Principle 5: 自分をネットワークの一部とみなす
Principle 5
家庭医は自分をコミュニティにひろがる支持的ネットワークの一部とみなす。このネットワークには公式のものも非公式のものも含まれる。ネットワークの構成員は全体像を把握しないままに動くこともあるが、家庭医はこのネットワークを患者にもっとも役立つ形で機能させるという重要な役割がある。
McWhinney, I. and Freeman, T., 2016. Mcwhinney's Textbook Of Family Medicine. Oxford: Oxford University Press.
UKでは家庭医はgate keeperと呼ばれている。gate keeperの意味には「必要以上の有限資源へのアクセス(専門医受診など)をコントロールする」という意味合いが強く表れている。実際、このgatekeepingの仕組み対するsystematic review (Sripa et al., 2019) では、サービス利用の制限やヘルスケアコストの低減効果が主要なアウトカムとして確認されている。
Sripa, P., Hayhoe, B., Garg, P., Majeed, A., & Greenfield, G. (2019). Impact of GP gatekeeping on quality of care, and health outcomes, use, and expenditure: a systematic review. The British journal of general practice : the journal of the Royal College of General Practitioners, 69(682), e294–e303. https://doi.org/10.3399/bjgp19X702209
一方で、「アクセスを制限するのではなく、必要なケアへ繋げていく」という役割について"gate opener"という用語を使って解説しているのが、英国General Practitioner (GP)の澤医師である。
"英国では健康問題の約9割は,GPを中心とするプライマリ・ケアの領域で対応できているというデータもあります。このシステムが余計な検査・投薬の削減,医療費の適正化など,効率的な医療を実現することにも一役買っていると思いますね。ただ,日本でこのように説明すると,医療サービスの入り口に立つGPについて,「ただのゲートキーパーだろう」という片面的な考え方に遭遇することもあります。確かに過度の医療化から患者を守るゲートキーパーとしての役目もあるのですが,GPが真に担っているのは適切なときに適切な専門家を紹介する,いわば「ゲートオープナー」の役割です。通常,患者は病気や医療について詳しい知識を持っているわけではないですし,複雑で膨大なケアシステムの中で,自身がどこでどのような医療を受けるべきかを把握しているわけではありません。そうした方々の心身の不調の相談に乗り,ニーズや希望を引き出し,代弁者として適切な専門家に伝え,つなげていく。その役目をGPは果たしているのです。"
川越正平,澤憲明,武内和久,堀田聰子. "〔座談会〕「地域の住民中心」を叶える医療者像を求めて". 週刊医学界新聞. 2014-09-29. https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03094_01, (Cited 2020-08-24)
Spiraらのsystematic reviewでは、個々の患者の具体的なアウトカムについて「quality of careが改善されている」としている文献も扱っているが、より癌健診を受けているといった内容のものであり、家庭医が患者に真に必要なケアに繋げるようにネットワークを機能させているというエビデンスとしては、十分ではないように思う。家庭医療がacademic deciplineであるならば、このprincipleに対するエビデンスを明瞭に示していくことも今後必要になってくるだろう。