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ハリツルマサキ

私は小学校1年生から高校3年生までの12年間、養護学校に通った。
たいていの子は無事に卒業して社会に出ていくが、中には病弱な子がいて、学校では「死」が比較的身近にあった。年に数回発行される学校通信には毎年何人かの訃報が掲載されていた。

昨日までいた子が突然いなくなる。
あの子が亡くなったという話が伝わってくると、その子と話をしたことがなくてもその場の空気が重くなり、私たち遺された子供たちは悲しいとか辛いとかというより、自分達のすぐ近くには死というものが存在していることに気づかされるのだ。

親より子が先に逝くという切ない現実に加え、そこには寮や施設に入っていて、その間際まで親と顔を合わせることのできない子たちがいた。

今、一組の親子が”その時”を迎えるために共に暮らしている。
この世の中に、人生の最期の時間を一緒に過ごせる親と子がどれくらいいるだろうか。
きっと、その母親は今世界で最も幸せな母親であり、その息子は世界一母に愛された息子である。

私は先日、その”息子”に「ハリツルマサキ」という言葉を教えた。彼がその言葉を調べたかどうかわからない。
ハリツルマサキは別名「ハートツリー」という。
小さくて真っ赤なハート型の実をつける植物で、その花言葉は「小さな幸せ」だ。
世界で最も幸せな親子に残された時間が、小さな幸福で溢れますように。

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