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マイクロプラスチック問題を考える
廃棄された使用済みプラスチックの海洋流出が大きな社会問題になっています。
プラスチック製品は生産コストが低いため使い捨てられることを前提にしている商品も多く、また衛生的でとても便利に使えるため、廃棄される量は膨大であり自然環境に多大な負荷をかける存在であるともいえます。
廃棄されたプラスチックの中でも、大きさが5㎜以下の「マイクロプラスチック」による問題は、大きく2つあります。
1つは、マイクロプラスチックが海洋表層に集積されたため、海洋生物の摂取が確認されたことで、もう1つはマイクロプラスチックが海洋生態系での有害化学物質の運び屋になっていることです
このマイクロプラスチックは生態系に大きな影響を及ぼす可能性があり、非常に深刻な問題です。
マイクロプラスチックは2種類
マイクロプラスチックには、大きく分けて一次マイクロプラスチックと二次マイクロプラスチックの2種類の発生原因があります。
一次マイクロプラスチックとは、5mm以下の粒子状態で製造されたプラスチックのことです。
一次マイクロプラスチックはレジンペレット(直径数ミリメートルで円筒型・円盤型のプラスチック小粒)、肥料のカプセルや洗顔料、化粧品に含まれるマイクロビーズなどです。
二次マイクロプラスチックは環境に放出されたプラスチック製品が紫外線や熱、風波などの物理的な力により破砕、細片化したものや合成繊維の服の洗濯時に発生する繊維などです。
海洋マイクロプラスチック汚染と有毒性
日本周辺海域はマイクロプラスチックの濃度が高いです。その理由は日本列島から排出されたものに加えて黒潮により、東南アジア・中国南部から漂流したものが堆積しているためです。
そのため、日本の沿岸では一次マイクロプラスチックより二次マイクロプラスチックが多いのが特徴です。中でも製品の破片は洗濯時に発生する繊維よりも多いです。
出所)日本学術会議 健康・生活科学委員会・環境学委員会合同 環境リスク分科会「マイクロプラスチックによる水環境汚染の生態・健康影響研究の必要性とプラスチックのガバナンス」
現在 200 種以上の多様な生物がマイクロプラスチックを摂食していることが、日本学術会議 健康・生活科学委員会・環境学委員会合同 環境リスク分科会の調査で確認されています。
調査では、直接の摂食だけでなく、食物連鎖を通じマイクロプラスチック汚染が生態系全体に広がっていることもわかっています。
マイクロプラスチックは添加剤を含む他に、疎水性のDDT などストックホルム条約の規制対象物質を含む POPs(Persistent Organic Pollutants:残留性有機汚染物質)を吸着しています。
マイクロプラスチックには、プラスチック自体に含まれる添加物の有毒性と、海上を浮遊するマイクロプラスチックに吸着された化学物質による影響の2つの問題があります。
(有毒性についての詳細)
(1)プラスチック自体に含まれる添加物の有毒性
プラスチック製品に加えられている添加剤には、ホルモンの働きを邪魔することによって内分泌の一連の働きを乱す内分泌かく乱作用と性機能および受精能に対する悪影響を与える生殖毒性を持つものが含まれます。
添加剤は水に溶けづらいため、漂着したプラスチックが粉砕されマイクロプラスチックとなった状態でも残り続けます。
プラスチックの添加剤は、許容摂取量を超えず「安全性上問題がない」という判断基準で生産されていて、人体への影響がまだ完全には解明されていません。
しかし、ヒト細胞を用いた室内実験では、細胞に悪影響を与える可能性を示唆する研究結果も出ています。
出所) 環境省サイト 内分泌かく乱作用とは:はじめにQ3「では、化学物質で内分泌がかく乱されるとはどういうことでしょうか?
(2)吸着された化学物質の有毒性
現在、規制対象である残留性有機汚染物質(POPs)が、マイクロプラスチックに吸着する危険性が懸念されています。
海底には、過去に使用されていた有害な化学物質などが残っています。これらは現在では規制がかけられているレベルのものです。こうした海底の化学物質が、堆積物の巻き上がりにより海水中に浮上し、マイクロプラスチックに付着。世界中の海へと汚染が広がる危険性があります。
出所) 日本学術会議 健康・生活科学委員会・環境学委員会合同 環境リスク分科会「マイクロプラスチックによる水環境汚染の生態・健康影響研究の必要性とプラスチックのガバナンス」
課題解決に向けた動き
1.大阪ブルー・オーシャン・ビジョン(2019年)
2019年のG20大阪サミットでは、2050年までに海洋プラスチックによる追加的な汚染をゼロにする目標が掲げられました。
流出の多くが新興国・途上国とも言われていることから、これらの国々を含む世界全体で取り組むことが重要なため、「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組」の共有を目的としています。
枠組み内容は次の通りです。
(1)G20各国は、以下の自主的取組を実施し、効果的な対策と成果を共有・更新することを通じた相互学習を行う。
① 適正な廃棄物管理
② 海洋プラスチックごみ回収
③ 革新的な解決策(イノベーション)の展開
④ 各国の能力強化のための国際協力など
(2)G20各国は、協調して、①国際協力の推進、②イノベーションの推進、③科学的知見の共有、④多様な関係者の関与と意識向上等を実施するとともに、G20以外にも展開する。
2.国連環境総会(UNEA5.2)(2022年2月から3月)
2022年2月から3月にかけて開催された第5回国連環境総会再開セッション(UNEA5.2)において、海洋プラスチック汚染を始めとするプラスチック汚染対策に関する法的拘束力のある国際文書(条約)について議論するための政府間交渉委員会(INC)を立ち上げる決議が採択されました。
日本はUNEA5.2の開催に先立って、プラスチックの大量消費国・排出国を含む多くの国が交渉に参加するためには、各国の状況を考慮した上で海洋プラスチックごみ対策を推進することが重要という考えの下、国別行動計画を策定・公表する仕組みを念頭に置いた決議案を提出しました。「プラスチック汚染を終わらせる」という表題の決議には日本が提案した内容や考え方が大きく反映されていました。
日本は2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の提唱国として、INCにおける国際交渉にも積極的に参加し、世界的な対策の推進に貢献しています。
3.国連環境総会(UNEA6)(2024年2月から3月)
2024年2月26日から同年3月1日にかけてケニア共和国・ナイロビにおいて第6回国連環境総会(UNEA6)が開催されました。
第6回国連環境総会では、「気候変動、生物多様性の損失、汚染に取り組むための効果的で包括的かつ持続可能な多国間行動」をテーマとして開催されました。
4.G7広島サミット(2023年5月)
岸田総理から、環境に関してプラスチック汚染について以下のように発言がありました。
「プラスチック汚染の解決に向け、G7で野心的な目標を示し、条約策定に向けた議論をリードしたい。違法・無報告・無規制(IUU)漁業対策等の持続可能な海洋の実現に向けた具体的な取組も進める。」
議論の結果、参加国・機関の間で環境問題に関して、プラスチック汚染対策、生物多様性保全、森林対策、海洋汚染などの具体的な取組を進めていくための連携強化と共通認識を得ています。
これらの決議に基づき、各国は今後、プラスチック汚染対策に関する具体的な行動計画を策定し、実施していくことが期待されています。
さらに、各国の取り組みが相互に補完し合うことで、より効果的な対策が進められていきます。
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【執筆者】
神戸 修(こうべ おさむ)
株式会社グレイス ゼネラルマネージャー
大阪学院大学 流通科学部流通科学科卒
学生時代より、就活・キャリア支援のサークルを立ち上げ人材ビジネス会社、給食会社にて法人営業、採用、広報業務に従事
アニュアルレポート、統合報告書の作成
東日本大震災等では現地の医療関連従事者の業務サポートを手がける
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