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シロクマで温かい(短編小説)
スモークネイビーのトーンが可愛いキャミソールワンピースを気に入り購入を決め、店員さんが新しいものをストックへ探しに行ってくれている最中のレジ前の数十秒の待ち時間。
そのお店の会員バーコードを探そうとスマホをいじっているときに、横から声がした。
「あれー、いないよ。どこ!」
黄色いTシャツに短パンの男の子が何かを探している様子だ。
てっきり迷子かと思えばそうではないようで、男の子は周りをぐるぐる見回すのではなく、マニキュアやアクセサリー類が陳列されたガラス製のクリアな棚を中心に、自分がぐるぐると回っていた。
そのあたりでオモチャでも落としたのだろうか。
「お待たせいたしましたー。新しいもの、ご用意ございました」
戻ってきた店員さんは、そのままお会計に入ろうとレジへ回ろうとしたときだ。
「クマさんはどこいったの?」
その店員さんに声をかけたのは、横にいた男の子だ。
「クマさん?」
「うん、前にここにいたじゃん。大きいクマさん!」
「ああ、あのクマさんね」
そう言うと店員さんは一度レジへ潜って、私のワンピースをそっと置くと、またこちらに出てきて男の子前にしゃがみ込んだ。
「大きなシロクマさんのことでしょ?」
「うん」
「シロクマさんはね、暑いところが苦手なんだ。もともとは北極って言うずっと雪が降ってるところに住んでたんだよ」
「知ってるよ!動物図鑑で見た!」
「知ってるんだ!すごいね!」
男の子は得意気な表情だ。
「今はほら、スゴく暑いじゃん?だからね、シロクマさんは多分、我慢できなくって北極に帰っちゃったんだと思うよ」
「えー!じゃあクマさんに会えない!」
「うん、そうだね。お姉さんもクマさんに会えないの寂しいな。だからね、コレあげる」
店員さんが男の子に手渡したのは何か小さな丸いものだった。
それを受け取った男の子の顔はぱっと輝き、嬉しそうに手を振って帰っていった。
男の子を見送ったあと、店員さんはいそいそとレジへ戻ってきた。
「すみません!大変お待たせいたしましたね。お会計ご案内させていただきます!」
お会計を済ませ、ワンピースを包んでもらっているときに、私は訊いてみた。
「さっきの、クマさんて」
「あ、コレですよ!」
店員さんが差し出してきたのは小さな丸いステッカーだった。そこには「SMELLY」という文字と、シロクマの絵が描かれていた。
「このシロクマ、うちのアクセブランドのキャラなんですけど、この子が前までそこの横に立ってたんですね。多分さっきの子はそのことを言ってたんだと思います。本当は原宿店に行っちゃったんですけどね」
嘘ついちゃった。と笑う店員さんは、そのステッカーを私にも手渡してくれた。
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