白い箱の中で(短編小説)
目を覚ましたとき、俺は無機質な白い天井を仰いでいた。
いや、天井どころではない。意識がはっきりとしてきて辺りを見渡してみれば、上下左右全てが白い壁で覆われていた。
床も壁も天井も全て正方形。一体何なんだここは。どうして俺は、ここに。
それは突然だった。
状況がまだ整理できていないというのに、壁の一辺がゴゴゴと音を立て始めた。壁が迫り上がっていく。
それは恐怖とともに多少の安堵感も感じさせた。
この空間からの出口の可能性があるからだ。
壁が上りきる前に確認できた。
向こうに誰かいる。男だ。
俺と背格好が似た。年齢も同じくらいの知らない男。そして男も俺と同じ表情をしていた。
状況を把握できない不安と自分は一人ではなかったという希望の表情。
ゴトっ。
急に天井から何か黒い塊が降ってきた。
それは俺と男の丁度中間に重たい音を立てて落ちた。
初めてホンモノを見た。ピストルだ。
実際にホンモノかどうかも定かではないが、今の俺たちにそんなことにまで思考を巡らせる脳内のキャパがなかった。
ピストルの向こうに男。
いけない。身を守らなければ。
そう思った時には男はピストルに向かって走り出していた。遅れをとった俺も慌ててピストルを拾いに走り出す。
この男は敵だった。俺を殺す気だ。
取られちゃいけない。この男に武器を持たせてはいけない。
男のほうが先にピストルの元に到達し、拾おうと身を屈めた。
やばい。やばいやばいやばい。
俺は咄嗟に低い位置にきて男の頭をサッカーボールのように蹴飛ばした。
こんなに重たい塊を蹴ったのは初めてで、少し怯んだが、そんなことを言っている場合ではない。
殺らなきゃ、殺られる。
血相を変えて男は俺に掴みかかって来たので、俺は殴った。闇雲に男の顔面を殴り続けた。馬乗りになって殴り続けた。
もうピストルを奪うなんて気を起こさないように、戦意を削ぐように。
我に返ったときにはもう男は動かなくなっていた。
身を守ることはできたものの、どっと疲労感と喪失感に襲われた。
ゆっくり身体を起こしピストルを拾う。弾は入っていなかった。