ストーリーとしての競争戦略 #38
序論
経営を2割だけ語ることができる、論理
丹羽宇一郎曰く、経営は「論理と気合」であり、成功要因の8割は論理的に説明できない「野生の勘」などだそう。
論理とは何か。
私は筆者の定義から、論理とは「無意味でも嘘でもないが法則ではないこと」と解釈している。
世の中の事象は4つに分類される。
意味のあること・本当のこと・法則・以上全てに属さないもの、だ。
法則とは、意味があり、かつ事実で科学的にその再現性が示されているものと解釈している。
ただ、競争戦略に法則はない。つまり、科学的に再現性がない。
なぜなら、そもそも競争戦略は科学ではなく、また企業ごとの文脈に大きく結果が左右されるからだ。
なので、筆者は戦略の論理化を推奨している。
なぜか。
経営において唯一の変数である論理をコントロールし、かつ法則未満だが再現性のあるものに落とし込もうとしているから、というのが私の解釈だ。
戦略をストーリーで語る
戦略をストーリーで語るということは次を説明することだ。
個別の要素がなぜ齟齬なく連動し、全体としてなぜ事業を駆動するのか?
なぜその事業が競争の中で他社が達成できない価値を生み出すのか?
なぜ利益をもたらすのか?
筋が良い戦略ストーリーは、
戦略のシンセシスを支える因果論理がしっかりしており、ストーリーとしての一貫性が高い
競争戦略の勝ち負けは利益
競争戦略の目的は利益をあげることであり、勝ち負けは「持続可能な長期利益を生んだかどうか」で決まる。
よく利益と混同されて、競争戦略の目的となるのがシェアである。
シェアと収益性は正の相関関係(PIMS研究)があり、利益を出すための手段としてシェアは語られるべきである。
また、戦略を描く目的の1つとして混同されるのが、社会的責任である。なお、社会的責任の本筋は法人税の支払いと雇用の創出だ。
株価はどうだろうか。高い配当は十分なキャッシュによる。十分なキャッシュを生むのは何か、それは利益である。
利益の源泉
第一に、業界の競争構造である。
ハワイと北極どちらに住むのか?という話だ。
競争構造の把握には、ファイブフォース分析が有用。
第二に、戦略である。
業界の競争構造が魅力的でなくても、戦略を描ければ、持続的な利益を獲得できる。
戦略とは何か
戦略とは?
筆者は、戦略を「違いをつくって、つなげる」と定義している。
当たり前だが、競争のなかで業界水準以上の利益をあげるには、他社との違いを作るしかない。
しかし、個別で違いを生む打ち手をとっても、バラバラに打ち出すだけでは意味がない。戦略の本質はシンセシスであり、打ち手を統合する必要がある。
ちなみに、経済学では、完全競争の状態を「良いこと」と考えている。
なぜなら、効率的だからだ。独占禁止法のような制度も、完全競争による効率を尊重する思考様式がある。
戦略でないもの
目標
組織編成
分析
バズワードを交えた文章
気合いと根性
戦略には二種類ある-ポジショニング
ポジショニングは、「他者と違ったことをする」ことである。
例えるなら、シェフのレシピであり、ベクトルの向きである。
ポジショニングで差別化を図るには、「何をやるか」よりも、「何をやらないか」を決める方が重要。
なぜなら、ポジショニングの理論を支えているのはトレードオフだからだ。
戦略には二種類ある-ケイパビリティ
ケイパビリティは、企業の内的な要因に競争優位の源泉を求めるという考え方である。
例えるなら、厨房の中であり、ベクトルの大きさである。
ケイパビリティとは、経営資源の中で「組織特殊性」の条件を満たすものであり、「他社が簡単には真似できず、市場でも容易には買えない」ものである。
なぜ真似できないか?
なぜそれがうまくいくのか?という因果関係が不明確だから
企業の中で長い時間かけて醸成されるという経路依存性を持つから
時間と共に進化するので真似しても追いつけないから
まとめ:持続的な利益を生むには
まず、業界の競争構造によって左右される。
ここで魅力的でない業界にいる場合、その業界で競争している他社に対して違いをつくる。
これが戦略であり、ポジショニングとケイパビリティの2通りで違いをつくる。
ポジショニングとケイパビリティを両軸で考え、どちら寄りなのか、どちらも強いのかを決める。
ストーリーのつくり方
ストーリーのゴールは利益を生むこと
利益の作り方3つのうち1つを選ぶ(ポケモンチック)
WTP:Willingness To Pay
C:コスト
ニッチ
これら3つはトレードオフであり、1つしか選べない
優れたストーリーの条件
強い
因果関係の蓋然性が高い。すなわち論理が明確で腹落ちしやすい
太い
構成要素間のつながりが多い。すなわちある打ち手が他の要素にも作用する
長い
因果論理が前へ前へと繋がっていき、ストーリーに拡張性や発展性がある。好循環と繰り返しによってストーリーが長くなる
ストーリーは文脈が大事
ストーリーは最初から完璧に描くことのできる代物ではなく、ひぎの仕事の中で遭遇する事象をストーリー起点で考えることで洗練される。
他の会社のストーリーを真似してもうまくいかない
ベストプラクティスからストーリーを作る発想は、戦略ストーリーの「ミソ」である論理を殺してしまう
ビジネスモデルとの違い
ビジネスモデルは戦略の構成要素の空間的な配置形態に焦点を合わせているのに対して、戦略ストーリーは打ち手の時間的展開に注目している
コンセプトのつくり方
コンセプトとは
コンセプトとは、その製品・サービスの本質的な顧客価値の定義である。
誰が、なぜ喜ぶか?であり、具体的に
その製品やサービスを本当に必要とするのは誰か?
どのように利用するか?
なぜ喜び、満足するか?
を考えることであり、「どのように儲けるか?」ではない
コンセプト作りにとって大切なこと
ストーリーはコンセプトから始まる
「誰に嫌われるか」をはっきりさせる
コンセプトは人間の本性を捉えるものでなくてはならない
「こういうことできますよ」とユーザーがお金を払ってでも使うことは無関係
コンセプトの例
スターバックス:第三の場所
サウスウエスト航空:空飛ぶバス
アマゾン:人々の購買決断を助ける
ベネッセ:人を軸にしたコミュニティの継続的提供
アスクル:久美子さん
クリティカル・コア
クリティカル・コアとは
戦略ストーリーの一貫性の基盤となり、持続的な競争優位の源泉となる中核的な構成要素である。
クリティカル・コアには、二つの条件がある。
他の様々な構成要素と当時に多くの繋がりを持っている
一見して非合理に見える
一見して非合理に見えることは、持続的な競争優位に強い因果をもたらす。理由は、非合理なことは競合が真似しようとも思わないことであり、それはすなわち「動機の不在」である。
ただし、構成要素は非合理だが、全体としては合理性が確保されている必要がある。でないとただの愚行だ。
クリティカル・コアでないもの
クリティカル・コアを目指して成りきれないのが「合理的な愚か者」であり、ベストプラクティスである。
ベストプラクティスは、構成要素単体で見れば合理的なのだが、全体のストーリーに噛み合っておらず、競争優位を保てない。
先見の明とも違う。
先見の明は、先行優位性を築くことができるかもしれないが、競合が真似しようと思えばできてしまうので、持続的には競争優位を保つことができない。加えて、先見の明たるアイデアが閃いたとしても、技術が追い付いていないことが往々にしてあるため、これも無意味なのだ。
まとめ
戦略ストーリーを描く心得
賢者の盲点を見つけるには、なぜ不便なのか?こういうサービスがあったらいいのに、という「なぜ?」を突き詰める
これからの外的な機会ではなく、これまでの自社の戦略ストーリーと成長戦略とのフィットを考える(文脈)
クリティカル・コアを勇気を持って出す
戦略ストーリーの中で失敗とする条件を定義し、ダメならさっさと引っ込める(出口戦略)
戦略ストーリーの流れ
業界の競争構造(北極/ハワイ)と、自社の戦略(ポジショニング/ケイパビリティ)を把握する
「持続的な利益」というエンディング
実現すべき競争優位とコンセプトを固める
競争優位:WTP上昇かコスト低下かニッチによる無競争
コンセプト:誰が・何を・なぜ喜ぶのか?を突き詰める。そして人間の本性は変わらない
コンセプトを楽観的に信じ、悲観的に論理を詰めることで、各構成要素に一貫性を持たせる
ストーリーの強さ
太さ
長さ
クリティカル・コアを決める
修正を繰り返す
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