【ネジ巻き輪舞曲】第2章: ネジ巻き
私はある日、会社帰りに家路についていた。そのとき、腕時計の電池が切れてしまったため、急いで通りがかりにあった時計屋さん「アンティーク・タイムピース」に入った。
店内には懐かしい雰囲気が漂っており、私は何気なく並んでいる時計を眺めていた。その中で、一つの時計が目に留まった。
「なんて素敵な時計なんだろう」と、私は思わず声に出してしまった。
店長である松本さんが近づいてきた。
「その時計、気に入りましたか?」と尋ねられた私は、少し照れくさそうに頷いた。
「でも、今は買えないんです……」
そう言うと、松本さんは微笑みながら言った。
「そんなに欲しいのであれば、いつでもいいんですよ。私たちは、時計と人生が出会う場所ですから」
私は、松本さんの言葉にほっとした。私は、ただ電池交換をするために来たつもりだったが、何か特別なものを感じていた。
私は松本さんに向かって、恐る恐る尋ねた。
「すみません、時計と人生が出会う場所って、具体的にどういうことですか?」
松本さんはにこやかに微笑んで、少し考え込んだ後に答えた。
「時計は、人生のあらゆる瞬間を刻んでいくものです。人生の時間を、ただ過ぎ去っていくものではなく、刻みながら、美しく輝かせていくものです」
その言葉を聞いた私は、突然何かを感じたような気がした。私は、自分の時間を大切にしていかなければいけないと、改めて思い知らされた。
そして、松本さんが示す価格には驚いたものの、私は思い切ってその時計を購入することにした。
「これから、私も自分の人生を、時計とともに刻んでいきたいと思います。ありがとうございました」
そう言って、私は松本さんにお金を払い、手にした時計を大切に包み込んで店を出た。
家に帰って、私は手にした時計の箱を開けた。
その時計は、アンティーク調の黒色のレザーベルトに、落ち着いた色調のベージュが美しい文字盤が組み合わされた、シンプルでエレガントなデザインのものだった。
時計のガラスには、微かに小さな傷があったが、それが時計に味わいを与えていたようにも感じられた。
私はその時計を手に取り、つけてみた。時計の針が、静かに動き出す音が聞こえた。
「これから、私の人生もこの時計と共に刻まれていくんだな」と、私は思いながら、ふと窓の外を見た。外は、少し曇り空だった。
時計の針が、突然とまった。
「えっ、どうして?」
私は、時計を見つめていた。
そして、時計のネジを回してみた。すると、突然の衝撃に襲われ、私はふっと意識を失ってしまった。
気がつくと、知らない森の中にいた。
「どこ?ここは…」
周りを見渡すと、高い木々が立ち並ぶ、どこか不気味な森だった。私は、動揺しながらも立ち上がり、周囲を探した。
「何が起きたの……」
私は、自分の置かれた状況を理解しようと頭を抱えた。時計のネジを回した、その後何が起きたんだ? どうしよう、ここで一人でいても仕方がない。
私は、歩き始めた。先に進んで、何か手掛かりを見つけ出したいと思った。
しかし、なんとかこの森が降りることができればと思い、美咲は歩き始めた。しかし、途中で足を滑らせ、斜面を転げ落ちてしまった。
「あっ……!」
私は悲鳴を上げながら、岩場に叩きつけられた。
足を痛め、身動きが取れなくなり、必死に自分の状況を理解しようとした。
「どうしよう……ここがどこかわからない……」
そのとき、見知らぬ男性が現れた。
「大丈夫ですか?」
男性は、近づいて手を差し伸べた。
「どうやってここに来たの?」
「わ、わかりません……」
男性は、私を優しく抱きかかえ、肩に乗せると、山を下り始めた。
私は、男性が通る道をただただ見つめながら、自分の状況を理解しようとした。彼女がタイムスリップしたのだ。
男性が下宿にたどり着いたとき、私はとっても疲れていて、動くこともできなくなっていた。すると男性は、優しく介抱してくれ、傷の手当てまでしてくれた。
「僕は田中 聡といいます。東京帝国大学の学生で、ここが下宿先です」
この出会いが、私にとっての運命的な出来事になることを、私はまだ知らなかった。