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【勝手な創作】 ドラゴンと私の奇妙な三日間
私が山岳博物館の学芸員として働き始めて、ちょうど3年が経った春のことだった。
その日は、新しく発見された洞窟の調査のため、奥山へと向かっていた。岩石のサンプルを採取しながら山道を登っていると、突然、背後から強い風が吹き付けてきた。振り返った瞬間、目を疑った。
巨大な翼を広げた漆黒のドラゴンが、私の真上に浮かんでいたのだ。
「その石を返しなさい」
低く響く声が、私の頭の中に直接響いた。手の中の岩石を見ると、中に埋め込まれた青い宝石が、月明かりに輝いていた。
考える間もなく、ドラゴンの爪が私を掴み、大空へと舞い上がった。目が眩むような高度まで上昇すると、ドラゴンは雲を突き抜け、まるで空中に浮かぶ城のような巨大な巣へと着陸した。
「人間よ、その宝石は私の卵だ」
ドラゴンの言葉に、私は驚きのあまり言葉を失った。手の中の岩石をよく見ると、確かに結晶化した卵のような形をしている。これは考古学的な大発見かもしれない―しかし、今はそんなことを考えている場合ではなかった。
「申し訳ありません。研究のために採取してしまいました。すぐにお返しします」
私が差し出した石を、ドラゴンは慎重に受け取った。その瞬間、思いがけない言葉が返ってきた。
「せっかくだから、孵化までここにいなさい。人間の学者が、ドラゴンの誕生を目撃できる機会など、そうそうないだろう」
こうして始まった私の予期せぬフィールドワーク。ドラゴンの巣で過ごした三日間は、学者として、そして一人の人間として、かけがえのない経験となった。
巣の中は意外にも快適だった。ドラゴンは魔法で温度を調節し、食事も届けてくれた。私は昼間、卵の観察ノートを取り、夜には星空の下でドラゴンと会話を交わした。彼女は古代の歴史や、失われた文明について驚くほど詳しかった。
三日目の夜明け前、卵が光り始めた。ヒビが入り、小さなドラゴンが姿を現す瞬間、私は息を呑んだ。漆黒の鱗に覆われた赤ちゃんドラゴンは、母親にそっくりだった。
「ありがとう、見守ってくれて」
ドラゴンは私をそっと巣の入り口まで運んでくれた。
「また会えますか?」と尋ねると、ドラゴンは黄金色の瞳で私を見つめ、小さく頷いた。
「山で迷子になったら、空を見上げなさい」
その言葉を最後に、ドラゴンは私を元の場所まで送り届けてくれた。博物館に戻った私は、この出来事を誰にも話さなかった。ただ、時々山に登るたびに、空を見上げては微笑むようになった。
それ以来、私の研究テーマは「古代生物と現代の神話の関連性」に変わった。そして、机の引き出しには、あの三日間の観察ノートが、大切にしまってある。
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