マーケットアナライズ要約:『しぶといCPIとの戦い方』米国消費者物価指数CPIを原点に返り調べる】
本編の概要
2025年1月の米国消費者物価指数(CPI)は予想を上回る結果となった。総合CPIは前年同月比3.0%、コアCPIは3.3%上昇し、インフレ圧力の継続を示した。CPIコアの内訳では、サービス部門、特に住居関連の上昇が目立つ。住居関連指数は4%近辺で下落が止まっており、これが米国の長期金利と株式市場のバリュエーションに影響を与えている。
FFレートと住居関連指数の関係を見ると、現在両者が同水準にあり、追加の金融緩和が難しい状況だ。住居関連CPIの安全値は2.5%~3%程度とされ、現状の4%超過は懸念材料となっている。
この状況下で、慎重な金融政策の継続が求められる。住居関連CPIの高止まりによるインフレの長期化は、長期金利の上昇をもたらす可能性があり、株式市場にとってはマイナス要因となる。結果として、米国株式市場は今後大きな調整局面を迎えるリスクがある。
所感
米国株価のValutationが、過去10年平均と比較して割高であることは再三指摘されている。長期金利が高い中で、このように株価が上昇してきた背景には、2024年のAI相場やトランプラリーに加えて、2025年に金融緩和が行われることが読み込まれてきた。このシナリオが崩れる要因が住宅関連CPIにあるということが認識できた。AIについても、2024年までは一貫してOptimisticな市場展望が語られていたが、DeepSeekの登場からAI半導体に対する巨額の投資に対して疑問視する観点も出て来た。また、トランプ政権の政策についても関税措置が実行され、市場の不安定要因となっている。俯瞰してみるとRisk Factorが増加しているとは言えるため、リスク回避的にポジションを調整することも考えてみようと思います。
2025年1月米国消費者物価指数:CPI
2025年1月のCPI結果は、予想を上回り高い物価上昇率を示した
・総合CPI:前年同月比 +3.0%(前月 +2.9%
・コアCPI(食品とエネルギーを除く):前年同月比 +3.3%(前月 +3.2%)
長期的な推移を見ると、2022年1月の利上げ開始以来、低下してきたCPIコア(12ヶ月平均)が、2024年末から横ばいに推移し、下げ渋っている状況である。
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米CPIの内訳は、以下の内訳となっており、サービスが非常に2/3と大きなポーションを占めていることが分かる。ここから変動の大きい食料とエネルギーを除いたおよそ8割をCPIコアとして集計している。
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今回、3.3%上昇したCPIコアの中で、「サービス」の上昇が大きいことが分かる。
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サービスの内訳ごとに上昇率を見ると、運輸サービスが大きく上がっていることが分かる。しかし、全体に占める比率としては「住居関連」が圧倒的に大きい(80%以上)であるため、「住居関連」を深堀して行く必要がある。
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住居関連指数の推移を見ると、徐々に下落してきていたが、4%近辺で下落が止まってしまっていることが分かる。この住宅関連指数の下げ止まりが、米国の長期金利・株式市場のValuationに大きな問題となる。
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住宅価格と長期金利の関係
住居関連とFFレートの関係性を見ると、概ねFFレートが住居関連よりも高く設定されており、住居関連の上昇を抑制して来たことが分かる。しかし、2011年のリーマンショック以降、FFレートの緩和が続いたことで住宅関連に対して非常に緩和的となっていたことが分かる。そして、現時点では住宅何連とFFレートが同じ水準となっている。ここから、FFレートの追加引き下げ(金融緩和)に対しては、住宅関連指数の下げ止まりが足かせとなることが分かる。このような状況に陥ると、1970年台のように大きく金利を上げて、市場全体を引き締めるような作業が必要になる可能性もある。
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住居関連指数の安全値としては、2.5%~3%程度である。住居関連CPIがマイナスになるような事態は、2011年の金融危機の直接的な引き金となった。従って、現状のように4%を超える水準が続いても困るが、安全値を超えて冷え込んでしまっても経済を揺るがしてしまう。この微妙な舵取りが金融政策には求められている。住居関連CPIを安定させるために、当面は慎重な金融政策を継続ざるを得ない。
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まとめ(米国株式市場への展望)
住居関連CPIの高止まりが継続することによるインフレの長期化は、結果的に長期金利の高止まり、もしくは、上昇をもたらす可能性がある。長期金利の上昇は、株式のValuationにとってはプレッシャーとなる。米国株式市場は、このプレッシャーを受けて、どこかの時点で大きな調整(株価の下落)が発生する可能性がある。
トランプの移民規制政策の影響
移民の規制(減少)は、上記のような住宅関連CPIに対して緩和的な作用をもたらす可能性がある。つまり、純粋に住民の増加が減少することによる需要の減少である。一方で、移民は労働力を供給するので、インフレ全般に対しては労働力需給がひっ迫してインフレ方向に作用する可能性もある。民主党政権下では、移民を大量に入れることによって需要を増加させ労働力を供給するという「高圧経済」政策を取っていた。これが、トランプ/共和党政権となり真逆の方向に舵を切っている状況である。
現代のアメリカ政治の課題は、共和党政権と民主党政権の政策の乖離が非常に大きいことである。4年毎に政策方針が大きく転換されてしまい、環境のVolatility、社会的コスト非常に大きい状況となっている。このように環境が不安定で継続性が無い状況は、アメリカ企業にとっては非常に経営をし辛い状況であると言える。
前提知識:米国10年金利とSP500の関係性について
一般的に、米国10年国債利回り(長期金利)が上昇すると、S&P500は下落する、逆相関の関係があります。これは以下の理由によります:
債券利回りの魅力が増し、株式市場から資金が流出する
企業の借入コストが上昇し、収益に悪影響を与える
高い金利が経済成長を抑制する可能性がある