at the cafe
オレ、モテないんだよね。
ワタルが言った。
そうでしょうね。
ユウコが答えた。
なんでだよ。
だって、キミ、鈍感だもん。
ユウコはコーヒーをすすった。
ポカポカと暖かいバレンタインデー、ホットにするかアイスにするか迷って結局2人ともホットにしたが、猫舌のユウコには少し熱すぎた。
キミはさ、頭が良いのに女心に鈍感なんだよ。
え、どういうこと?オレを好きなコがいるとでも?
さぁね。
ユウコはワタルから目を逸らして、コーヒーカップを持ったまま通りを見た。
何組かのカップルはチョコレートが入っているらしいデザインのショッパーを持ち、何組かのカップルは手を繋いでいた。
ユウコは言った。
あのさ、そういう可能性を考えたことはないの?つまり、誰かがワタルのこと好きだっていう。
んなわけないよ。じゃなけりゃいいコいない?なんて聞かねえよ。
そりゃそうね。
結婚したいんだよね、オレ。いい歳だしさ。子供ほしいし。
ふうん。
なんか男って結婚して一人前なところあるじゃん?
独身だって一人前の男はいるわよ。そんなふうに言うからモテないんじゃないの?
そうかな。
今度はワタルが通りを見た。
ユウコは?
別に。いないよ。
てっきり男いるんだと思ってたよ。
いないよ。
ああ、あれか?”ずっと誰かを想ってて他の人とは付き合えませーん”とかいうやつ?いい歳して片想いだったらちょっと笑う。
人のことはいいから、早く結婚しちゃいなよ。
図星か!オレなら脈のない女は忘れて次探すけどな。ま、いいけど。よっぽどイイ男なんだろうな。
そりゃあ、イイ男だよ。ピュアで、愚直で、一生懸命で、誠実で、見た目は城田優に負けるけどね。
城田優と比べんなや。
頭も良いし、走るのも早い。ただひとつだけ欠点がある。
ひとつだけか。そりゃひいき目だな。
そうかもしれない。でも聞いてよ、その欠点ていうのはね…
ワタルには、ユウコの眼が心なしか潤んでいるように見えた。
その欠点ていうのはね、女心に鈍感なんだよね。