【書籍紹介】生命とは何か シュレーディンガー
量子力学の創始者のひとりとして有名なシュレーディンガーは、物理学の立場から生命の謎を考察しました。これまで、物理学者が生物学を扱ったことはありませんでしたが、シュレーディンガーはこれに挑みます。その時の講演を書物にまとめたのが本書です。一般向けに編まれた書物とはいえ、化学、物理学、生物学の素養や、時代背景の理解も求められ、難解です。
しかし、現在の量子力の応用や、医学の発展を理解するうえで、一回元祖にあたってみたいという欲求が抑えられず、本書を手にしました。
自分自身の振り返りとできればいいなと、思っております。
著者:E.シュレーディンガー
量子力学の基本方程式であるシュレディンガー方程式を提唱した天才物理学者です。有名な「シュレディンガーの猫」の思考実験では、観測するまで存在が不確定な、量子のふるまいのわかならなさを世に広めました。
一方で、生物学、哲学、精神分析など幅広い分野に関心を示し、各方面で実績を残しています。また、このような天才にありがちですが、私生活では自由で破天荒であり、決して褒められるようなものではなかったようです。
一人の物理学者という枠を超えて、人物として語り継がれる魅力を感じずにはいられません
概要
構成(目次)
まえがき
第1章 この問題に対して古典物理学者はどう近づくか
第2章 遺伝のしくみ
第3章 突然変異
第4章 量子力学によりはじめて明らかにされること
第5章 デルブリュックの模型の検討と吟味
第6章 秩序、無秩序、エントロピー
第7章 生命は物理学の法則に支配されているか
エピローグ
第1章
本書の中での結論は少し先の話になるのですが、シュレディンガー先生はあえて先に、生物体の肝要な部分、すなわち染色体、あるいは染色体上の遺伝子はこれまで物理学的に扱ってた考えかたでは扱えないよ、と言っています。そのうえで、こうすれば説明できるよ、というのが本書の構成となっています。
その後、元に戻り、物理学的に生物を見た場合どうなるのか、という話を進めます。
原子がどれくらいの大きさか、というのはこの時代にはもうわかっていまして、Åという単位も使われていました。また1個1個の原子は不規則な運動(ブラウン運動など)をしていることもわかっていました。
物質として認識できるような大きさになると、その不規則性は無視して物理学的な法則で扱えるようになります。物理の法則は統計的なもので、極めて小さい原子のひとつが不規則な運動をしたとしても、大きな塊となれば、これは統計的に正しいとして扱えます。このことをいくつかの物理法則を紹介しながら説明していきます。第一に常磁性です。細長い石英の管に酸素ガスをみたして磁場に入れますと、ガラスが磁化されます。これは酸素分子が小さな磁石になって、磁場に平行に向きを変えるからです。しかし、全ての酸素分子がきれいに平行になっているわけではありません。それに分子の向きをバラバラに仕向けるような熱運動が働きますと、ひとつひとつの分子は向き変え、磁場は弱まります。このように、磁場の強弱が表れることは、物理学の法則の精度は多数の原子が参与していることが元になっていることを示しています。
第二の例としてブラウン運動と拡散を紹介しています。ブラウン運動は電子の不規則な動きを示す用語です。ブラウン運動と似た例として拡散を挙げています。拡散は濃度の高い方から低い方へ、不規則に広がっていきます。拡散は一つの偏微分方程式で表せますが、それも莫大な分子を扱うから法則として扱えるのであって、一つ一つの原子でみれば、誤差を予期しなけばなりません。
第三の例としては精度の限界として、当時使われていた「ねじり秤」の限界について述べます。
そして章の最後、第10節で、全ての物理法則に期待される不精密度の目安として非常に重要な事として、「分子数の平方根の法則」(√n法則)を付け加えます。
例えば一定の圧力、温度の容器の中に、ある気体が分子がちょうどn個含まれているとします。nが100ならば100の平方根10、約10の誤差が感がられます。もし100万なら、約1000の誤差が検出されます。このことから、生物体は比較的粗大な構造を持っていないと、法則をあてはまることはできないことがわかります。
100万は大きな数ですが、1000分の1という精密度では、いやしくも「自然の理法」の威厳をしめすには、優れた精度と言えない、と疑問を投げかけます。「自然の理法」とは、、第2章に続きます。
第2章
物質であれ、生物であれ、十分な大きさあるのだから、統計的物理法則で説明できるのではないか、と考えて良さそうですが、シュレディンガー先生は、30年前ならそうだったかもしれないが、今はもうそれが誤った認識であることが分かっている、と言います。
第1章、第10節で、1000分の1の原子数が100万程度の大きさだと、1000分の1程度の精密度、となると説明していました。しかし、染色体分子、遺伝子の大きさは極めて小さいものに違いないにも関わらず、極めて精緻で永続性をもっている。これは従来の周期的物質を扱ってきた物理学の考え方では説明できないことだと章の冒頭で述べています。
第2章では、その後、染色体の分離による遺伝のしくみを明らかにしていきます。この辺りは、中学高校の生物で習う範囲です。
減数分裂に注目し、受け継がれる形質の数、電子顕微鏡での観察などから、一つの遺伝子の大きさを、約300Å(オングストローム)だと推定します。ここに収められる原子の数は多くても100万ないし、数百万を超えない程度と考えられ、古典的物理学、物理学の統計的法則をあてはまるには少なすぎることを指摘します。
もうひとつは遺伝子の永続性について明らかにしていきます。同じ表現型が何世代にもわたって数世紀にわたっても持続している、これは驚異的であると、述べています。
第3章
第3章では突然変異について述べていきます。突然変異とは、子世代に現れる連続的な変異とは異なります。
例として、大麦の芒(のぎ、穂についてるトゲトゲ)を挙げています。ある平均的な長さの芒をもつ大麦の種をとってきて栽培したとします。この大麦から、長いかったり短かったり、結構いろんな長さの芒を持つ大麦が生まれます。しかし、バラつきの範囲は世代を経ても変わりまん。これは連続的変異です。
一方、ごく稀にですが、世代を飛び越えて、芒がない物が突然できることがあります。この大麦の次世代からは芒のない大麦になります。これは突然変異です。
突然変異は自然界では頻度は稀ですが、X線を照射しますと、発生頻度は比例的に増加していきます。このことから、定量的にイオン化を起こす頻度を測定することができます。これにより、一つの遺伝子の中に、実際には1000個程度の原子しか含まれていないことを推論していきます。
第4章
エックス線の登場により、第2章での推論より、遺伝子の原子の数はより少なく、1000個程度ではないかと予想できました。遺伝子の構造が、少数の原子で構成されていながら、永続的に性質を保存しているのはなぜなのでしょうか。
これをハイトラー=ロンドンの化学結合の量子論で説明できる、突然変異は量子飛躍で説明できると、以下に話しを進めていきます。
非常に小さな系では、その本性上、あるいくつかのとびとびのエネルギー量しか持つことを許されていません。その許されたエネルギー量はその系に固有なエネルギー準位と呼びます。ある一つの状態から他の一つの状態への移り変わりを「量子飛躍」と呼んでいます。いくつかの原子核が互いに近づきあってひとつの体系をなしているときは、任意の配置をとることができません。その本性として、不連続なある一連の配置を選びとらせるのです。これらの配置から他の配置への移り変わりが量子飛躍です。もし、次の状態(配列)がより高いエネルギーを必要とするならば、外部からのエネルギー供給が必要です。低いエネルギー準位には自発的に移り変わることができ、その場合にはエネルギーを放射します。
分子を高い準位に引き上げるためのエネルギー供給というと、まず熱が考えられます。熱運動が全く不規則な運動であることを考えると、どんな温度でも大なり小なり引き上げの確率が存在するのであって、その確率は言うまでもなく、熱源の温度と共に増加します。この確率を表すもっともよい方法はその引き上げが起こるまでに待つべき平均時間、「期待時間」を示すことです。この期待時間はW(引き上げを起こすのに必要なエネルギー)対kT(ボルツマン定数×絶対温度)の比で求めることができます。実際に当てはめて計算すると、実は生命体の中で、めったに起こらない稀な確率であることが分かります。
次に、異性体分子の可能性について述べています。同じ一群の原子が、異なる分子を形成することが知られています。これは例外的なことではありません。異性体はそれぞれ異なるエネルギー準位をもっています。なので、異性体から異性体への遷移が起こりうる可能性が考えられます。しかし、異性体からもうひとつの異性体に遷移するには、その両者のエネルギーより高い準位の中間体の配列を経なければなりません。実際に必要なエネルギーはその準位の差ではなく、最初の準位から中間体までの閾値が必要なエネルギーとなります。
なので、分子というのは非常に安定的であって、ごく稀に遷移が起こる。おそらく遺伝子は分子であって、突然変異はごくまれな分子の遷移、分子構造の変化によっておこる、と考えているようです。
(今では遺伝情報は分子の構造変化でなく、分子の配列によって起きることが分かっています)
第5章
遺伝子の性質から遺伝子の構造についての推論となります。
比較的少数の原子から成る遺伝物質は絶えず熱運動が加えられていますが、果たして、その構造が長い間変わらずに耐えられるものなのでしょうか。また、遺伝子および突然変異の一般的な描写は説明できるのでしょうか。
一つの固体を作る方法として、二つの方法が示されます。
まず一つは周期性固体についてです。
結晶(=固体)は分子が三次元に周期的な結合を何度も何度も繰り返して、一つの固体となっています。結晶はこのような方法で作られています。
もう一つの方法として、退屈な繰り返しをしないでだんだん大きくなって凝集体を作り上げていく方法です。そのような分子においては、あらゆる原子、あらゆる原子団が個性ある役割を演じます。これを「非周期性結晶」と名付けます。一つの遺伝子ーあるいはおそらく染色体繊維全体ーはひとつの「非周期性固体」であると、考えられると述べました。(*遺伝子の構造がわかっていない前提での推論です)
では、遺伝子および突然変異の一般的な描写は説明できるのでしょうか。例えばモールス信号は点と線の組み合わせと4を超えない集まりだけで30程度の信号を送ることができます。もし点と線の他にもう1種類の符号を使うことができて、10超えない集まりであれば、88,572種類の異なる「字」を表すことができます。もし、5種類の符号で1集団に含まれる個数を25までに増やせば、372,529,029,846,191,405です。このことにより、一つの非周期性分子、遺伝子を分子としてみた描像を用いれば、生物の非常に込み入った生長の設計図が精密に織り込まれていると考えても、無理はありません。
また、突然変異、分子の安定度についても、の自然変異、X線変異で起きる事実に対し、十分に吟味に耐えうるとして、説明されています。
第6章
第5章までで、遺伝物質が高度の持久性を持っていて、かつ、その大きさが甚だ小さいことを調和させるために、「非周期性結晶」という分子を形成していることを説明してきました。
この分子(遺伝子)には確率の法則が通用しないわけではないけれど、古典的な物理学の法則が量子論によって修正されています。生命は秩序から無秩序へ変わっていくだけでなく、現存する秩序が保持されています。
ここで一旦、染色体、遺伝子は脇に置いて、物質が秩序から無秩序にむかっていく物理的法則、熱力学の第二法則(エントロピーの原理)が生きている生物体の目に見える程度の行動に対して、どのような意義をもつのか概観していきます。
生命と物質の違いは何か。
生命は、生きている間、崩壊して平衡状態になることを免れています。物質は急速に(最後の歩みはとても遅いけれど)平衡状態に近づいていきます。
では生命体はどのように崩壊するのを免れているのでしょうか。それはわかりきった答えをするなら、食べたり、飲んだり、呼吸をしたりするからだ、と言えます。これを体内で物質代謝しています。
しかし、最初から生物体がもっているエネルギーは変わらないのに、カロリー(エネルギー)を摂取して、交換するのにどんな利益があるのでしょうか。
生命体も含めた、自然界のありとあらゆる事象、過程において、エントロピーが増大しています。したがって、生きている生物体も絶えずエントロピーを増大しています。エントロピーが増大して熱力学的平衡状態に達するーすなわち「死」をさけるための唯一の方法は、負のエントロピーを絶えず取り込むことです。食べたり、飲んだり、呼吸したりしおて、負のエントロピーを取り込んでいるのです。
第7章
一個の生物体は、生命を持たない物質と比べて、感嘆すべき規則性と秩序を示しています。それを支配しているのは、ごく小さな原子団、遺伝子です。ごく小さい遺伝子の、ほんの少数の原子が位置を変えただけで、生物体の目に見える変化に影響を与えるのに十分なのです。
生命体が崩壊を免れるために、秩序(負のエントロピー)を自分に吸い寄せる天分は「非周期性固体」と呼ぶべき、染色体分子の存在と切り離せないのではないか、と考えます。
物理学の視点から考えますと、無秩序な原子が多数集まると一定の法則(秩序)で考える事できます。(⇒無秩序から秩序)
ところが生物学では、驚くべき小さな原子団が高度に秩序を維持し、生物体の秩序を作り出しています(⇒秩序から秩序)。
秩序性を生みだす道は、このように一つは「無秩序から秩序」統計的法則性)ともう一つは「秩序から秩序」、すなわち、マックス・プランク博士の論文による、個々の原子や分子間の相互作用を支配する力学的法則性の二つがあります。
生命を理解するには、この「秩序から秩序へ」の考え方が手がかりになります。
これによれば、生命を一つの機械仕掛け、マックス・プランク博士の言葉を借りれば「時計仕掛け」と考えることができます。時計は小さな部品が集まってできています。厳密に考えれば、バネやネジのひとつひとつが運動をするたびに熱エネルギーを生み、原子のブラウン運動を生じさせています。しかし、これは全体の時計の動きに影響を与えることはありません。わずからがら影響を与える可能性はありますが、可能性はほとんどゼロです。時計仕掛けは統計的法則に従っています
では、一つの物理的な系、任意の種類の原子の集合体が「力学的法則」を表すのはどんな場合でしょうか
それは絶対温度零度に近づく場合です。絶対温度零度に近づくに従って、分子の無秩序は物理現象に影響を与えないようになります。実際に温度がどの程度まで絶対零度に近づけば、物理的に絶対零度と同等かは算定できます。この温度は必ずしも、きわめて低い温度でなければならない、ということはありません。
振り子時計では室温が絶対零度と同等です。(なので冷やしても室温でも同様に動きつづける)。だからこそ振り子時計は力学的な働きをするのです。
時計が力学的な動きを営むことができるのは、それが固体で作られていて、ハイトラー=ロンドンの力によって形が保持されているからです。この力は常温で熱運動が秩序を乱そうとする、傾向を抑えるのに十分な力を持っています。
時計と生物体に共通するのは固体=結晶であるということです。遺伝物質を形作る非周期性結晶であり、熱運動の無秩序から十分に保護されています。
そして、
エピローグ
生物、あるいは人間は自然法則に従って、ひとつの純粋な機械仕掛けとしての働きを営んでいる。にもかかわらず、私は私の運動を支配していること自覚しています
「私」は原子の自然運動を制御する人間である。ということができます。
ここから、自我、意識について考察を進めます。一人ひとりの人間に意識はひとつしかなく、経験と記憶の総和はひとつのまとまったものをなしており、他者と画然と区別がつきます。
で何なのか、何のために、このような思考を進めたのか、理解が及びませんでした。
感想
あらためて言いますが、本書はDNAの構造や仕組みがわかっていなかったときに、書かれた本です。生物学、遺伝子はこれまでの物理学では扱えなかったけれど、量子論ならば、遺伝の永続性、突然変異、遺伝子の構造を説明できるよ、という内容だっと思います。
今では間違っているとわかっていることもありますが、だいたい、当たっている方が有り得ない話のように思います。
この本が重要なのは、このような考えの進め方や、ここに取り組んだこと自体だろう、と思っています。
実際にこの本の影響を受けて、ワトソン・クリックがDNAの構造を決定しました。分子生物学が生まれる流れをつくりました。また、ニック・レーンの著書、「生命・エネルギー・進化」でもシュレーディンガーの説は触れられいて(負のエントロピーを取り込む、は誤りであるという指摘なのですが)世代をまたいでも、シュレーディンガーの声は輝きを失っていないですね。
確か、最近はkinki kidsの歌にも引用されていたような、、
解釈に誤りも多々あろうかとは思いますが、読んでよかったです。
本を読んで刺激を受けたら、コーチングでアイデアを行動にすすめてみませんか!
✓組織を率いるマネージャー
✓マネージャー候補のチームリーダー
✓チームリーダー候補のプレイヤー
○目標を達成したい方はどなたでも ^^