
横尾忠則さんにお会いした話
横尾忠則さんの展覧会に「顔パス」で入ったことがある。
30年ほど前、女友達のTさんが横尾忠則さんのお嬢さんと親しい友人関係にあることを知った。
横尾さんのお嬢さんとは、画家の横尾美美さんである。
なぜそうなったのかという経緯をよく覚えていないのだが、あるときTさんと美美さんと私の3人で、横尾忠則さんの展覧会(*注)を見にいくことになった。
美術館の入口にいた係員さんに美美さんがひとこと「ともだち。」とクールな感じで言い、私たちはチケットなしで横尾さんの素晴らしい展覧会を鑑賞させてもらった。
(*注:そこは自分の記憶では池袋の『西武美術館』だったが、今調べてみたところ、その年には『セゾン美術館』に改称されていた。さらに、セゾン美術館の記録の中にこの年に横尾忠則さんの個展があったという記録は見つからなかった。あの会場はどこだったのだろうか……。)

画像引用元:Kiss PRESS
圧倒されるような素晴らしい作品の数々を鑑賞した後に、横尾さんの楽屋に通していただいた。
あの横尾忠則さんが目の前に座っていらっしゃる。
憧れの人に会うと、緊張や喜びだけではない、夢を見ているようなおかしな感覚になるものだ。
私は自分が持参した本『天使の愛』にサインをしていただいた。

本来であれば会場で販売されていた画集を買い、それに書いてもらうべきだったのだが、当時の私は貧乏で(今もだが)それが買えなかったのである。
横尾さんはそんなことをまったく気にかけるそぶりもなく、サインをしてくださった。
画集すら買えない私に「君、(作品を)1点買わない?」と、冗談とも本気ともつかない口調でおっしゃった。

このサインに「1936+57」とあるのは、横尾さんが最初にうっかり間違えて、ご自分が生まれた「1936年」と書いてしまわれたためである。
それを訂正するために、即興で当時の年齢「57歳」をプラスした。
つまり、この日は1993年3月21であった。
ちなみに、女友達のTさんはアコーディオン奏者で、ロシア系クォーターの美女であった。
美人ミュージシャンと横尾美美さんといっしょに横尾忠則さんにお会いするなどというのは、今から思えば私の人生の頂点のひとつだったことは間違いない。
現在の私には、そのような奇跡は何ひとつ起きなくなった。
タイトル画像引用元:Kiss PRESS