妄想出版「ザ・月9の本'22,3,28号音粋ヒストリア-朝妻一郎インタビューEp.4」
←Ep.3から続く
【CM】
スー)朝妻一郎さんのインタビューまだまだ続きますけれども、ミラッキさん選曲してもらえますか。
ミ)この本の中で90年代以降のアーティストも出て来るんです。ウルフルズは‘92にメジャーデビューしたんだけど、中々芽が出ずに苦戦していて’94に伊藤銀二さんプロデュースで大瀧詠一『福生ストラット』をちょっと変えて出したカバー『大阪ストラット・パートⅡ』。これは「一部ファンの注目を浴びた」ことから『ガッツだぜ‼』に繋がったと。そんなトータスさんに「バラードのとびきりいい曲作ろうよ、1曲ヒット出そうよ。バラードのヒット曲あるとアーティスト生命格段に伸びるよ」って事をずっと言い続けてる。朝妻さんは同じ人に同じ事を言い続ける。じゃまずはこの曲ウルフルズ『バンザイ~好きでよかった~』。
♪ウルフルズ『バンザイ~好きでよかった~』
【エピソード4 ヒットとはなにか これからの音楽業界これからのラジオ】
スー:最後にヒットとはなにかというのをお聞きしたいんですけど、ナイアガラカレンダーの2月と5月っていうのを大瀧詠一さんにおっしゃったり、「胸キュンで」っていうのを松本隆さんやスタッフに、あとトータス松本さんに「バラード作ろうよ」って言った。恐らく朝妻さんの中で、日本という国でヒットする要件というか感覚みたいなものが働いてると思うんですけど。
朝:トータスに「バラード作ろうよ」って言った事はもちろん自分がバラード好きだっていうのもあるんだけど、やっぱりアーティストとしてコンサートやった時に、テンポの速い曲ばっかりじゃなくてバラードが1曲あると、コンサートの構成もすごい締まるしアーティストとしてのキャリアも長くキープできんじゃないかって思ってるんで。それはアーティストとしてのウルフルズに「絶対トータス、バラードが1曲あった方がいいよ」っていう意味でも言ってんですよね。もちろんバラードのヒット曲は絶対スタンダードになるし、大きいっていう事も考えてんだけど。
スー)この本の中でも『ガッツだぜ‼』の話がありましたけど、今となってはやっぱりそれを超えて『バンザイ~好きでよかった~』で語られる所がありますよね。抽象的でふわっとしてるかもしれませんけど、今のこの話全部共通するものは「胸キュン」⁈
朝:うん「胸キュン」。「胸キュン」でどっかに今までに無い新しさがあるものっていうのが、ヒット曲の大きな要素じゃないなかあと。
スー:あまた曲を作られているんで愚問中の愚問ですけど、朝妻さんが手掛けられた曲の中で一番「胸キュン」一番「これぞ!」っていう会心の一打はなんですか?
朝:う~~~~~んまぁ~、やっぱり~~『恋するカレン』かなああ。
スー:ああー。
ミ:うーん。
朝:そうでなきゃ、『あの素晴らしい愛をもう一度』か。
スー:わかります。『あの素晴らしい愛をもう一度』はうちの母親が好きで、確かに「あ~胸キュン」って表情してましたよ。なんでしょうね(笑)あの名曲性って!確かに転調もあるイントロも凄い。歌詞もやっぱり「胸キュン」なのかな。
朝:いやいや歌詞は凄い重要。結局「胸キュン」の画竜点睛の“点”をつけるのは歌詞ですよね。
スー:うーん。モノの本見たら加藤和彦とミカの結婚の為に作られたって書いてあるんですよ。でもね、歌詞は別れの歌なんですよ。数年後の離婚を予見したような(笑)センチメンタルな歌詞ですよね。
朝:ハハ。そうですよね。だからメロディが良くてサウンドが良くてっていうのだと、今はちょっと昔のヒットの度合と違うけど、CDがある程度売れた時の事で言うと、メロディが良くてサウンドがいいと10万枚くらいまでは行くんですよ。
ミ:90年代はそんな感じでしたね。
スー:メロディとサウンドがいいと10万枚まで行く。
朝:ああ行く。でもそこを超えて50万100万と行く為には詞が良くないと。うん。
スー:それは、敢えて言うと『あの素晴らしい愛をもう一度』みたいな「胸キュン」センチメンタルでちょっと物憂げな…。
朝:ええ。北山クンの詞もよく出て来るなあと思いますもんね。
スー:ナイアガラカレンダーの2月5月以外じゃなくって。ハハ。『Rock’nRollお年玉』じゃなくって。
朝:ハハ。いや、だけどね、大瀧クンが「んなこと言って」て言うけど、やっぱり(ナイアガラ)トライアングルだって『4タイムスファン』(※『FUN×4』)があるから他の曲が活きてるってのも言えるんですよね。そこに、間に『4タイムスファン』が無くてバラードだけ続いてたら、果たしてあれだけのセールスになったかどうかってのはね。ま、ならない方が多かったじゃないかって。
スー:フッフッフッ。『君は天然色』『恋するカレン』『さらばシベリア鉄道』で終わったら、ちょっと違うハッハッハッ。
朝:そう。
ミ:シングルコレクションみたいになっちゃうアルバムってのはまた違う訳ですよね。
スー:「ロングバケーション」は楽しい曲もありますからね。私からは最後の質問です。サブスクリプションという黒船みたいなのが来て、日本のこれからの音楽出版ビジネスってどうなって行く?
朝:基本的には音楽が幅広く聞かれるようにはなってると思うんで。我々出版社としてはロングテイルでね、今までだったら中々聞くことのできなかった曲も聞かれる、しかも1回でも聞かれるとちゃんと1回聞かれた記録が取れるっていう意味では、音楽出版社にとってサブスクリプションのサービスってのは非常に有効だと思うわけ。だから逆に言うとそこをどうやって今持ってる楽曲をもう一回、あるいは同じ形じゃなくても違うアーティーストがコラボして新しい形で知らしめるかっていう努力をして行かなきゃならないのは確かだけど、まずサブスクリプションっていう仕組み自体は音楽出版社にとって非常にいい仕組みだと思うね。だから我々にとっては追い風なんで、この追い風をいかにちゃんと有効に使って行くかっていう事が課題だと思いますね。
スー:これからサブスク時代に有効に、過去の「音源アーカイブ資産」っていうのを有効に使うっていうのは、具体的にどういう事をやって行く?
朝:例えば、配信されてなかったものをなんとか配信するようにしてって事もあるだろうし、当時では考えられなかった、例えばラップていう要素、ラッパーになんかつけてもらうとか、違う国のアーティストから見たらどういう感じになるのかっていうんで、その違う国のアーティストにワンフレーズ歌ってもらうとか…。
ミ:リミックスとかナイト・テンポ。
スー:ナイト・テンポね。うーん。
朝:っていう、結構いろんな可能性があるんじゃないかと思うんですよね。
スー:確かに僕らもラジオやっててね。「これ誰かカバーしてくんないか」と。いい曲なんだけど惜しいなと思う。もう一回世に問われていい名曲ってたくさんありますよね。
朝:ええ、あります。だからそういう曲をもう一回蘇らせるってのは、音楽出版社のすっごい大きな使命だと思いますね。
スー:どうですか、加藤和彦のコンピレーションを『オー・チン・チン』と入れて、こう(笑)
朝:ハッハハハハ。
スー:加藤和彦のいない加藤和彦コンピレーションって。
ミ:あ、できますできますよ。
スー:ハハハ。
ミ:ちょっと前に「オリオン最高3位特集」をやりまして、オリコンの歴史が‘68からだと思うんですが、オリコンランキングはどれほど意識されてたんですか?
朝:いやあやっぱりオリコンのランクっていうのが、ある部分業界の指標になってたんで、これ今ヒットしてるかしてないかていうのはオリコンのランクがある部分、ものさしになってたわけですよ。
ミ:なってたんですね。60年代70年代。
朝:ええ。もうずっと。ですからオリコンのチャート何位になったよ、っていう事で「あ、じゃこれ流行ってんだな」って放送局の人もディスクジョッキーの人も「あ、じゃ、かけなきゃ」っていうふうに思って下さるとかね。今そういう意味ではその指標がちょっとばらけちゃって。
ミ:そうですね。
朝:Spotifyと例えばAmazonとなんとかでみんな違うとか。放送局でもどこのランクとこっちのランクとは違うとか、みんなが納得するメーターみたいなのが無くなっちゃったのが、誰でも知ってるヒット曲っていうのに会えないっていうか。だから紅白歌合戦が面白くなくなっちゃってんのも、紅白歌合戦って昔はテレビってのが一家に一台とかでみんなが同じテレビを見てたから、流行ってる曲ってのは家族全部が知ってたから。
ミ:そうですね。テレビ1回出れば、4,5人に知れ渡ったってことですね。
朝:そう、その流行ってる曲が国民のコンセンサスをちゃんと取れてたから、その流行ってる曲だけを集めた紅白ってのがとっても説得力持ってたのが、今はもう、ある人がヒット曲だと思ってるのがある人は全然知らないとかね。そういうところになっちゃってるのが我々業界にとっては弱いんだよ。なんかやっぱりホントにみんなが「ここに入ればヒットだよな」って納得できるようなね、ものを業界として作ってく必要があんじゃないかなと。
ミ:その指標こそが大ヒット、ヒットが生まれるきっかけの一つになるんじゃないかと。
朝:じゃないかなと思いますね。
ミ:いい事聞けました。業界紙的なものだったオリコンが90年代に一般の視聴者、リスナーがオリコン何位と騒ぎ立てる時代になった。それが故にあれだけCDバブルになったのかもしれないですが。70年代後半に始ったベストテンの常連の人などがオリコンではそんなに順位が行ってない事があって、80年代はテレビの強かった時代だとこの番組で気づいたんですが。業界の人はオリコンをチェックしてたんですね。朝妻さんじゃないと知らない貴重な事が今回聞けて良かったです。
朝:えー本当に?
ミ:いや本当です本当です。誰に聞いていいのかって思ってたんで。
スー:もうね、音楽業界の未来から『オー・チン・チン』まで(笑)この番組は割と業界内聴取率も高くてですね。特にラジオ業界、これからどうなって行くのか不透明な中で不安を抱えて制作しているスタッフも多い、かも、しれないので、最後にラジオ業界への喝、もしくはエールを一言お願いします。
朝:ラジオってのは、例えばストリーミングは曲がどんどんどんどん流れる訳で、もちろん聞いてる人は聞きたい曲を聞いてんだろうけど、やっぱりそこにディスクジョッキーの人のちゃんと愛情のこもった紹介があるっていう事が、説得力を凄い増すんですよね。で、今音楽が好きだというある程度の人達ってのは、みんなラジオから音楽を聞いて好きになったっていう人達なんです。その人達は音楽もそうだけどそれを紹介してくれたディスクジョッキーの喋りとかっていうのがあって、音楽が立体的に入って来てるんで。ディスクジョッキーの人が音楽を凄い好きだって言う人の番組は、どんどんいっぱい作って欲しいなと思いますね。
スー:今、我々、お墨付きを得たと思っていいですか。
ミ:アッハハハハッ。
朝:いやあ、是非ホントに。
スー:私も次世代令和の亀淵昭信としてお墨付きいただいて。ミラッキさん令和の小林克也ハハハ。あの方々両方ともまだ頑張ってらっしゃいますけど。
朝:ハハハ。そうそう。
スー・ミ:今日は本当にありがとうございました。
朝:ありがとうございました。どうも。
スー:朝妻一郎さんの「高鳴る心の歌~ヒット曲の伴奏者として」本体税別で2000円アルテスパブリッシングから絶賛!発売中です。
ミ:面白いんですよ!
朝:よろしくどうも。
スー・ミ:ありがとうございました。
【スタジオに戻る】
スー)いやあ、面白かったですね。
ミ)面白かったですねぇぇ。ノンストップで喋り続けましたね。
スー)朝妻一郎さんホントにありがとうございました。最後はちょっと真面目な質問になりましたけれど、サブスクで誰でも聞こうと思う曲がすぐ聞ける中、やっぱり音楽に対する愛情と独自の視点での選曲や説明が大事だなって改めて心に留めましたね。ミラッキさんはどうでしたか?感想は。
ミ)私はオリコンの話を入れたんですけど、オリコンの力が弱くなっているのが今だと思うんですけど、ここを見ていればヒットがわかるよねっていう大きい存在もヒット曲が必要なのと同じ位、国民的ヒットの指標も必要なんじゃないかと。
スー)ヒット曲を愛する気持ちってのを持ち続けたいと思いますね。最後に1曲『あの素晴らしい愛をもう一度』をかけるんですけど、朝妻さんの教えに従って独自の説明をしたいと思います。7つ話をします。①あの‘67フォークル革命の北山修と加藤和彦の曲です②ニッポン放送のスタジオで録音されました③編曲は『オー・チン・チン』ハニー・ナイツ葵まさひこという方です④イントロ聞いて下さい、ニッポン放送のスタジオなのに抜群のいい音で録られてます。イントロのフォークギター、スリーフィンガーピッキングの音を聞いて下さい⑤大瀧詠一言う所の転調が大事。曲の途中で葵まさひこさんの素晴らしいアレンジで転調します。半音ではなく全音、1音上の転調する所がもぉのすごっくかっこ良い⑥パーカッションはビニールのスツールを叩いている。そして何と言っても⑦は今日のまとめでございます。これぞ!1971年最高の「胸キュン」ソング。日本のポップスを代表する「胸キュン」ポップスでございます。加藤和彦、北山修『あの素晴らしい愛をもう一度』。
♪加藤和彦 北山修『あの素晴らしい愛をもう一度』
スー)本当に朝妻一郎さんありがとうございました。おかげさまで楽しい番組になりました。新春放談でミラッキさんが「普通の選曲に対する違和感」とおっしゃったじゃないですか。あの話を受け、最後の朝妻さんのご意見も聞きますとね、やっぱりラジオっていうのが、我々のやり方がいいかは別として、単に与えられた曲を「今日はバレンタインですからバレンタイン・キッスです」ではなくってDJ自らがある責任と意志を持って選曲するのが大事だなと思いましたね。9の音粋月曜から木曜まで、それをやってる数少ない番組かもしれません。やや我田引水ですけど。
ミ)本当に貴重なお話、まだ聞きたい事いっぱいあります。朝妻一郎さんには石田達郎さんのお話を脚本書いてもらって、朝ドラ作って欲しいです。
スー)朝ドラね!あ~いいですねえ。今日のお話は朝ドラの原作みたいでしたね。大体朝ドラのタイトルは「ン」で終わるのが多いんで「加藤和彦物語トノバン」ハハハ。
ミ)いいですね。今ちょっと鳥肌立った。
スー)でも最後最終回がちょっと悲しいかもしれない。…音粋ヒストリアは1クール、2クールに1回くらいですかね。
ミ)はい。基本的に“どうかしてる”ものが続いて行きますので4月からもよろしくお願いします。ハハハハ。
スー)行くぞ!3年目!
☆朝妻さんの貴重なお話は素晴らしく、年若い音楽業界の人やミュージシャン達が時代を動かした歴史絵巻を見せていただきました。そして、《ディスクジョッキーの人が愛情のこもった紹介が音楽の説得力を増す。そういうディスクジョッキーの喋りがあって、音楽が立体的に入って来る。》という言葉はDJのスージーさんミラッキさんお二人へと、私達リスナーへのエールだと感じて心が熱くなりました。
☆聞き取り不正確で文字起こしの間違いがあると思います。お気づきの方はお知らせください。
《来週4/4「PPPH特集 パンパパンヒュー!」^^; 来週から番組ラストなぞかけコーナー1位はスジミラサイン入りノベルティ進呈 1人1ネタ限定》