タイさんの取材ヨレヨレ日記㉕ 記者は服装もヨレヨレです
地方支局へ配属された新人記者は殺人や傷害、窃盗などさまざまな事件を取材すると同時に、交通事故や火災の現場にも駆け付けます。事件、事故の取材で飛び回ることで、記事の書き方のイロハを学び、警察関係者など大切な取材先との付き合い方も身につけます。
新人記者だった私も、ある大規模な火災を取材しました。火災現場へ到着し、夢中で写真を撮っていると、飛んできた火の粉で顔面や首筋がチクチクと熱くなっていきます。ふと気づくと、着ていたジャケットも火の粉で穴だらけに。買ったばかりのお気に入りだっただけに、泣きたい気分になりました。
こうした経験を数多く積むうち、記者が買う服はどんどん安く安くなっていきます。習慣とは恐ろしいもので、私が経済部記者として財界人や大物官僚を取材するようになっても、相変わらずペラペラの安物スーツばかりを着ていました。もう火の粉が飛んでくることも、豪雨の事故現場取材でドロドロになることもないのに、替えズボン付き1万円前後の特売スーツを長く愛用していました。
あるIT企業の経営者にインタビューした時のことです。取材が終わった後で、しげしげと私を見つめて一言。
「そんな服を着ていて、家族は恥ずかしいと言わないのかい?」
いささか反省した私は、それから少しだけ高めの服を買うように方針を改めました。