ったんです。

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いつか家業を助けたいという気持ちが、僕を起業家にしてくれた。

──なるほど。起業をするにも家業がアドバンテージになるということなんですね。

そうですね。それに、変な考えかもしれないけれど、実家があるから失敗できるというのはあるのかな、と思っています。経済的な意味で。さらに、事業が失敗したとしても、自分が持った知見を活かすこともできると思っています。それに、家業があるからこそ起業をしているという側面もあるんです。

──というと?

僕が起業したのは、根底に、いつか家業を助けたいという気持ちがあったからです。家業について改めて考えた時、10年後も今まで通りの経営をしていては潰れてしまうと思ったんです。大学を卒業して、何も経験がない僕が10年後に実家を継いでも潰すだけ。それは嫌でした。だからこそ、僕自身が成長しなければいけないな、と考えた時に、まず一社自分で起業し、経営してみて経験を積もうと思ったのです。はじめは足かせのように思えていた家業が、起業のきっかけをくれたのです。


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