「創作集団プロミネンス」とその会員の皆さんの活動をお知らせします。 「創作集団プロミネンス」は、その前身である「少年文芸作家クラブ」時代から半世紀近い歴史を持つ、児童書の作家・画家の職能団体です。 現在、岩崎書店と共に、「福島正実記念SF童話賞」(中学年向け)、「ジュニア冒険小説大賞」(高学年以上向け)というふたつの児童文学新人賞を運営しています。 「少年文芸作家クラブ」は1968年秋に発足しました。 規約には「本会は少年少女を対象としたエンターテイメントの創作、ノンフィクション、翻訳、美術を職能とする者によって、構成される」とあり、 初期の名簿には故石ノ森章太郎氏も名を連ねていました。 規約の文言は「本会は主として年少の読者を対象とした創作、ノンフィクション、翻訳、美術を職能とする者によって構成される」と修正されましたが、 現在も発足当時の精神を受け継いでいます。
本来そういうことを書く場ではないように思っているのですが、どこかにメモしておかないと忘れてしまったり、ほかの方にわからなくなったりすると思うので……。 (久しぶりの投稿が、こんな内容ですみません) プロミネンスの口座からの振込に使っていた、ワンタイムパスワード生成器(トークン)に今月「バッテリーがないよ」的な表示が出るようになりました。 そんなに長く使ってたっけ? とは思ったのですが、必要なときに使えないと困るので、新しいものを申し込みました。 1650円。 うーん。
通称「福島賞」は今回で36回目。 数回前から隔年開催になったため、計算が合わないと思いますが、わたしは第17回の受賞者で、デビューから22年目になりました。 コロナ禍で、今回も(前回もです)これまでのようなリアルな贈呈式を行なうことができませんでした。 贈呈式は、岩崎書店主催でオンラインで開催されました。 今回は大賞がなく、佳作のみなさんをお招きしました。 『未来の種』 山世孝幸 『ウサギ体験中!』 たなひろ乃 『カエルのアーチ』 野川美保 選考についての詳
モッテテちゃんに初めて「持ってて」されたのは、秋だった。 住んでいるマンションのそばには林や花壇や池のある公園が広がり、わたしは中学校の行き帰りにその遊歩道を通っていた。 本当に、突然のことだったのだ。 「これ、持ってて」 下校中のわたしの前に立ってそういったのは幼稚園生くらいの女の子で、器の形にした両手にはドングリがこんもりのっていた。 (あ、この公園、ドングリが拾えるんだ。え、でも、なんで? あんた、誰?) 混乱するわたしに、その子はいった。 「もっと拾うんだも
ひいばあちゃんち。 ここには、前に一度だけ来たことがある。 そのときのおれはまだ幼稚園児で、特急に乗れたことばっかりがうれしくて、ほかのことなんか、ほとんど記憶していない。 覚えているのは、すごく古くて、すごく広い家だったことと、門からお城が見えたことと、窓辺の日なたで小さなおばあさんがまるまるように座っていたこと。それくらい。 その人がおれのひいばあちゃんなんだけど、動かないししゃべらないから、「もしかして人形?」とおれは疑った。 母ちゃんが何か話しかけて、「ほ
シャープペンシルやラインマーカーがあちこちに転がっていくのを、踊り場の床で、麻里江(まりえ)は呆然とながめていた。 階段を駆け下りてきた男子の集団に巻き込まれ、くるくる回ったのだ。抱えた荷物が手を離れていった。開けっぱなしだったペンケースからは、筆記用具が飛び散った。その中に麻里江は今、ぺたんと座っている。 「すいませーん!」 わずかな救いは、さらに駆け下りながら彼らが口々に謝ってくれたこと。 (下を向いてたわたしも、いけないしね) ちょっぴり反省もしている。 大学
遠距離恋愛。 ドラマなんかで聞いたことがあるだろう。だけど、経験者はどれくらいいるんだろう? きっと、3年2組ではおれだけだ。 そう、中学3年生である。12月である。受験生に恋愛もクリスマスもない! と思ってはいるのだ。メールのやり取りも一日一往復と決めた。何しろ相手……ミオも受験生。おれにもミオにも将来の夢がある。そのために絶対、志望校に合格したいのだ。 遠距離といっても、となりの県だ。ミオの最寄り駅とおれの最寄り駅は、一本の路線のあっちとこっち。受験生じゃなけれ
なんで、その話になったんだっけ? そうだ、6年生になると修学旅行があるっていう話からだ。カンナが「うちのお姉ちゃん、修学旅行中に初めて来たんだよね」といいだしたのだ。 わたしがポカンとしていると、カンナは早口で「セイリング」とつけたした。 ああ、そうか、そうだったんだ。 「ちゃんと準備してても、やっぱりお姉ちゃん、おろおろしちゃったんだって」 それはしかたないと思うなぁ。「初めて」なんだから。いつもの授業の日だっておろおろするかもしれないのに、「修学旅行中」だったん
『カウントダウン、開始します。生命停止まであと5秒。4秒……』 この抑揚のないアナウンスは、どこから聞こえるのだろう。人の声? 機械かな? そんなことを考えながら、竜也は目の前のカプセルを見つめていた。 長い楕円形のカプセルは上部が透明だから、中に横たわる老人の姿がはっきりと見える。 紙でできたような白い着物に身を包み、目を閉じたきりの彼は、竜也の祖父だ。 「若いころから、白髪だったからねぇ」 となりに立つ母が、唐突にそういった。 祖父の髪は真っ白だ。竜也が幼いこ
声に出したらダメだ、とレミは知った。 「ママ、ウワキしてるの?」 ひとりごとだったのに、口から出た言葉は耳に入って、頭にしみこんでしまったのだ。 疑う理由ならあった。理由だらけだった。 ずっと黒髪をひとつに結んでいたママが、突然、茶髪になった。パーマもかけた。 「どうして?」と聞いたレミに、ママは「えっちゃんがやってくれたの」とズレた答えをくれた。えっちゃんはママの同級生。美容師さんで、レミも幼稚園時代から、中一になった今でもカットしてもらっている。 ママは新しい口
おれを乗せて、新幹線が発車した。 夢のような時間の始まりだ。 東京駅に着くまで、ゲームし放題! 新幹線だけど、のろのろ走ってくれたらいいのになって思うほどだ。 母さんが買っておいてくれたのは、指定席の切符。その席は窓側だった。 景色を見てたら楽しくて、あっというまに東京に着くわよ、といっていたけど、母さんには天気の予知まではできなかった。 今日は朝から雨。全国的に雨だ。ところによっては激しく降るでしょうと、テレビのお天気お姉さんがいっていた。 新幹線が走りだし
電車の窓の向こうに海が広がると、引き返したくなった。運転士さん、止めて止めて、バックして。心の中で頼んだりもした。 駅で電車を降り、改札口を出て歩きだして……その道の先に海が見えたとたん、駆けだしたくなった。 だから、わざと足を止めて深呼吸した。道の脇の細い川から海の匂いがする。一年前もそうだった。ここでクンクン、かいだよね。 わたし、海水浴なんか好きじゃない。 泳げないし、日焼けしたくないし。潮風はベタつくし、足の指に砂がはさまるし。 それなのに一年前の今日、こ
「ついてない」 貴之はつぶやいた。この言葉を使えるようになったのって最近だよなぁと考えた。「ついてない」といいたくなるのがどういう状況かわかったのが最近なのだろう。 たとえば、出がけに自転車のパンクに気づくとか。バスにはまにあったけれど、傘は玄関に置いたままで来てしまったとか。 行きはよかった。バスに乗っていれば駅前に着く。高校受験のために通う塾は駅に近い一角にあり、遅刻もしなくてすんだ。 帰りも悪くなかった。塾からバス乗り場まで、何事も起こらなかった。 ところが、
「ああ、学校、行きたくなーい」 アキナは叫んだ。いや、叫ぶような口調だが、声は小さかった。 となりで、ユイカが吹きだす。 「キナちゃん。ここ、学校だけど?」 ふたりは登校したばかり。6年生のげた箱の前にいた。 「そうだよね、来ちゃったよね」 アキナは恨めしそうに上ばきを落とし、蹴りこむようにつま先を入れた。 「どうしたの? キナちゃんは5月病?」 「5月に関係な……くないか。先月、PTA総会ってのがあったでしょ」 「キナちゃんのパパ、会長さんなんだよね? うちのお母さ
中学校の正門前、「入学式」の立て看板の横でスマホを構え、母ちゃんがおれを写した。 「チーズ、チーズ! いい顔して」 命令しながら、何回か写した。 そのまま画面を操作している。ばあちゃんや父ちゃんにおれの「いい顔」を送ってるんだろう。スマホを見つめたまま「学ランが浮いてるわねぇ」とつぶやく母ちゃんは、窮屈そうなピンク色のスーツを着ている。 『学ランが浮いてる』っていうか、中で体が泳いでるおれ。成長期だから(おれの予定では)一年もしたら、この制服も窮屈になってるはずだけど。
そのハガキを手にリビングに行くと、ママとお姉ちゃんがテーブルに向かっていた。 静かだ。今夜はテレビもついていない。ママが読んでいるのは雑誌だし、お姉ちゃんが見つめているのはスマホだけど、じっとうつむいているようすは、図書館の自習室みたい。話しかけたら叱られそうだ。 つま先立ちで近づいてのぞきこむと、ママはクロスワードパズルのページを開いていた。四角いマスのあちこちに、ペンで文字が書きこんであった。 お姉ちゃんは、スマホでゲーム中。指先がくるくると画面の上を動いている。
「おれ、2月14日に生まれたらよかった」 リビングで壁のカレンダーを見ていたら、無意識に声に出してしまった。 「翔? 何いってんの?」 と、母の声。そのあきれ顔をふりかえって、翔は、ぎゅむっと口をつぐんだ。遅すぎ。出ていった言葉は戻ってこない。 1月が終わってカレンダーをめくったとき、気づいたのだ。「2月にはバレンタインデーがある!」と。 気づいた途端、翔の中に「そわそわ」が居座った。そう、その時点では「そわそわ」としか呼べない、翔自身にもうまく説明できない何かだった