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【補足】ジャクソンホール解説 もう一歩深く

日本時間金曜夜のジャクソンホール会議パウエルFRB議長の講演をきっかけに株価が急落しました。

👇の記事でポイントを速報しましたが、きょうはもう少し深掘りします。

パウエル議長は1970-80年代や2000年代の教訓も踏まえ、物価安定の重要性を説きました。このことが「景気配慮より、まずはインフレ退治」との強い姿勢を受け止められました。講演での重要キーワードを軸に、超かみくだいて解説します。

最後にパウエル講演の該当箇所の要約も載せています。記事を読めば、パウエル議長の言いたいことがもっとクリアにわかるはずです。

◆ とても大事な「期待インフレ」

英語ではinflation expectationsなどと記され、日本語では「予想インフレ」とされることもあります。国民や企業が「将来、物価がどうなりそう」と考えているかです。

この「期待インフレ」は中央銀行にとって極めて重要なコンセプトです。パウエルFRB議長も黒田日銀総裁もものすごく重視しています。なぜか。以下でわかりやすく説明します。

多くの国民や企業が「1年後も3年後もそんなに物価は激しく上がらないだろうな」と思っていれば、あまりインフレ動向に気にかけることはありません。

ところが…

このように期待インフレが上昇すると、実際の値上げ、賃上げ、消費行動にも影響を与えます。結果として、実際の価格にも値上げ圧力がかかります。そして実際の値上げが進むとさらに期待インフレが高まるという悪循環が起こります。

逆にいえば、期待インフレが落ち着いていれば、実際の物価も落ち着くという好循環が続くことになります。できるだけ好循環を保つ。そして悪循環に陥らないようにする。長い目でみた物価安定にはこの「期待インフレ」の安定がとても重要なのです。この数カ月、ミシガン大調査の期待インフレへの注目が上がったのもこのためです。

◆ ここでパウエル講演チェック

いまの話を踏まえたうえで、ジャクソンホールでの講演の後半の重要箇所(後藤がピックアップして和訳)を確認します。

将来のインフレに対する国民の期待が長期的なインフレ経路を形作るうえで重要な役割を果たす。いまのところ長期のインフレ期待は安定しているが、最近インフレ率が目標を大きく上回ってきたことを考えると、満足していてはならない

インフレ率が長く低位で安定すると国民が期待するならば、そうなる可能性が高い。しかし、不安定な高いインフレも同様だ(=期待インフレが高まると、実際のインフレ圧力につながる)。1970年代、インフレが強まるにつれ、期待インフレの上昇が家計や企業の経済的な意思決定に定着していった。インフレが強まれば強まるほど、人々のインフレ期待も高まり、賃上げや値上げにつながっていった。1979年のグレートインフレーションのさなか、ボルカーFRB議長(当時)は「インフレが自己増殖している。経済を回復させるにはインフレ期待の支配をほどかねばならない」と指摘した。

高いインフレが長続きすると、家計や企業はインフレに細心の注意を払う。一方、インフレが低く安定しているならば、家計も企業も経済の関心はインフレ以外に向けられ、自由に経済活動ができる。グリーンスパン元FRB議長は次のように説明した。「『物価の安定』とは、長い目での物価の動きが穏やかで、企業や家計の経済活動の判断に大きな影響を与えないという状況のことだ」

パウエル議長の警戒がもっとクリアにみえてくると思います。後藤流に意訳すると…

  • 「期待インフレが上振れるリスクがある」

  • 「一度、期待インフレが上振れると、実際の高インフレはもっと厄介になる」

  • 「物価の安定があってこそ、健全な経済活動ができる」

  • 「期待インフレが上昇しないよう、金融政策でしっかり対応する」

  • 「(→直接は言っていませんが…)インフレ退治は目先の景気減速リスクよりももっと大事なことだ」

パウエル議長は9月のFOMCの利上げ幅にはヒントを与えませんでしたが、それでも株価が下がったのは上記の姿勢が影響したとみられます。中央銀行の政策運営の原則論ですが、それでも7-8月に金融市場で利上げペース減速への期待が強まっていたこともあり、その反動が出たとも言えます。

日々のニュースや株価を表面的に追っていると、なにがなんだかわからなくなることがあります。しかしこうして歴史や当局者の真意も意識しながらニュースに触れると、理解が深まるとともに、景気や金融市場といったほかのフィールドともいろいろつながってくると思います。

金融政策、経済、金融市場を読み解く上でのほどよい補助輪となるような解説を流していけるよう努めます。また、コメントなどいただければ幸いです。

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