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登山道整備ワークショップに参加してみた(北杜山守隊)

月々の登山道整備

お声かけいただいて、24年5月から、青梅市柚木町にある88トレイルの整備の作業に参加させていただいている。毎月一回、平日に集まって、登山道整備のやり方などについて話し合いながら進めている。
主催は、「秩父多摩甲斐トレイルアソシエーション」という名の、東京西部のアウトドア業に関連する方が中心になってはじめた登山道整備を目的とした団体だ。

奥多摩周辺は、東京から日帰り圏内ということもあって、マイナーな道でもそこそこの人数が歩いている。そのため、場所によっては荒れて深くえぐれた道も散見する。

整備は、丸太を道幅に合わせて切って、ふさぐように横に置き、石や細い幹、枝などで埋める作業が中心。

近自然工法(近自然河川工法)

この作業で参考にしているのが、「近自然工法」。実際に登山道整備についてネットで検索すると、いろんな場所の登山道整備で実施されている考え方のようだ。

「近自然学」、「近自然工法」の考え方については、以前はまっていた林業つながりで勉強したことがある。改めて、当時手に入れた本を再読したり、登山道整備に影響を与えた福留氏の本を読むなどしてみた。実際に近自然工法で整備された川を見に行ったり。

近自然工法について、ざっくりな考え方の輪郭が見えてきたので、実際にどんなことが行われているのかを、体験しに行ってみた。


北杜山守隊の登山道整備ワークショップ

参加したのは、24年10月後半に、北杜市の日向山にて日帰りで開催された北杜山守隊のワークショップ。代表の花谷氏はネパールに行かれているとかで、今回は前半の自然観察はインタープリターの杉山さん、後半の作業は山栄建設の山部氏だった。

北杜市のバックアップも厚い。南アルプスユネスコエコパークに認定されているエリアの登山道も整備している。
ユネスコエコパークとは「豊かな生態系を有し、地域の自然資源を活用した持続可能な経済活動を進めるモデル地域」。世界で134か国748地域、日本国内では10か所ある。
北杜市の一部は、2014年6月に「南アルプスユネスコエコパーク」として登録された。(なんと北杜市は「甲武信ユネスコエコパーク」にもかかっている)

前半は自然観察、後半は作業

ワークショップは、午前と午後の二部に分かれる。午前中はインタープリターによる自然観察や登山道についての体験。午後は実作業という流れだ。

一日の構成がとてもよくて、理解が深まる内容。コンテンツ造成には一年をかけたと、花谷氏は書いている。

北杜市内におけるコンテンツ造成会議、先行事例である大雪山への視察、モニターツアーの実施などを経て作り込んでいきましたが、同時に次年度からの自走に向けてのPRにも積極的に取り組みました。

花谷泰広  noteより

インタープリターと観察

説明は、山道の経緯からはじまる。

日本の登山道は、かつては仕事道でもあった。特に影響が大きかったのは、薪炭から石炭、石油へとエネルギーが変わったこと。第二次大戦以降、石油が普及するにつれて薪や炭が使われなくなり、山に入る機会がぐっと減った。

炭窯の跡。かつてはこのあたりで炭が焼かれていたことがわかる

このあたりの山は点々と炭焼き窯があり、広葉樹などを炭にして町へと運ばれていた。その後、仕事道から余暇としての登山へと道の目的が変わり、道普請されることもなくなっていった。

日向山登山道は、地元登山会の方たちが長年メンテナンスしてきた。山を登りながら、古タイヤを使った施工、木を使った土留めなど、具体的にどんな作業をしてきたのかも知れた。

また、近自然工法についても何度も繰り返し触れていた。
説明の中によく出てきたのが「保全と荒廃」、「環境もひとも」。環境の保全も大事なのだけれど、ひとが歩きにくくなってしまわないように注意する。ひとが歩きやすく、なおかつ環境の保全にもつながる方法を考えることが大事、ということだ。

写真をつかって登山道整備のビフォーアフターも、見ることができた。

整備前がどんなふうだったのか、写真でビフォーアフターを見た

深く掘れたところが修復されて、歩きやすくなっているのも、実感させられる。

登山道を荒らすもの

現場へ向かいながら、なぜ登山道は荒れるのかについて、考えていく。荒れた登山道を観察したり、実際に荒れたままになっているところを歩いてみたり。

原因はふたつで、ひとつは水の流れ。ふたつめは歩くひとの踏圧だ。

水の流れ

水の流れは、めぐる水講座でやる水脈の読み方と似ている。地上を水が流れていなくても、指標をさがせばどこに水が流れているのかを見つけることができる。

今回、日向山では栗のイガがヒントとなった。

落ち葉や栗のイガが集まっているところが、水の通り道

水は軽いものから運んでいく。ちょうど栗の実が落ちたあとだったので、水の通り道に栗のイガが集まっていて、わかりやすかった。

日向山は、奥多摩の山と土質が大きく違う。花崗岩が崩れてできた真砂という砂がほとんどだ。粒子が大きめなので水がたまることはなく、浸透しやすい。土は固まらずに、さらさらと崩れていく。なので、ギュッと踏み固まることはなく、水の流れによって削られて砂が流れる土質。
踏圧がかかると、その部分だけが凹み、流れが集まりやすい。また、道がカーブしているところではカーブの外側に流れが当たり、壁が崩れやすいようだ。

踏圧

道を荒らすもうひとつの原因は踏圧。ひとが踏みつけて、植物の根や苔、地衣類などが作ったすき間を潰してしまう。日向山では植物などがなくなると砂をつかまえておくことができなくなり、流れ出やすくなる。

人が歩いて踏まれ、水が流れて、道が荒れる

ちなみに奥多摩の山は泥が多い。踏圧によって土が固まり、水が浸透しにくくなるところが、ここと大きく違う。固まった地表を水が勢いよく流れ、より深く掘削される。泥の粒子は軽いので水に運ばれやすく、流れた先がツルツルの歩きにくい路面になっていく。

説明の途中、荒れた道を整備せずにそのままになっている区間があった。上り下りを体験してみると、20センチ以上の段差、足がかりのない斜面などは歩きたくないな、と感じるのがよくわかる。

荒れた道の体験。段差の大きいところ、足がかりのない斜面は歩きにくい

実際に道が歩きにくくなると、登山者はそこを避けて通るようになる。結果、道幅が広がったり、別のルートができたりして、どんどん植物が生えている面積が狭まっていく。植物が生えなくなると、土砂が流れやすくなり、さらに荒れた部分が広がる悪い循環となっていく。

ショートカットした道も、荒らしてしまう。道は斜面に対して水平に近いほど、水の動きはゆっくりになる。等高線に対して直角になると水の流れは速くなり、荒れやすい。できるだけ蛇行させるように歩いてもらったほうが、道が荒れにくい。

ショートカットでできた道には倒木などを配置して、踏み入れないようにしていた

整備作業

午後は整備の作業。
めざすのは、人が快適で自然環境にもいい道。ひとを迎え入れるようになるのが理想だ。同時に、できるだけ植物が生える範囲を広げて、環境を保全したい。

道具

使った道具。

山の中では道具を失くしてしまいやすい。あらかじめ数を数えておくこと

スリング、3種の長さ: 丸太を運ぶ。巻き方によって一人から4人で運べる
: 土を掘る、寄せる
バール: 土を掘る、丸太を持ち上げる、抉るなど
テミ: 土や枝葉などをひとまとめにして運べる
カケヤ: 丸太を据えるときに叩いて安定させる
チェンソー: 丸太や木を切る

手順

①まずは修繕する場所の観察。なぜ荒れたのか、因果を考える。

②どのくらい修復するか、距離を決める
次に深さ(高低差)を計って必要な資材の量を予測する。距離と高低差から、何段据えるのかを割り出す。

③周辺から資材を集める。丸太、枝、落ち葉、土砂を整備する周辺に置く。
枝は太いものから順に詰めていくので、置くときに太さ別に並べておくとよい。詰めやすいように、30~40センチメートル程度に折っておく。
(丸太はできるだけ太いものを準備する。太くて重いほど、安定するから。)近自然河川工法の、本流付近はできるだけ大きい岩を配置するのと似ている。

④丸太の配置を考える。細い枝などで仮置きすると、イメージしやすい。ハの字で置くと、段差ごとに水の蛇行ができる。

⑤丸太を切って据える。仮置きした枝よりもちょっと長めに切る。幅の広いところは道に平行に置いて、道幅を狭くする。
丸太の長さが足りないときは、道の側面にすき間ができないように、丸太で埋める。

⑥大きい有機物から空間を埋めていく。細い丸太など太めのもの→太めの枝→細めの枝→落ち葉→土砂の順。

整備した道

整備前の状態
整備したあと。

かさ上げされて全体が高くなった。角度を変えて据え置いた丸太が、水を蛇行させるように誘導する。
段差が小さくなり、足を載せる場所が安定して、歩きやすくなった。

しあがってすぐは、歩いたかんじはフカフカ。
段の下を水が浸透している。流量が少ないときには、水は真ん中を通るようだ。

”メグル水”視点でみてみる

地表を流れる水だけではなく、土の中の水や空気の流れをイメージできると、少ない手間で効果を出しやすいと思うのだ。

水をゆっくりにする作業

・丸太の段差で、水の動きをゆっくりにしている。段差は高くない方が、段の下が掘られにくい。

・「できるだけ太く重い丸太を使う」という点が、近自然河川工法の考え方によるのかな、と思った。
川の本流に大きな岩を置いたほうが、大水が出た時に崩れにくい。

・木の段を並行には並べずに、ハの字にして、水を蛇行させる。

・幅が広がった道は狭くして、踏まれる面積を小さくする。水の流れからみると、幅が広い方が水圧は弱く、狭いと強まる。狭くしたほうがいい場所の見極めはあるのだろうか。狭くした部分の経過を見てみたいと思った。

・浸透しやすい土質ながら、多くの人が歩く踏圧で植物が生えなくなり、土砂が流れ出して掘削がすすんでしまう。できるだけ直登させないように人を歩かせるのが、ポイントなのかも。

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メグル水講座は、青梅&奥多摩で、毎日、おひとりから開催しています。庭先のぬかるみ、畑の水はけ、裏山の手入れ。土の中の水の動きでよりよくしていきます。
出張講習も承っています。リクエストしてください。

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