はじめてのnote
一人暮らしを始めた。玄関のドアを開けると右側がすぐキッチンで、廊下なのかキッチンの一部なのかよくわからない空間を挟んで左側にお風呂場とトイレが並ぶ典型的なワンルーム。朝、トースターでパンを焼いている間に顔を洗う。着替えて、大皿にパンとサラダを盛り付け、窓からの光を浴びながら朝食をとっている時、「あ、これが私がずっと求めていた生き方だ」と思った。もっと大きな野心があって家を飛び出したはずだけど、小さな部屋で朝ごはんを食べながら、なぜか突然、人生が光に包まれて前に進んでいくのを感じた。
ヴァージニア・ウルフは「女性が小説を書くためには自分だけの部屋とお金がいる」と言った。ウルフほどの才能はなくても、同じことを感じた人はきっとたくさんいるだろう。100年近く経った今でもなお。中井久夫も精神疾患者について同じようなことを書いていたから、自分が抱えている衝動が言葉への熱意なのか、単なる狂気なのかはよくわからないが、このままでは研究も翻訳も散文もほとんど手をつけれないまま人生が終わることだけは確かで、誕生日の直前に家を飛び出し、その後離婚した。久しぶりに会った友人にその話をし、朝ごはんの話もしたら「それをnoteに書いたら」と言われた。そうだ。文章を書くために家を出たのに、気合いばかりで何も書いてなかった。日々の何でもないことをとにかく書くこと。誰かが読んでくれたら嬉しいけど、とにかく書き続けるために書くこと。
家を借りる前後でお気に入りの本屋さんで買った本に、詩作についてのヴァレリーの問いに答えたマラルメの言葉が載っていた。
「唯一の真の忠告者、孤独の言うことを聞くように」
友人に触発されて始めたnoteで我ながら矛盾している。でも長い人生で初めて手に入れた一人暮らしの部屋で、ひとり言葉を紡いでいこう。
追記:最初に書いた本当にはじめてのnoteは、いまだに書きかけなのでまたいつの日か。
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