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社長と恋とバターチキンカレー PART④

CEOエッセイ 
~淡い恋の思い出編~

うちのCEO、目﨑は文筆業もこなします。(2011年には「幸福途上国ニッポン 新しい国に生まれかわるための提言」(出版社:アスペクト)を上梓)
そんな彼が、社内SNSに投稿したエッセイが、思いの他評判が良く、社外向けにも再掲することにいたしました。
CEOのキャラクター、そのおかげで生まれる自由でフラットな社風が伝わること間違いなし!

前回のお話(PART③)はこちら

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秒単位で市場が変化していくトレーディングフロアでは、ランチをゆっくりと食べる時間がないことがある。そこで週に何度かは、何人かでまとめてランチを注文することがあった。

当時同じフロアで働いていた倉〇は、自分で吉野家の牛丼を大量に買い込み、一個500円から、時には1000円で販売して、着実に儲けていた。

倉〇は、天性のトレーダーだ。世界中のありとあらゆる値動きを24時間チェックし、価格が上昇すると思えば買いまくり、下落すると思えば売り浴びせた。

当時からクラッ〇と呼ばれていた倉〇は、自称「エンゲル係数の高い」男でもある。新卒入社と同時にメキメキと実力を発揮し、給料はどんどん上昇していったが、さらに早いスピードで食費が高額化したらしい。入社時などは、借金して食費に費やしていたということだ。

「これから、コメの価格が上がると思いますよ」

僕の斜め後ろに座っていた倉〇が、何の前触れもなく、門外不出の秘伝でも打ち明けるように、突然僕の耳元でささやいた。

ちなみに、カジュアルフライデーの倉〇は、いつもピカピカの黒いエナメルシューズだった。ファッションに興味ない、とうそぶくことがあるが、実は世界中のブランドにもやたらと詳しい。

「え?コメ??そ、そうなんだ・・・」

そんなことを急に言われても、返す言葉がなかった。そもそも僕は、業務上、ましてや趣味でも、コメどころか、商品市場など見ていなかった。

「じゃあ倉〇は、コメでも買ったの?」

待ってましたとばかりに、ドヤ顔で倉〇は答えた。
「コメの先物を、個人で買いましたよ」

先物市場では、将来の特定された年月を決め、その未来の価格をいま取引する。歴史的には、農業の生産者が収穫時の農作物の値段を、生産する時点で確定したい要望から創設された。せっかく作った農作物が、収穫時に価格が暴落して大損することを防ぎたかったからだ。もちろん、価格が高騰して、本来あったはずの利益を取り損なうリスクもある。

「先物を個人のアカウントで?気合い入ってるね。で、どのくらいの買ったの?」

僕は、仕事としてトレーディングをやっていたが、個人での取引はほとんどやっていなかった。

「そんなに買ってないですよ」
少しはにかむように、倉〇が答えた。
「たったの、2トンです」

「に、2トン?コメを、2トン?」
「はい」
「それさあ、高騰すればいいけど、暴落したらどうするの?」

先物を買ったとしても、価格が高騰さえすれば、決済日の前に売却して差額の利益を得ることができる。しかし価格が下落すれば、売却する際に多額の損金を支払うことになる。

「その時は、デリバリーしてもらいますよ」

価格が下落しても、買った値段で商品を引き取る、という方法もある。

「いやいや、2トンのコメって、そんな量をどうするの?」

5キロのコメ袋が400個、大型トラックの荷台に山積みされている姿を想像した。

「2トンぐらい、大した量じゃないですよ。そんなの、すぐに食っちゃいますよ」

「・・・・・」

やはり、倉〇のエンゲル係数が高いのは、本当だった

つづく

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