なぜ極寒のニューヨークでワインがつくれるのか?
「NYみたいに寒いところでワインつくれるの?」
ニューヨークのワインを販売していてよく聞かれる質問の一つです。ニューヨークというと冬の大雪や極寒の中でのタイムズスクエアでのカウントダウンなどが有名だからか、NYは寒いというイメージを持つ方が多い気がします。
もちろん答えは ”YES‼” NYでも美味しいワインが造れます。
ワインを造るために最も重要なのはブドウ栽培です。寒い冬のイメージの強いニューヨークですが、夏はブドウを成熟させるための十分な気温はあります。そして、ブドウの栽培に適した場所や気候に適したブドウ品種を選ぶことで良質なブドウを栽培することが出来ます。
1. 平均気温
ブドウ栽培において注目するべきは、年間平均温度ではなく、ブドウの生育期間中の平均温度。具体的には、ブドウの萌芽が始まる4月から収穫の終わる10月までの平均温度です。
ニューヨーク(NYC)の年間平均温度は13.2℃ですが、4~10月の平均温度は19.5℃です。特にブドウの成熟にとって大切な7月、8月は25℃近くになるので、ブドウはしっかりと成熟することが出来ます。
NYの冬は氷点下を下回ることが多く、非常に寒いことには間違いありません。しかし、冬の気温はブドウの栽培には基本的に関係なし。収穫の終わった11月から2月まではブドウ樹も休眠期のため、マイナス10℃くらいまでの温度なら特に影響はありません。
2. 場所選び
ニューヨークがブドウ栽培にとって十分に暖かさがあると言っても、冷涼な部類に入る産地なので、凍害、霜害、カビの発生などのリスクはあります。
ニューヨークのワイン産地はすべて海、湖、川の近くにあります。下の地図の通り、水深の深い複数の湖で有名なフィンガー・レイクスや、暖流の大西洋に面したロングアイランドにあります。他にも五大湖周辺やハドソン川流域に産地が散らばっています。
大きな水の塊りは水温の変化が少ないのが特徴。
⇒ NYでは海や湖の周りは、夏は涼しく、冬は暖かい。
冬には夏に温められた水が厳しい寒さを和らげ、夏は涼しい風が海や湖から吹いてきてカビの発生を防いでくれます。また、湖や川の斜面に広がる畑では、冷たい空気が滞留せずに循環するため、春先の霜害のリスクも回避出来ます。
内陸部にあるフィンガーレイクス地域では数年に一度大寒波がやって来ます。その時に気温がマイナス20℃を下回ることがあり、そうなるとブドウの樹がダメになる凍害の可能性が高まります。しかし、深い湖の水温はほとんど変わらず5℃程度。外気と水温の差は25℃。そうなると湖は巨大な温泉のようなもので寒さを和らげてくれます。
3. 品種選び
良質なワインを造るために重要なことは、その土地の気候に合ったブドウ品種を見極めることです。冷涼な産地と温暖な産地では相応しいブドウ品種は全く異なります。
ニューヨークでは、白ワインはリースリングやシャルドネ。、赤ワインはカベルネ・フランやメルローなどが多く造られています。これらの品種は早熟なので冷涼な気候でもしっかりと完熟しやすく、耐寒性もあるので寒い冬にも耐えることが出来ます。
逆に、温暖なカリフォルニアで人気のカベルネ・ソーヴィニヨンなど晩熟の品種は栽培が難しいです。ニューヨークでは9月後半になると急激に気温が下がるので、ブドウをきちんと完熟させることが出来ません。
まとめ
冬は寒いニューヨークでも良質なワインが出来る理由
① ブドウの生育期間には十分な温度や日照量がある。
② 海や湖の周辺でブドウ栽培がおこなわれている
③ 冷涼な産地に適した品種が栽培されている
* 脅威は数年に一度やって来る大寒波(マイナス20℃以下)
今回は「寒さ」という点にだけ絞って説明しました。他にもニューヨークで良質なブドウが栽培出来る要因はいろいろありますが、その話はまた別の機会に。