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結局最後はシラフで

その両手両足は誰のものなのか。今聞こえてくる音と見えている景色とを味わい尽くさないと嘘だ、とこれまで何度も考えた事をまた鬼気迫るまでに突きつけられた時間の結晶だった。

(生)林檎博’24 -景気の回復-

私は青森・埼玉・福井・福岡の四公演に足を運んだ。初日と千秋楽の両方に行けたからか、今回はツアーを並走できた感じがとても強い。
本当に夢みたいに贅沢な期間だった。
以下、セトリを聴いていると蘇るあれこれの備忘録です。(もう一週間も経ってしまった!)



お祭り騒ぎ!楽しさを胸に!のステージかと思いきや今回もまた、全てが超ハイクオリティ、巧妙に設計された舞台芸術だった。
大きなテーマも小さなテーマも全て練り込まれていてそれらが絶妙なバランスを保ったまま音楽に形を変えて披露される。全く異なる人生を各々が生きてきたはずが、各々のとある地点で必ず、寄り添ってもらえたと思える。私のための曲だと思えてしまう。何万何十万或いはそれ以上の規模で。その音楽を鳴らす舞台が一人の人を中心に繰り広げられていること、こんなことを出来てしまう人がいるんだって、毎公演思っていた気がする。
現在地の把握、だけじゃない。未来に待っているものの片鱗が自然と感じ取れる、椎名林檎のライブってそれくらいのストーリー性と人間味があるんですよ、本当に。

人間味と言ったけれど、真っ赤なマントを羽織って上から降りてきた椎名林檎が発する第一声
「地球の皆さん、ごきげんよう」
は流石に宇宙から来た女神……と呆けてしまう位のインパクトでしたね。公演ごとにここの声のトーン変えてくださっていて有難かった。あと般若心経からのこの流れ、文字に起こすと高熱出た時にみる夢?ってツイートとても好き。


胸を打たれた細かいところ↓
・「秘密」の丸さステップと「浴室」の包丁さばき
これさ〜なんにも変わらないなって。ずっと私達が見たいと期待することをやってくださってきたなって。青森初日はその思いでめっちゃ泣いた。
・「命の帳」でご自身でギターを肩にかけるところ
普通に演出の都合上の話だと思うんですが、前を見たまま隣のギターにそっと手をかけた瞬間と、タイミングを図って身体にかけ落とす瞬間本当に痺れた。あの金髪すらも白に見える照明泣けるね。
・若旦那のナレーションのあとのお辞儀
"今後とも、弊社をどうぞご贔屓に"の若旦那の声を背に受けながら深々とお辞儀をされる姿、そこから歌われるMOON、あまりにも母親すぎた。
・「人間として」の拳突き上げ
奈落に落ちていきながらのあれね。ドンッ!ドンッ!の音に合わせる姿がたまらなかったです。

バックバンドとオーケストラ紹介も本当に素晴らしかった。愛だなと思った。
後半怒涛のゲスト勢揃いタイムは、椎名林檎が嬉しそうで楽しそうで何よりでした。タッチと私は猫の目の歌い方ふざけすぎていてカラオケかよ!とツッコミたかったくらい。

セトリ。
景気の回復と聞いて、やりそうな曲をツアー前に思い浮かべていたら、もうあれもこれもと止まらないくらい沢山あって。結局ほとんど外れたんですが、でもそれって椎名林檎の言う市井の人々の暮らしだったり生活に必要な知恵や勇気だったりが、新旧問わず本当にあらゆる楽曲に多分に含まれているんだなと改めて思えて。その時点で勝手に私は感動していました。またいつかどこかで聴けたらいいな。
ドラ1独走前のサイレン。生死が隣り合わせで避けられないと知ったその時から、踏ん張りいよいよはじまる第二回戦が、やっぱりとても明るく力に溢れていて安心する。ありがとうと思う。
鶏と蛇と豚、2○45は同じ位置にあってifの世界のように私は捉えている。AIが歌う時、そこに生の椎名林檎はいないし。今という時間軸を一番大切にしてくれているんじゃないかな。まるなま林檎博やし。


福岡でのアンコール一発目の正しい街。
イントロのドラムに身体が先に反応した。その直後ステージ上の二つの影が誰なのか分かった瞬間はもう混乱動揺MAXで一体何の涙なのかもはやよく分からないものを流しながら、頭の中では至極冷静に、
「椎名林檎ってこんなギターの弾き方もするんだ」
とその一点にずっと驚いていた。
テレビ、ライブ映像、過去参戦した実演、ありとあらゆる場面でギターを弾くお姿は見てきたけれどそのどれとも違っていて、あんなにも力強く支えるように守るように、もっと言うと捧げるように、弾いている様は初めてのものだった。
私がなんにも言わせやしない、と全身で発しているみたいだった。
その隣で歌うSUZUKAがただひたすらに前しか見つめていなかったのも印象的で、あの約四分間を体感できたことはずっと忘れないと思う。

福岡のライブ後の夜、一緒に飲んでいた後輩という名の仮面を被った友人が、頑張ってきて良かったなって、とぼそっと呟いていて普段あまりそんなことを言う子でもないので、自分事のように嬉しかった。そうだよね。


最後に景気の回復というツアーのタイトルに少し触れようかなと。
公演前後は経済回さないと!とか言ってグッズやらを買いまくったり美味しいお酒を飲みまくったりしたものの、今回の"景気"というのはやっぱり精神的な豊かさにかかっていると思っていて。勿論経済的な面も含まれてはいるのだろうけど、それ以上に、これまで生き抜いてきた一人の人間がこれからをまた生きていくために必要な心身の糧となるもの。
去年の諸行無常ツアーで私達はやっと盃を交わし合えたわけだけど、その後をじゃあどうするの?まだ問題は山積みなこの国で、笑っていくには何をすればいい?と、問いかけると同時に、乾杯は何度したっていいのだと、問いかけを抱えながら日常に戻る私達に確かなエネルギーを椎名林檎は与えてくれた。
夜明け前が一番暗いという言葉を今年は何度も耳にした。2024年の後半、10月から12月という時期に椎名林檎がこのタイトルを掲げて、泣き笑いのあるセトリで全国を回ってくれたことを、私はひとつの節目のように感じる。あの人は必ずどこかで意味をもたせるから。ずっとそうだったから。

乾杯をして本編を終えて、アンコール最後の曲で椎名林檎はグローブも外して素手で一人でステージに立っていてくれた。歌い終えてにやっと笑って颯爽と去る姿があまりにもサッパリとしていて、終わりよりも次を確かに感じさせてくれる、そんな締めくくりだった。

もう一週間と少しで今年が終わるけれど、祭りのような今回のツアーを引きずる訳にはいかないなと思っての、整理のような備忘録でした。
引きずりはしなくとも、受け取ったものを抱えて考えて力強く2025年も生きたいし、また会えた時は成長を実感出来る自分でありたい。結局そこは変わらないな。








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