人は見かけによらない
以前勤めていた小さな会社に、時折ふらっと遊びにやってくる人がいた。
その中年男性は社長の古い友人で、Uさんという。
大柄で、やたらと声が大きかった。
履き古したスニーカーによれたTシャツという姿で突然オフィスに現れては、「ここはいつ来てもカネの匂いがプンプンするなあ!」などと、こちらがギョッとするようなことを大声で言った。
あるときは「社長、最近モテちゃって、チ⚫︎ポの先が乾く暇がないんじゃないの?」とオフィスに響きわたるような大きな声で言い放ち、若い女性社員たちを赤面させ、うつむかせていた。
社員でないとはいえ、現在であれば何らかのセクハラ事案に該当するかもしれない。
Uさんは商店街でゲーム屋を営んでいたが、以前は暴走族の総長だったらしい。
そう言われてみれば、やんちゃな人たちの人望を集めそうな雰囲気があった。
私がその会社を辞めた数年後、Uさんが書いた小説が賞を取ったと聞いた。
それは有名な出版社が主催している文学賞で、その大賞に輝いたのだそうだ。
さっそく書店に足を運び、平積みにされていたその単行本を買った。
カバーデザインもオシャレで、帯には「映画化決定!」と書かれていた。
内容は純愛を描くラブストーリーだが、終始コミカルで、あっという間に読める楽しい話だった。
帯に書かれていたとおり、その数年後には映画化された。
私はその映画を観ていないが、現在もテレビで活躍する俳優やコメディアンが大勢出演している。
今見てみたら、UさんのWikipediaページもあった。
中退こそしているが、大学では文学部だったそうだ。
「人は見かけによらぬもの」という言葉にこれほどピッタリな人はいないと思う。
見かけのみならず、その言動からも、人の能力というものはなかなかわからないものだ。
いや、「ここはカネの匂いがプンプンする」だとか「チ⚫︎ポの先が乾く暇がない」などという、私の心の中に20年以上も消えないパワーフレーズを残していったわけだから、見る人がみればそのワードセンスに気づいたのかもしれない。