見出し画像

そもそも経済#3「黒田日銀」

円安加速値上げラッシュで、日銀への国民の関心が急に高まってきました。先日、黒田総裁が「家計は値上げを許容している」と発言し、批判が殺到。撤回に追い込まれました。また、世界の利上げラッシュに孤立するように日銀は金融緩和を続けています。最近の話題のポイントをザックリまとめます。

6/20(月)、けさの日本経済新聞・朝刊1面に世論調査(6/17-19調査)が載りました(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA17BUF0X10C22A6000000/)。定番の内閣支持率よりも私の目が向かったのは下記の2つです。

Q 最近の物価上昇について…
・「許容できない」64%
・「許容できる」29%

Q 日銀は金融緩和を…
・「続けるべきではない」46%
・「続けるべきだ」36%

今年に入り、エネルギーや食糧の価格高騰に加え、円安加速により輸入コストが急増。食品や外食など値上げが相次いでいます。賃金や消費は鈍い中でのいわゆるコストプッシュ型のインフレに国民の不満がたまっています。

さらにインフレの一因となっている金融緩和は「続けるべきではない」が「続けるべきだ」をやや上回りました。景気に追い風となるはずの金融緩和に否定的な意見が多いというのは目を引きます。

異例の撤回

2週間前の6/6、黒田総裁の発言が話題となりました。「家計が値上げを受け入れている」との発言に、「受け入れいていない」「庶民感覚がない」などとSNSで批判が殺到。ニュースでも取り上げられ、黒田総裁は国会で追及も受けました。黒田総裁は「誤解を招いた」と陳謝し、撤回するという異例の展開となりました。

ただ、この発言、一部が切り取られている面もあり、少し丁寧に見ておく必要があると思います。まずこの発言の資料となったのが下記です。

東大の渡辺努教授の調査です。上記の通り、「なじみの店でなじみの商品の値段が10%上がったとき」に「その店でそのまま買う」との回答が増えてきたというものです。欧米と比べても見劣りしません。この資料をもとに黒田総裁は次のように話しました。少し長いですが該当箇所です。

赤い線は報道で主に引用され、批判の対象となったところです。ただ、緑線にあるように「ひとつの仮説」としており、遠回りな表現になっています。決して上から目線で「家計は値上げを受け入れている」と断言したわけではありません

かつ、ここで伝えたかったのは、「値上げで景気が冷え込まないうちに賃金が本格的に上昇していくことが大切だ」ということです。そのために粘り強く金融緩和を続けていく姿勢を示しました。

このため、「発言の一部分を切り取った報道に基づいてやみくもに批判するのはよくない」といった指摘もあります。さはさりとて、上記の赤い線にあるように発言したのは事実です。質疑応答で飛び出た発言ではなく、あらかじめ原稿が用意された講演でもあり、「言葉足らず」などでは済まされません。

ここで注目すべきは、黒田総裁の責任うんぬんよりも、この発言がこれほど大きな騒動になったということ自体ではないかと思います。

昨年まではよくも悪くもあまり物価が上がりませんでした。このため「値上げの許容」は話題にもならず、日銀の金融政策への国民の関心も高くはありませんでした。

ところが今年に入り、カップヌードルポテトチップスなど身近の商品の値上げが相次ぎ、ニュースでも続々と取り上げられました。かつ急激な円安が進み、そこに日銀の金融緩和や輸入コストの上昇が関連づけられました。

冒頭の日経の世論調査にあるように家計の過半は値上げを「許容できない」状態で、日銀の金融緩和にも否定的な意見が多くなっています。日経の世論調査で継続的に聞いている質問ではなさそうなので、時系列の比較はできませんが、おそらくこの半年ほどで国民の思いは大きくかわったとみられます。

孤立する日銀

金曜日にnoteで速報したように日銀は6/17に金融緩和の現状維持を決めました。公表文には「必要なら追加緩和」との文言も残しました。大半の主要国がインフレ退治のために利上げを進める中、異例の対応と言えます。

なぜ金融緩和を続けるのか。日本の足元のインフレは原油高や食糧価格の高騰、さらには円安といったコストプッシュの「悪いインフレ」です。これは日銀が目指す2%の物価目標とは異なる形です。

日銀はスライドの右のように「賃金」「消費」「企業収益」「物価」がそろって上昇する好循環を描いています。コストプッシュのインフレは企業収益に逆風ですし、いまは賃金や消費も鈍い状態。この状況ではむしろ金融緩和によって、持続的な物価上昇につなげていくことが大切というのが日銀の考えです。

金融緩和を続ければ、企業や家計の借入金利は低い状態が続くため、金利だけに着目すれば景気に追い風となります。ただ、欧米で利上げが相次ぐ中、日本の金利が上がらなければ金利差の観点から円安・ドル高が一段と進みやすくなります(下記グラフ参照)。物価をさらに押し上げる要因にもなり、国民の値上げへの不満も増幅される可能性があります。

一方、黒田総裁は最近、急激な円安には警戒を示すようになっています。円安に歯止めがかからなければ、金融政策運営の姿勢を修正してくる可能性も残っています。

参院選後に日銀総裁人事

来月の参院選でも物価上昇対策は経済での主要争点となっており、日銀の金融政策も関連する論点になっています。そして黒田総裁の任期は来年4月に切れます。年末ごろにかけ後任の人選が本格化します。日銀総裁人事は政府案をもとに国会の同意をもとに内閣が任命します。衆参のねじれがなければ、基本的に総理大臣の判断によります。

黒田日銀の起点となったのは2012年に発足した安倍晋三政権下のアベノミクスです。それから9年あまり。「異次元」の金融緩和を続けてきましたが、当初2年での達成を目指していた物価安定はまだ達成されていません。

日銀が望まぬ形で値上げが進む中、国民の不満が強まってきたのは今後の金融政策の先行き、さらには総裁人事の行方を読んでいくうえで重要なポイントです。仮に金融緩和の路線が修正されれば、円高や株安につながる可能性もあります。

日銀の金融政策運営を巡っては、経済・物価情勢だけでなく、政府・世論の風向きも今後非常に重要になってくるといえます。このnoteでは今後も日銀を取り巻く環境の変化や、そもそも黒田日銀とはなんだったのかを、わかりやすくコンパクトに伝えていく予定です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?