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桜の記憶
職場のすぐ近くに神社がある。
木々に囲まれた階段を登った先の小高い丘の上に、木々に囲まれた社殿が佇んでいる。小さいながらも、斜里にある最も古い建造物らしい。
昨年の夏から斜里にいるけど、夏から秋の間は一度もここへ訪れていなかった。わたしが初めてここでお参りしたのは、冬である。冬は木々の葉がすべて落ちていて枝の隙間から周りがよく見えた。高いところにあるので、オホーツク海も見える。なんて心地よい場所なんだろう、というのが第一印象で、それ以降頻繁に立ち寄っている。
季節は変わってすっかり春めいた町内。
あちこちで桜が咲いている。どの木もそこまで巨大なわけではない(とわたしは思っている)のだけど、とにかくあちこちに桜の木がある。神社の敷地内でもポツポツと桜色が視界に入り、どんなにむしゃくしゃしていても、落ち込んでいても、この瞬間だけは穏やかな気持ちになれる。木々の中から聴こえてくるたくさんの鳥の声もいい。
自分の記憶の中に「昔見た桜の景色」ってあまりなくて、特に子供のころに地元で桜を見たような記憶がまったくない。本当はちゃんと目にしていたのかもしれない。でも記憶にないということは、わざわざそれを意識してじっくり眺めるような生活を送っていなかったのだろう。だからここ数年ちゃんとそういう移り変わりゆくものに意識がいくようになっていることがとても嬉しい。
来年もここで桜を見られるだろうか。ひとつの場所に長く暮らすのが久しぶりで、未だに先のことが想像できない。来年もここに立っていられたらいいなと思う。そしてわたしの中の桜の記憶が「斜里の桜の景色」になったら、とても嬉しい。
2021/5/14 8:47
出勤前に立ち寄った、桜の咲く斜里神社にて