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黄色いクレヨン(短編小説)
私は黄色いクレヨンを持った。
クレヨンたちのお部屋の中でイチバン背の高い色を持って、力いっぱい画用紙に黄色を擦り付けた。
だってイチバン可哀想だったから。
お絵かきの時間。
「心に残ったものを描きましょう。お休みの日に行ったところでも、いつも幼稚園でやっていることでもいいです。そのときみんながどんな気持ちになったか考えながら描いてみましょう」
先生はそう言うとみんなは、何を描こうかと横の席の友達と話し合ったりしていた。
私はというと、何を描くのかまだ決めてもいないのにクレヨンの箱を開けてイチバン背の高い黄色を持っていた。
他の子達のクレヨンたちを見てもそうだ。青色と黒色が1番か2番に背が低くて、黄色の背が高い。
みんな仲良くおんなじくらいに使ってあげないと可哀想。
私はライオンとキリンと黄色い鳥と黄色い花を描いたけど、それでも全然背が減らない。
だから空も黄色くした。黄色い空を描いた。
青色がいつもイチバンに背が低くなるのは、みんな空を青色でいっぱいにするからだ。
だから私は青色の代わりに黄色で空をいっぱいにした。
「キヨちゃん変だよ! 黄色い空なんておかしいもん」
横から私の絵を覗いてきたユウカちゃんが言った。
「いいもん。黄色でいいんだもん」
私は手を休めないままそう返したが、それでもユウカちゃんはマナちゃんやカリンちゃんを連れてきて、みんなで変だ変だと言った。
それでも私は見向きもしないから、それにも飽きてしまって、みんなそれぞれの机に戻っていった。
「あら、キヨカちゃんの絵は黄色でいっぱいねー」
次に先生がやってきてそう言った。
「うん、だって黄色が可哀想だから」
「可哀想?」
「そう。イチバン背が高くて使われてなかったの」
「そうなの。キヨカちゃんは優しいのね」
私がそれには答えずに黙々と黄色い空を描いていると、うーん。と先生は少し考えた声を出してから訊いてきた。
「これはお昼? それとも夜?」
「わかんない。とりあえず黄色」
「そっか。まだ太陽は描いてないのね。どこに描くの?」
私はまだ白いままのところを指差して、ココ。と言った。
「そっか、そこに描くのね。そうしたら、夕方にするのはどう? 大きな太陽さんをオレンジにして。そうして描いたら黄色い空がもっとキレイなると思わない?」
私は手を止めて少しだけ考えた。
「うん、そうかも。夕方にする」
「お昼の太陽さんは上の方にいるけど、夕方はどこにいるかな?」
また私は少しだけ考えてから答えた。
「もっと下の方」
「そうだね。これが地面でしょう? もう地面に半分沈んじゃってるくらいに夕方にするのはどう? とってもキレイな夕焼けよ」
私は先生の言った通り、オレンジで半分だけしか顔を出していない太陽さんを描いた。
壁一面に並んだ青い空のみんなの絵の中で、私の黄色い夕焼けの絵だけはとても目立っていて、少し特別な感じがした。