アルコール飲料のラベルにがんリスクの警告を勧告 アメリカ
アメリカでは、2025年1月3日にビベック・マーシー医務総監が、アルコール飲料のラベルにがんリスクの警告表示を追加するよう勧告しました。 これは、飲酒が乳がんや大腸がん、肝臓がんなど少なくとも7種類のがんの発症リスクを高めることが明らかになっているためです。 米国では、飲酒に関連して年間約10万件のがん症例と約2万件のがん死亡が報告されています。 
この勧告は、1988年から義務付けられている妊婦や運転者への警告表示に加え、がんリスクに関する情報を消費者に提供し、健康リスクの認知度を高めることを目的としています。 しかし、これらの新たな警告表示の導入には議会の承認が必要であり、実現までには時間がかかると予想されます。 
一方、日本では、アルコール飲料のラベルにがんリスクの警告表示を義務付ける法律は現時点で存在しません。しかし、特定非営利活動法人ASKなどの団体が、妊娠中の飲酒に関する警告表示を容器や広告に付けるよう酒類メーカーに要望書を提出するなど、消費者への注意喚起を促す取り組みが行われています。 また、厚生労働省は飲酒と高血圧リスクに関する指針を初めて策定するなど、アルコールの健康影響に関する情報提供を強化しています。 
日本の厚生労働省は、アルコールの健康リスクに関する情報提供と対策を積極的に進めています。以下に主な取り組みをまとめました。
1. 健康に配慮した飲酒に関するガイドラインの公表
2024年2月19日、厚生労働省は「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表しました。 このガイドラインでは、飲酒量を純アルコール量(グラム)で把握することの重要性が強調されています。具体的には、男性では1日平均40g以上、女性では20g以上の純アルコール摂取が生活習慣病のリスクを高めるとされています。 また、飲酒に伴うリスクに関する知識の普及を図り、国民一人ひとりが適切な飲酒量・行動を判断できるよう支援することを目的としています。 
2. アルコール健康障害対策推進基本計画の策定
厚生労働省は、アルコール健康障害対策基本法に基づき、「アルコール健康障害対策推進基本計画」を策定しています。この計画では、生活習慣病のリスクを高める飲酒量を飲酒している者の割合を、2022年度までに男性13.0%、女性6.4%とすることを目標として掲げ、各種取り組みを推進しています。 
3. 調査・研究の推進
厚生労働省は、アルコール健康障害に関する調査・研究を行い、その成果を公表しています。例えば、アルコール依存症の実態把握や、地域連携による早期介入・回復プログラムの開発に関する研究などが進められています。これらの研究成果は、厚生労働科学研究成果データベースで閲覧可能です。 
4. アルコール依存症患者数の動向
2021年度時点で、アルコール依存症の外来患者は約10万7,912人、入院患者は約2万6,020人と報告されています。2016年度と比較すると、外来患者は15%増加し、入院患者は12%減少しています。 
これらの取り組みを通じて、厚生労働省は国民のアルコールに関する健康リスクの認知度向上と、適切な飲酒習慣の促進を目指しています。
日本では、アルコールに関する健康リスクの啓発が進められていますが、その効果や普及には限界があると指摘されています。また、酒類業界や政治家とのつながりが一部の取り組みを遅らせている可能性も指摘されています。以下に詳しく説明します。
啓発の現状
1. 取り組みの成果
• 厚生労働省やNPO団体が主導して、飲酒と健康リスクの関係についての情報提供やキャンペーンを行っています。
• 妊娠中の飲酒リスクについては、ラベル表示や広告での注意喚起が行われています。
• 一部の自治体ではアルコール依存症対策の相談窓口が設置され、地域でのサポート体制が整備されつつあります。
2. 限界
• 消費者の多くがアルコールの健康リスクを軽視しがちで、飲酒量の自己管理が十分に行われていないとの指摘があります。
• 特に、がんリスクについての認知度はまだ低く、多くの人が「適度な飲酒は健康によい」という誤解を持っています。
• 生活習慣病リスクを高める飲酒量の削減目標も、達成が難しいとされています。
酒類業界と政治家とのつながり
1. 業界の影響力
• 酒類業界は日本経済にとって重要な産業であり、大企業が政治献金や業界団体を通じて政治家とつながりを持っているケースが多いです。
• これにより、業界に不利な規制や政策が導入されにくいという指摘があります。
• たとえば、アルコール広告の規制強化やラベル表示の義務化についての議論が遅れているのは、業界の反発が影響している可能性があります。
2. 政治的影響
• 一部の政治家が業界と近しい関係にあるため、健康リスク啓発政策が後回しにされる場合があります。
• 過去には、税制改革や広告規制の強化に関する議論が業界からのロビー活動により緩和された例があります。
遅れの背景と改善策
1. 遅れの原因
• アルコールが日本文化や日常生活に深く根付いているため、規制や啓発への抵抗感が大きい。
• 政策やキャンペーンに対する国民の理解不足や、健康リスクに関する具体的なデータの不足。
2. 改善策
• 科学的根拠に基づいた啓発活動: アメリカのように、がんリスクに関する明確な警告ラベルを導入する。
• 独立した調査機関の設立: 業界や政治からの影響を受けない機関が啓発活動を主導する。
• 市民団体の役割拡大: NPOや医療専門家による独立した啓発キャンペーンを支援。
• 学校教育の強化: 飲酒リスクに関する知識を早期から教育に取り入れる。
啓発は進んでいるものの、業界と政治家のつながりや文化的背景が政策導入を遅らせている面が否めません。透明性を高めた政策立案と国民の意識改革が、今後の課題となります。