ゴトー イヌ

日記/散文/詩/文体練習/時々、読んだ本や映画、音楽について

ゴトー イヌ

日記/散文/詩/文体練習/時々、読んだ本や映画、音楽について

最近の記事

人生の広場で音楽を奏でる

池澤夏樹の『君のためのバラ』という本を読んだのは、およそ10年前だ。20代から30代への過渡期の妙に焦る頃。20歳の時は永遠の子供みたいだったのに、妙に老けてしまった友人(ベースからギターに転向)を見て、止むに止まれぬ衝動から誘ってバンドを組んだ。 忙しいと思ってやめた楽器を再び手に取って結成されたバンドは、私が研究の過労で倒れたことと友人の転勤とであっという間に終わった。私が組むバンドは毎回短命だ。20歳の時に別のベースと組んだバンドは、私がパリに留学するまでの半年だけの

    • Today is the greatest day

      夕飯を食べようとして、窓から外を見たら、空がきれいだったから、ベランダで食べることにした。ベランダにはイスの一つもない。でも一人暮らしになって食事は基本的にワンプレートなので、皿を持って出て、立って食べた。そもそも座るとフェンスで空が見えなくなる。 最近、こういう、ちょっと行儀が悪いけど、誰に迷惑をかけるでもないささいなことに生きる喜びを感じる。 夜に買い物がてら散歩に出て、アイスボックスを買ってガリガリ食べながら帰っている時にも、同じような充実感が湧き上がってきたのを鮮明

      • フィクションのような公的身分

        引っ越しが終わらず、手元にまだあまり本がないので、とりあえず寝る前にブコウスキーの『パルプ』を読み始めた。色々本がある中で、なぜこれを選んで持ってきたのか、その瞬間の自分の判断がよくわからない。面白いのに毎回最初の数ページでなんとなく中断されてきた小説。多分、「いい人っぽくない本」が読みたい気持ちだったのだろう。 ”セリーヌは本当にセリーヌなのか、それとも誰か別人か? 俺なんか時々、自分が誰かだってよくわからなくなってくる。俺はニック・ビレーン、それはわかってる。でもたとえ

        • はじめてのnote

          一人暮らしを始めた。玄関のドアを開けると右側がすぐキッチンで、廊下なのかキッチンの一部なのかよくわからない空間を挟んで左側にお風呂場とトイレが並ぶ典型的なワンルーム。朝、トースターでパンを焼いている間に顔を洗う。着替えて、大皿にパンとサラダを盛り付け、窓からの光を浴びながら朝食をとっている時、「あ、これが私がずっと求めていた生き方だ」と思った。もっと大きな野心があって家を飛び出したはずだけど、小さな部屋で朝ごはんを食べながら、なぜか突然、人生が光に包まれて前に進んでいくのを感

        人生の広場で音楽を奏でる