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AI技術は仕事を奪うのか?
今までの技術革新とは、技術が人に取って代わることで生じる雇用の代替と同時に、技術革新で生産性が比較的高くなった業界に企業が参入することで雇用の創出をもたらしてきました。
19世紀における産業革命では、製造業における作業(タスク)を単純化し、再構成することで、機械を導入。その結果、技術的進歩による利益が労働者に分配されました。
20世紀におけるオフィスの機械化・電化では、事務機器によって手や紙で行っていた作業(タスク)を電子化した結果、定型的な手作業や定型的な認識業務が減少し、労働生産性は向上しました。
現在、人工知能(AI)による技術革新は、過去の技術革新のように、業務の道具として技術を活用するのではなく、人と人工知能(AI)の共同作業に重点を置いた業務変革を目指すべきだと言われています。
AIにおける変化
独立行政法人 労働政策研究・研修機構の「職場における AI 技術の活用と従業員への影響―OECD との国際比較研究に基づく日本の位置づけ―」(※1)では、AIによるタスク・雇用・労働環境の変化について、次のように論じられているので紹介します。
【タスクの変化】
第一に、今までの新技術は定型的タスクを減少させ、非定型的タスクを増加させている。
第二に、AI 技術は非定型的タスクも減少させる。
第三に、AI 技術は全てのタスクを補完する可能性があり、人間よりも効率的に、高い水準でタスクを遂行させる可能性がある。
第四に、タスクの変化は社会的習慣や技術の活用方法で決まる。
※定型タスクとは定期的に発生し、マニュアル化しやすい業務のこと。
※非定型タスクとは、不定期ないし突発的に発生し、マニュアル化しにくい業務のこと。
つまり、AI技術が進めばタスクの変更なしに、導入することが出来る可能性があります。
【雇用の変化】
2023年にOECDが実施した「AI 技術が労働市場に与える影響について、7カ国の従業員と使用者を対象に調査票調査」では、AI技術を導入した企業では、金融業の従業員の 20%、製造業の従業員の15%が、AI技術によって仕事を失った者を社内で知っていると回答しています。
【労働環境の変化】
労働環境の変化についての研究は乏しいが、2019年に日本の従業員を対象とした調査結果では、AI 技術の導入に伴うタスクの再編成が仕事の満足度の向上に寄与するが、ストレスの増加にも寄与することを示唆するものでした。
調査対象者は、AI 技術によって、より複雑なタスクに集中できるようになり、より大きな満足感を得られる一方で、これらのタスクが仕事に関連するストレスを強める可能性もあると回答しています。
また、ストレスの増加に関連した他の研究として、Jaehrling(2018)は、2015 年から 2018 年にかけて、フランス、ドイツ、ハンガリー、オランダ、スペイン、スウェーデン、イギリスの製造業と銀行業の事例調査をおこないました。AI 技術を対象とした銀行業の事例では、AI 技術の導入によって、既存の従業員が減少し、カスタマーアドバイザー一人当たりの平均顧客数が増え、仕事量が増加したとあります。
AIの導入状況
【世界との比較と動向について】
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出所)総務省「令和元年版情報通信白書」より (※2)
総務省が公表している「令和元年版情報通信白書」によれば、日本の「AIアクティブ・プレイヤー」の割合は、中国、アメリカ、ドイツ、フランス、スイス、オーストリア、日本の7か国の中で最下位です。
ここで言う「AIアクティブ・プレイヤー」とは、「一部の業務をAIに置き換えている」または「一部の業務でAIのパイロット運用を行っている」企業のうち、自社のAI導入を「概ね成功している」と評価している企業を指します。
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出所)総務省「令和元年版情報通信白書」より (※2)
産業別に見ると、「テクノロジー/メディア/通信」が唯一各国と並ぶ状況ではありますが、他の分野は全体的に遅れを取っています。特に「エネルギー」や「ヘルスケア」は、他国と乖離の幅が大きくなっています。
2025年1月23日にアメリカのトランプ大統領はAI開発を推進する大統領令に署名した。この大統領令は「AI分野における米国の優位性を維持し、強化する」ことを目指すと明記されています。政府の関係部署に、180日以内にAIの開発促進に向けた行動計画を策定するよう指示しています。
【日本の現状】
情報の拡散など生成AIをめぐるリスクが指摘される中、日本政府は新たな法案を通常国会に提出する方針です。
悪質な事案に対し国が調査を行うなどとする一方、適正な研究開発を図ることも盛り込んでいて、規制と技術革新の両立を目指したい考えです。
EUは、極めてリスクの高いAIの利用を法律で禁止するなど各国において対応違いがあるのが現状です。
独立行政法人労働政策研究所・研修機構のビジネス・レーバー・トレンドに記載されている「AIの職場への導入状況調査」では、職場でAIが「すでに導入済み」とする企業が0.8%、「現在、導入を検討中」が3.8%、「現時点で導入予定なし」が94.9%となっています。「導入・導入検討中」計(「すでに導入済み」「現在、導入を検討中」の合計)は4.6%です。
AIの「導入・導入検討中」計について、従業員規模別に見ると、規模が大きくなるほどその割合は高くなります。「導入・導入検討中」計について業種別に見ると、「金融業、保険業」(19.2%)「医療、福祉」(10.9%)「電気・ガス・熱供給・水道業」(7.1%)「建設業」 (5.5%)「情報通信業」(5.2%)「サービス業(他に分類されないもの)」(5.1%)などが高くなっています。
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企業調査では、AIの導入に際して準備していることについての調査結果では、「特に何もしていない」とする企業が91.9%とほとんどとなっています。
しかし、AIの導入・検討状況別に見ると、「導入・導入検討中」とする企業では、「特に何もしていない」が35.1%と最も多いものの、具体的な準備内容としては、「AIを職場に導入するための検討チームの設立」が27.2%で最も多く、次いで、「AI関連の研究機関・企業との連携・共同開発」が21.9%、「既存の従業員のAI関連の教育訓練・研修強化」が17.5%、「AIの製品化に向けた検討チームの設立」が7.0%、「AI関連の人材の採用強化」が6.1%、「AI関連の研究開発投資の増額」が5.3%となっています。
AI人材の不足
経済産業省の「IT 人材需給に関する調査報告書」(※4)によると、日本のIT人材不足は全体で約79万人に達し、そのうちAI人材の不足は特に深刻です。
AIやデータサイエンス、IoT(モノのインターネット)などの先端技術に対応できる専門家が不足しており、2030年には約12万人に達すると予測されています。
AI人材は、その役割によってサイエンス系、エンジニアリング系、ビジネス系の3つに区分されます。
サイエンス系では、AIアルゴリズムや理論の研究を担う専門家が必要とされます。
特に気候変動などの社会課題に対応するニーズが高まってきています。
一方、エンジニアリング系では、AIモデルを実装し、システムやアプリケーションとして運用可能な形にする技術者が求められています。
さらに、ビジネス系では、AIの適用可能性を評価し、具体的なビジネス企画に結びつけるプランナーの需要も高まっています。
AIエンジニアには、AIモデルやその背景技術を理解し、それをソフトウェアやシステムとして実装する能力が求められます。
既存のAIライブラリを活用したソフトウェア開発も含め、AIエンジニアが求められるスキルは、従来型IT人材や知識がある方が経験や研修で習得できる範囲であるとも言われています。
一方、AIサイエンティストの育成は難易度が高い課題です。高度な数学的知識や学術的素養が必要とされるため、企業内での短期的な育成は難しいと言われており、外部との連携や専門的人材を抱える人材紹介会社への依頼が増えているのが現状です。
また、AIプランナーは、技術的な知識だけでなくビジネス企画能力も必要であり、これから発展していく技術のため研修方法や技術習得方法も確立されていません。
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参考文献
※1 独立行政法人 労働政策研究・研修機構「職場における AI 技術の活用と従業員への影響―OECD との国際比較研究に基づく日本の位置づけ―」
※2 総務省が公表している「令和元年版情報通信白書」
※3 独立行政法人労働政策研究所・研修機構「ビジネス・レーバー・トレンド」
※4 経済産業省「IT 人材需給に関する調査報告書」
【執筆者】
神戸 修(こうべ おさむ)
株式会社グレイス ゼネラルマネージャー
大阪学院大学 流通科学部流通科学科卒
学生時代より、就活・キャリア支援のサークルを立ち上げ人材ビジネス会社、給食会社にて法人営業、採用、広報業務に従事
アニュアルレポート、統合報告書の作成
東日本大震災等では現地の医療関連従事者の業務サポートを手がける
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