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タム、サム、ソム、タム、サム、ソム・・・

いきなり、何の話だ?と思われた方。
リズムの話ではありません。
経営企画、IR関係者にとっては、とても頭の痛い話。

TAM(タム):Total Addressable Market (事業領域全体の市場規模)
SAM(サム):Serviceable Available Market(事業が獲得しうる最大市場規模)
SOM(ソム):Service Obtainable Market(実際にアプローチ可能な市場規模)

の話をしたいと思います。


事業計画及び成長可能性に関する説明資料という難問

皆さんは、「事業計画及び成長可能性に関する説明資料」をご存知でしょうか?

グロース市場やスタンダード市場に上場する際や、グロース市場に上場する企業は定期的に、この資料を作成し、公表する必要があります。

この資料の作成ガイドラインは東証から公開されています。

https://www.jpx.co.jp/rules-participants/public-comment/detail/d1/nlsgeu000004v3wv-att/nlsgeu000004v3z4.pdf

この成長可能性に関する説明資料の中で、「市場規模」について説明せよ、と求めらています。

東証のガイドラインでは以下の通りです。

企業グループがターゲットとする具体的な市場の内容(顧客の種別、地域など)及 び規模を、できる限り信憑性・客観性の高いデータ等を用いて記載してください。
※ 第三者機関が作成したデータ等を想定しています。記載に当たっては、その出典を記載してください。
※ 第三者機関が作成したデータ等がない場合、十分な根拠を有したものであるときには各社が独自に測定したものを用いることも想定されます。その場合、投資者の誤解を招かないよう、独自の測定に用いたデータの出典や前提条件を詳細に記載してください。
※ 投資者が、企業グループの事業の成長余地を評価する上で有用な情報を記載してください。
※ ターゲットとする具体的な市場の規模に関するデータ等がない場合でも、投資者の投資判断に有用と考えられるときには、企業グループの事業が属する市場全体の市場規模について記載をすることが考えられます。
※ 企業グループが複数の事業を行っている場合には、事業ごとにこれらの内容を記載することが考えられます。
・ 企業グループがターゲットとする市場の成長や変化が見込まれる場合には、その成長や変化に対する会社の認識を記載してください。
※ 将来予測を行っている場合には当該内容について記載することが考えられます。なお、将来予測を記載する場合には、予測において用いた前提条件(第三 者機関が作成したデータの場合はその出典)を記載してください。

東京証券取引所「事業計画及び成長可能性に関する事項の開示 作成上の留意事項(暫定版)」

うーーん。難しいですよね。

そして、実際に投資家って、この情報どれくらい信じて見てるんでしょ?という謎もあります。
とはいえ、どの企業も記載してますから、何か書かねばならない。

何を調べたら良いのかわからない問題

TAM・SAM・SOMの難しさは、総務省の○○白書や、○○総研などが出している調査データを使えば、すぐに市場規模が掲載できるわけではない、ということです。

この資料を作成しなければならない企業は、成長企業であり、比較的ニッチな領域において特徴を出しながら成長している企業がほとんどです。
自動車産業とか鉄鋼業のように分かりやすい分類ではないケースがほとんどです。
自分たちの会社のTAMをどう捉えれば良いのか、サービス業なのか金融業なのか広告業なのか、セキュリティサービスなのか、考えようによってはどの市場としても捉えることができる。さて困った。。。

そもそも、ビジネスでバッティングするような企業はそんなにないから、SAMとか言われても我々が成長すればSAM自体も伸びてしまう気が、いや、それはSOMの話か?うーん。困った。

そんなわけで、色々と調べるわけですが、調べれば調べるほど、どんどん横道に外れつつ、結局、データの森に埋もれるのでした。

参考にしたいTAM・SAM・SOM

そこで、2023年に上場した企業の中から、これは秀逸と感じたTAM・SAM・SOMについてご紹介したいと思います。

Arent (証券コード:5254) 

Arentは、今年上場した企業の中でも特に成長ストーリーが秀逸です。
何の会社なのかがわかりやすく、業界構造の中でのポジショニングや成長戦略が、投資家目線としてスッと入ってくる資料でした。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/5254/tdnet/2255323/00.pdf

Arentの市場規模に関する説明

Arentは、建設業界におけるDXを推進する会社です。業界の中で細分化されているテーマに対して、BIM化やSaaS化を進めることを成長戦略としています。
その中で、市場環境の説明に関しては、まず全体像として、建設業のマクロ的な課題感についてグラフとともに端的に示しています。
読む方からすると、わかりやすいのでサラッと読み飛ばすレベルの話ですが、こうした根拠データを揃えて、合理的なロジックで組み立てるのは、とてもレベルの高い仕事になります。

次に、建設業を取り巻く法規制に関する説明です。こちらも業界を取り巻くマクロ的なファクトです。
国が進める法改正や規制が、同社のチャンスになりうるというイメージがこのスライドから伝わってきます。

そして、TAM、SAM、SOMのページです。
建設業界という巨大な産業の中でのIT投資額全体をTAMとしてとらえ、先ほどのスライドで説明しているBIMの原則適用や残業規制など、国の政策が後押しして、アプローチ可能な市場環境が拡大する。つまり、市場は魅力的であるということがこのスライドから読み取れます。

実際には、この間にもいくつかスライドがあるのですが、長くなるので割愛しました。興味がある方は、ぜひ全ページを参考にしてください。

売れるネット広告社(証券コード:9235)

売れるネット広告社は、ネット通販事業者に対してデジタル広告の支援をする会社です。

市場環境の説明においては、まず、クライアント事業者のBtoCの市場環境についてグラフで説明しています。(左側)
BtoCのネット通販はまだまだ伸びているぞ。つまり市場は魅力的であることがわかります。
右側のグラフでは、その業界における広告投下媒体の変遷についてマクロデータを用いて説明しています。
このスライドでは、市場全体が伸びていて、さらにその中でもインターネット広告への資金シフトは加速していることが伝わりますね。

ここからは、クライアント業界の中でも主要な2業界についての説明です。
まずは、健康食品業界です。
左側のチャートからは、健康食品のネット通販は年々拡大していることが伝わります。右側のチャートからは、クライアントの顧客属性について示しており、年齢属性が高齢であることから人口動態的に今後、クライアントの顧客層が拡大するであろうことを示唆しています。

次に、もう一つの主要顧客である化粧品業界について説明しています。
このように、メインクライアントターゲットをそれぞれ分解して説明するケースは実は少ないように思いますので、そういった意味でも参考になる説明方法です。
左側のチャートでは、化粧品のネット通販市場が拡大トレンドであることが伝わります。右側のチャートでは、その業界内においてターゲットとなりうる企業数が増えてきていることを示しています。
つまり、業界自体は堅調に拡大傾向であることが伝わります。

最後に、TAM、SAM、SOMですが、同社においては、敢えて、TAM、SAM、SOMという流儀に固執することなく、業界全体の広告市場を全体に捉え、その中で、横展開可能な業界領域を示すことで、拡がりを表現しています。
こちらも、さらっと読み流してしまえば、何てことないページですが、それぞれの数字の定義と、このスライドに落ち着くまでの過程を考えると、色々と行ったり来たりしながら練り上げたのではないかと想像できます。

笑美面(証券コード:9237)

最後にご紹介するのは、笑美面です。
同社は、シニアホームの紹介事業をメインとするシニアライフサポート事業を展開しており、成長可能性資料は、社会課題解決よりのビジネスであることを強調しています。

この会社の特徴的な点は、TAM、SAM、SOMという概念を一旦捨てて、この1枚で市場の可能性を示していることです。
枠に囚われることなく、社会課題の解決という観点から、自社指標とマクロデータを組み合わせて独自の市場規模を算出してシンプルに表現しています。
同社が提供していることが、独自性の高いサービス展開であることから、おそらくシンプルなマクロデータとして使えるものがなかったり、ミスリードになる可能性のあるデータだったのかもしれません。
たった1枚ですが、計算式も大きく表示されており、シンプルですが十分に市場の可能性を感じさせることができる1枚になっていると感じました。

以上です。

こうやってじっくり見ていくと、成長可能性の資料って、とっても示唆に富むデータや説明ロジックが豊富で面白いですよね。


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