刺さない蜂(ナルト/なると/キバチ/ライポン)
「ナルト」という蜂をご存知だろうか?
黄色い毛がフサフサと生えた可愛い蜂である。
「ナルト」には毒針がないので、素手で触っても刺されることがない。
そのかわいい外見と「刺さない」という理由で、私の母校『中野区立桃園第三小学校(現・桃花小学校)』ではこれが一番人気の昆虫だった。
小学生たちが口伝えしてきた名前なので、平仮名で「なると」あるいは漢字があるのかもしれないのだが、ここでは片仮名で「ナルト」と書くことにする。
「取ってはいけない蜂だから『トルナ』、それが逆さになって『ナルト』になったのだ」と自慢げに説明する子もいたが、それが本当なのかどうかはわからない。
発音はラーメンに入っている「ナルト」や漫画の「Naruto」とは違い、「高・低・低」。「タヌキ」や「かるた」と同じアクセントである。
正式名は「コマルハナバチ」で、そのオスの個体が「ナルト」の正体であるらしい。
「ナルト」は「ナルトの木」と呼ばれる木の花に集まってくる(一般的な名は「ネズミモチ」)。
私は「ナルトの木」のある場所をたくさん知っていたから、結果「ナルト」をたくさん獲ることができ、「ナルト獲り」においては友人たちから一目置かれていた。
大人になった今でも、「ナルトの木」の花の匂いがすると「おっ、ナルトの匂いだ!」とセンサーが働く。
子供たちは皆「可愛い、可愛い」と言って騒いだが、その「可愛がり方」はずいぶん残酷なものだった。
ある子は翅を短く切って飛んで逃げないようにしておいて、机の上や筆箱の中を散歩させる。
また別の子は胴体に糸を結びつけ、「空中散歩」をさせる。糸を結ぶ際に強く縛りすぎてしまい、胴体を真っ二つに切断してしまった子もいた。
大量の生きた「ナルト」を郵便ポストに投入していた子もいた。あれは何かの犯罪に該当するに違いない。
中学生になると、学習塾で別の地域の生徒たちと友達になる機会ができた。
隣の杉並区から来ていた友達は、その蜂を「ナルト」ではなく「キバチ」と呼んでいると言った。
もっとも私が大人になってからお付き合いした杉並区出身の女性は「杉並でも『ナルト』だったよ」と言っていたから、区の境できっちりと呼び名が分かれていたわけではなさそうだ。
また、同じ中野区内でも別の名前で呼んでいる地域があるのかもしれない。
品川区、目黒区、大田区あたりでは「ライポン」と呼ぶのだという話も聞いたことがある。
大学生になると友人の出身地が一気に全国区になる。
あるとき学校の帰り道に、私は「ナルトの木」を見つけ、そこにいた「ナルト」をパッと素手で獲った。
すると一緒にいた友人は、「刺さないの!?」と言ってひどく驚いた。
「刺さない蜂」が全国的なものではないことをそこで初めて知ったのである。
どの地域のどの年代の人がこの「刺さない黄色い蜂」を知っているのか、そしてそれをなんと呼んでいるのか、とても気になっている。
どなたかが研究してくれないものかと思う。
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トップ画像引用元:身近な生き物の記録
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