タイさんの取材ヨレヨレ日記⑩ 忘れられない海外取材
今回は海外取材の話をしますね。
経済記者は案外、海外取材の機会が多いんです。国際会議の取材や政治家、財界首脳による海外ミッションへの同行取材などです。私も何度も海外取材をしました。
1998年のことです。タイ、韓国など多くのアジア諸国は、前年から深刻な経済危機に見舞われました。自国の通貨が暴落し、インフレと不況、それに社会不安が急速に広がっていました。
独裁が長く続いていたインドネシアも例外ではありません。経済危機真っただ中のジャカルタに乗り込んだ私は、現地企業の幹部や日本から進出している企業のトップに次々とインタビューして、アジア経済危機のすさまじさを記事にしました。
そんなある日のことです。
インタビューを終えたばかりの某日系企業の支店長と夕飯を食べに出ました。お酒が回って陽気になった私たちは、支店長行きつけのカラオケスナックに繰り出すことにしました。
タクシーでお店に向かう途中で天候が一変。それまでの快晴がウソのように、ものすごい大雨となりました。東南アジア特有のスコールです。
カラオケスナックの駐車場に着いてタクシーを降りた私たちを迎えてくれたのは、まだ小さな男の子です。日本の小学校ならば、2~3年生くらいでしょうか。豪雨のなか裸足で待っていた彼は、タクシーを降りた私たちに傘をさしかけてくれました。
そこからお店の入口までの10数メートル。私たちが雨で濡れないように、精一杯の背伸びをしながら傘を持ってくれます。もちろん、私たちからのチップが目的です。
裸足で待っていたことや汚れた服装などから、この男の子の暮らしぶりが決して豊かではないことは明らかです。そこに襲ってきた未曽有の経済危機。少しでも家計に足しになればと、真っ暗な夜の豪雨の中、懸命に働いていたのでしょう。
あの男の子の表情は、それまで私がこなしてきたインタビューのどれよりも、経済危機の辛さ、苦しさを物語っていました。