似非エッセイ#03『瞬き』

写真の魅力を僕に教えてくれたのは、取り憑かれたみたいに写真を愛するある女性だった。
僕は無意識のうちに、楽しそうにシャッターを切る彼女の姿に惹かれていた。
恋人になってからはよく撮影にも同行した。
ある日僕はなにげなく、彼女がカメラを構える姿を写真に収めた。彼女にそれを見せるととても喜んだ。
彼女が自宅を使って個展を開いた時、飾られる写真の中に、逆光の中を佇む僕の後ろ姿を撮った一枚が選ばれた。
当日、僕は手伝いをしながら繰り返しその一枚を眺めた。
彼女はその個展に『瞬き』という名を付けた。
意味を尋ねても、結局最後まで教えてはもらえなかった。

彼女の現在を僕は知らない。僕は彼女をたくさん傷つけて、最後には身勝手に去ってしまった。
あの写真はきっともう何処にも存在していないのだろう。
写っていた僕も、それを切り取った彼女も、もういない。
だけど『瞬き』とは、一瞬の、永遠だ。
僕はまだそう信じている。


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