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2021/10/13 選択的夫婦別姓制度の理解は何が足りていない?

こんにちわ。がば犬です。
最近少し話題の選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について調べました。

・選択的夫婦別姓制度の説明

この制度は簡単に行ってしまうと結婚した時に夫婦の氏(名字)は同一に揃えないといけないとする現在の法律を、希望するなら別氏でも良いと変えることを目的としています。まず現行の法律で具体的に言うと民法750条にて以下の通り規定されています。

夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。

また合わせて戸籍法第74条1項が夫婦はどちらの氏を名乗るのか決めないと婚姻ができないと言っています。

婚姻をしようとする者は、左の事項を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。
一 夫婦が称する氏

これらの法律を改正して選択的に、つまり希望するならば夫婦が別氏であることを選べるようにしようということが選択的夫婦別姓制度の目的となります。制度の概要については以下の法務省のQ&Aも参考になりますので、そちらを参照ください

法務省のページにも記載がある通り選択的夫婦別氏制度の原案となる審議は平成3年(1991)の30年前に始まっているのですが、2021/10/13 現在ですら未だに検討、議論、国民の理解を得る必要があるとする段階にいるようです。

本記事の結論ですが、本制度の導入が検討のまま滞っている理由は結局分かりませんでした。ただ選択的夫婦別氏制度が政府でどのような立ち位置なのか少しでも理解する助けになれば幸いです。

・制度が必要とされる理由の理解

さて、この制度に関しては様々な意見や議論がありますが、あくまでも本記事では政府がどのように捉えているかという視点で資料を読んでいきます。


https://www.moj.go.jp/content/000102870.pdf

まずこの制度は30年前の時点で導入に積極的な意見が多数あったと記録されていました。こちらの資料、P4 試案に対する意見の概要を見ますと導入に賛成とする以下の趣旨が大半を占めていると述べられています。

・女性の社会進出に伴い氏の変更が不利益・不都合をもたらす
・自分の名前を大切にするという価値観の多様化を許容、尊重すべきである
・実質的に女性が氏を変更することが大半であるから現行の制度は男女で不公正なものである

個々の理由に関して深堀りしていくことは今回は控えますが、根本的には自分の名前を変えることは制度上でも心理的な面でも簡単なことではなく手間や抵抗感を覚える場合があり、元々の名前のまま結婚を行えるようにしたいという希望があることは確かでしょう。

・具体的な制度の中身

この選択的夫婦別姓制度ですが30年前から議論されているだけにややこしく、妥協案として戸籍上は同性にするけど通称を利用するとか、原則はこうだが例外的に許可すると記載するだとか、グラデーションがあることを理解しないと混乱すると思われます。

これについて政府の見解を探してみると、30年前の資料ですがこの別姓を可能とする案としてA,B,Cと3つの草案を用意されておりました。古いものですが現代でも議論の叩き台にはなると思いますので紹介していきます。

まずA案では原則として夫婦の氏を定めるとしつつ、必ずしも義務ではないので希望があれば定めない、つまり結果的に希望すれば戸籍上も元の氏を利用して良いというものです。

この資料の中では3つの案のうち、このA案が氏を定めるという現行制度の枠組みを維持しつつ、国民に受け入れやすい案であるとも記載されています。この段階では法務省の概要にある例外的夫婦別氏制度に該当すると言えるでしょう。

このA案をさらに推し進めてどちらも原則とはしないこと、つまり夫婦において同氏または別氏のどちらも同等に選択できるように制度を変えようという意見が現在の選択的夫婦別姓制度の主流の考え方になるのではないでしょうか。

B案では婚姻に伴って氏を定めるという原則は無くして、むしろ特別に合意があった場合にのみ夫婦で同じ氏を使うという案です。簡単に言ってしまえば婚姻に伴って氏を定めるという概念を除いたものです。

3つの案の中では一番リベラルな意見に感じますし多くの支持があったようですが、当時の世論調査ではまだ現行の夫婦同氏制度を支持する意見も多く時期尚早であるとされています。現代でもA案寄りの賛成派とC案寄りの反対派に別れてる印象ですので、このB案は未だ時期尚早のように思われます。

C案では原則として同氏であるという義務を残しつつ、旧姓の利用を法律上認めるように制度を改めるという妥協案となります。イメージとしては戸籍上は氏が変わってしまうけれど、実生活では旧姓利用で不利益が無いようにする方針です。

現在でいわゆる選択的夫婦別氏制度に反対の立場をとっている方も、少なくともC案のように旧姓利用者に対して不利益が出ないようにすることは必要であるという考えの方が多い印象ですので、この案をベースとした取り組みが行われているようです。

・男女共同参画基本計画ですら検討止まり

ところで本制度は女性の社会参画時に不利益を及ぼすことの対策でもありますので、男女共同参画でも当然扱われるテーマだと考えておりました。実際に最新の第5次男女共同参画基本計画で本制度について調べると、「第9分野 男女共同参画の視点に立った各種制度等の整備」にて更なる検討が必要と述べられております。

具体的どのように述べられているのか以下の通り引用いたします。


イ 家族に関する法制の整備等
① 現在、身分証明書として使われるパスポート、マイナンバーカード、免許証、住民票、印鑑登録証明書なども旧姓併記が認められており、旧姓の通称使用の運用は拡充されつつあるが、国・地方一体となった行政のデジタル化・各府省間のシステムの統一的な運用などにより、婚姻により改姓した人が不便さや不利益を感じることのないよう、引き続き旧姓の通称使用の拡大やその周知に取り組む。【関係府省】
② 婚姻後も仕事を続ける女性が大半となっていることなどを背景に、婚姻前の氏を引き続き使えないことが婚姻後の生活の支障になっているとの声など国民の間に様々な意見がある。そのような状況も踏まえた上で、家族形態の変化及び生活様式の多様化、国民意識の動向等も考慮し、夫婦の氏に関する具体的な制度の在り方に関し、戸籍制度と一体となった夫婦同氏制度の歴史を踏まえ、また家族の一体感、子供への影響や最善の利益を考える視点も十分に考慮し、国民各層の意見や国会における議論の動向を注視しながら、司法の判断も踏まえ、更なる検討を進める。【法務省、関係府省】

①に関しては先程述べたようなC案を推し進めると述べられています。これ自体は不利益を被る方の助けになるので必要なことですが、厳密には選択的夫婦別氏制度の導入というよりも旧姓利用における問題点の解消や、不便さを無くすことを目指していると言い換えてもいいでしょう。

②に関してが本題となります。同氏が義務であることが不利益をもたらす場合があるとする出発点から始まって、何か積極的な提言がなされているものだと想像していました。しかし、更なる検討として一体何を想定しているのか理解に至りませんでした。

※繰り返しますが本記事は政府の見解を調べることが本意で、選択的夫婦別氏制度に慎重な姿勢を批判する意図はありません。ただ、「様々な意見がある状況を踏まえ、多様化と国民意識の動向も考慮し、夫婦同氏制度の歴史を踏まえ、家族の一体感と子供の利益の視点も考慮し、議論の動向を注視し、司法の判断を踏まえ、更なる検討を進める」という記述を見つけて何が言いたいのか私の理解が追いついていないだけです。

私は省庁や政府の枠組みから代表される意見は尊重します。①は現状と今後の展望も述べられており方向性が分かりますし、主体的に取り組むことが期待できます。②はよく分かりません。行けたら行くみたいな信頼感です。

・本当にただ検討が進んでいないだけ?

今まで見てきたように選択的夫婦別氏制度は更なる検討を進める段階であると政府は述べているのですが、どうも滞っている理由がイマイチ分かりません。

一つ仮定を挙げるとすると本当にただ選択的夫婦別氏制度は優先順位が低いテーマとして扱われ、議論や検討が進められていないだけなのかもしれません。

誤解の無いように明記しておきますがC案のような旧姓利用の拡大については法改正などすでに行われていますので、夫婦の氏に関する不利益に対して何もしなかったわけではないと認識しています。不利益に対する対処の方針が選択的夫婦別氏制度ではなく、より政治的に手を付けやすい旧姓の利用拡大から始めたという表現が適切ではないかと思います。

そう考えた根拠ですが、本制度は平成22年には改正法案が準備されつつも国会に提出されておりません。当時の参議院の資料で分かる通り与党内(当時は民主系の連合政権)から反対論が出たことで調整がつかなかったことが記録されております。

https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2010pdf/20100701061.pdf

法務省は、法制審議会が平成8年に答申した「民法の一部を改正する法律案要綱」(以下「改正要綱」という。)に沿った法案を第174回国会(平成22年)に提出する予定であったが、与党内から反対論が出て調整がつかず、結局、政府案の提出は見送られた。

中を見ると賛否や意見が複雑に分かれていたことが想像され、面白い資料ですので一読することをおすすめします。これを踏まえて想像をするのであれば、選挙で選ばれた代表者達にとってこれだけ連合政権内で意見が分かれた反対派を説得するほどの優先順位を持たなかったからこそ、今日まで見送られて検討が続いているのでは無いかと思います。

もちろんその後の自民党になってからも議論が長年下火であったことは変わりませんが選択的夫婦別氏制度に消極的な派閥は旧姓利用の拡大をするという具体的な政策を実現していますので、旧姓の通称利用を便利にするという現行制度の拡張で対応が進められる消極派の方が触れやすいテーマなのかなと思います。

・調べた末の筆者の意見

本テーマについては広く国民の議論が期待されていることから筆者個人の意見も述べます。あまり気負わず楽しく意見を述べたいです。

現行のC案をベースとした対応だけでは当初の課題への対処として不足しているので、もう一歩踏み込んだ対策を行うか、出来ぬならば選択的夫婦別氏制度の導入を推進すべきだと思います。条件付きの消極派です。

そもそもは選択的夫婦別氏制度を導入するかどうか、という始まりではなくて婚姻時に夫婦の氏を定めるという義務があることで生じる不利益の解消や、個の人格を尊重するための制度改正が求められていました。その中で当初はA案として例外的夫婦別氏制度が検討されつつ、より柔軟な選択的夫婦別氏制度へブラッシュアップされていたはずですが、結果的にはC案の旧姓利用を拡大する方針で進められている印象です。

C案は30年前の時点で、夫婦のどちらかは氏を変更することが義務付けられていることから個人の氏に対する人格的利益の保護をする理念からは後退していると指摘されています。同時に指摘されていた旧姓の通称利用に伴う不利益は解消に向けて推進されていると思いますが、結局の所、戸籍上だとしても自分の氏を変えたくないという根本的な人格的利益に対する要望に答えているようには思えません。

しかし選択的夫婦別氏制度の導入自体が目的となり、それ以外での解決を認めないという姿勢もやや本末転倒に感じます。現在進められている旧姓利用の拡大自体は民法、戸籍法や慣習の変化を最小限に抑えた上で実生活上の不利益の解消を狙うものですので、保守的な考えでも受け入れやすく悪い点ばかりではありません。もう一歩、個人の氏に対する人格的利益を保護するような制度改正をすることが出来れば支持に値するものだと思います。

・まとめ

以上が選択的夫婦別氏制度について調べた内容、および意見となります。

正直なところ、最初は選択的夫婦別氏制度って何で話題になってるのか理解できていませんでした。希望する人がいるなら制度を変えて、それで良いんじゃないのか程度に思っていました。調べてみたら30年もくすぶっている話で驚きました。

確かにコロナ禍の最中で真っ先にやることではなく、経済政策などより多くが期待するテーマが優先されることは仕方ないと思います。しかしこれだけ長いこと検討を進めるとか理解を待つとか、先延ばしされたような印象が拭えませんので注目が集まったときが賛成にせよ反対にせよ、ようやく前に進める機運なのかもしれません。

本テーマは本当に多様な意見があるので、是非いろいろな意見を調べてみてください。本記事が少しでもその一助となれば幸いです。

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