そもそも経済#7 VIX(恐怖指数)って?
「そもそも経済」、少し久しぶりの配信です。最近、日々の市場の動きが派手なのでどうしても目先の解説が多くなりがちなのと、会社設立など庶務もかさんでいたためです。
きょうはマーケットニュースでしばしば耳にする「VIX」です。「恐怖指数(Fear Gauge)」の別名もあります。
簡単にいうと「株安の警戒度」ですが、「そもそもどういう仕組みなのか」「VIXが上がればなんなのか」といったあたりは曖昧な方も多いのではないでしょうか。
ちょうどそのVIXが下記のように高くなっています。いまの相場の状況をつかむ上でVIXは重要です
VIXそのものの説明やなぜ大事なのか、さらには歴史的な観点からVIXとどう向き合っていくのがいいのか、わかりやすくお話しします。
◆ 恐怖指数
さきほどのチャートは2021年~でしたが、もう少しズームアップしたチャートがこちらです。
S&P500が下がっているときにVIXが上がっていることがわかると思います。「恐怖指数」と呼ばれるのもうなずけるかと思います。
◆ どうやって算出?
本来は細かい数式で説明すべきですが、ここでは言葉でわかりやすく説明します。「数式は苦手」という方もいらっしゃると思いますし、多くの方にとって、仕組みを精緻に理解する必要性は高くないからです。
まずVIXは「今後1か月間でS&P500がどれくらい激しく動きそうか」という投資家の予想を示したものです。予想変動率(Implied Volatility, IV)とも呼ばれます。
「株価が急落しそう」、あるいは「株価が急騰しそう」と考える人が増えるとVIXは上がります。とはいえ、経験則として「株価急騰」より「株価急落」のほうが起きやすいものです。このため、VIX上昇は「株安警戒アップ」となることが多く、「恐怖指数」と呼ばれています。
となると、次の疑問がわきますね。どうやって「激しく動きそうか」を測っているのか?これは「オプション」という少し複雑な金融商品の取引から計算しています。
「オプション」を説明し始めるとそれだけで何時間にもなってしまうので割愛します。ざっくりいうと、「将来株価が●●になったら、▲▲の利益が得られる」というように、1カ月後や2か月後の株価がどうなりそうかを思いめぐらしながら取引する金融商品です。この商品の価格を使えば、「今後1か月間でS&P500がどれくらい激しく動きそうか」を計算できるのです。
少し細かくなりますが、「20」「30」といったVIXの数値は、今後1カ月で「そこそこ起こりうる(標準偏差1)」可能性の株価変動率(%)を年率換算したものです。
VIXのような指数はNASDAQや日経平均などでもあります。Appleや原油先物など、オプション取引のあるものなら、基本的になんでも算出できます。
ただ、S&P500は世界で最も活用される株価指数であり、市場心理を測るうえでVIXはプロの投資家の間でも広く使われます。
◆ 「VIX高い」→「株を売るべき」?
「じゃあ、VIXが上がった時は株を売るべき?」というと、そう単純ではありません。
最初のチャートに、一本、青い線を引きます。VIX=20とVIX=30のラインです。
この2年ほどのVIXをみると、20と30は節目ともいえます(あくまで後藤の主観です)。2021年は20を下回っている期間が長く、それだけ楽観論が強かったといえます。
一方、30を超えると悲観論が拡大している時期です。ただ、40にまで達したことはありません。日常生活でもそうですが、悲観論は永久にずっと悪化することはなく、多くの場合、いずれ気持ちも好転します。
30を超えているときは悲観論から、あわてて株を売る連鎖が広がりやすいといえます。この1年でみても、30を超えてしばらくすると悲観が和らぎ、株価は反発したことが何度かありました。VIXが高い時期は長い目でみた買い場となる可能性もあるのです。
ただし、一つ注意点。最近は急激なインフレや利上げという厄介な問題に直面しており、市場心理は長期間にわたって不安定です。悲観論が和らいでは、またぶり返す展開が続いてしまっています。
◆ 歴史的には…
続いて、1996年からの長いチャートです。
いくつかイベントを足しました。リーマンとコロナが突出していることが改めてわかりますね。
ここでもう一つ注目していただきたいのが、下の方にある青い線です。VIXが非常に低い局面、つまり恐怖心が薄い状態です。
恐怖心が薄ければ株価は上がりやすくなります。しかし同時に危うさも感じませんか?楽観論がまん延すると、身の丈以上にリスクをとる人が増え、バブルへとつながりやすいのです。
そして楽観論が極まったころには新たに株を買う予備軍はあまりいなくなっています。追随する買い手が細るなか、何らかのショックで株安に転じると、今度は逆回転で売りが売りを呼び、悲観論が広がります。
VIXが急上昇した局面は、その少し前に「低いVIX」が長く続いていることが多くあります。振り返れば、2021年の株高相場も近い構図だったといえます。連日のようにS&P500が最高値を塗り替えるなか、身の丈以上にリスクをとった投資家が増え、今年はインフレ&利上げをきっかけに反動が強くでたといえます。
◆ 投資家に人気の「格言」
ジョン・テンプルトンという20世紀の著名な投資家の格言があります。ベテラン投資家でも好きな人は多く、私も節目節目でこの言葉の重みを感じています。
4つのステージ(①悲観、②懐疑、③楽観、④陶酔)にわけて、コロナ後の相場を振り返るとよくあてはまると思います。
一番気になるのはいまがどういうステージかです。悲観が極まりつつあるなら、株は絶好の買い場かもしれません。しかし、いまのインフレ&利上げの悲観論はどこまで深く、長くなるのか、誰にもわかりません。
エイヤの気持ちで「絶好の買い場」という人もいれば「バブル崩壊」という人もいると思いますが、一人の人間が断言できるほど相場の転換点をつかむのは簡単ではありません。
個人的にはかなり悲観論が広がってきていると思いますが、短期的にはまだ下落してもおかしくありません。いずれにせよ、大底をごっそり拾うというのは不可能に近いので、悲観が強まりつつある中で少しずつ買い増すのが一つの手かとも思います。
とはいえ、私には確信はありません。投資の判断はもちろん自己責任でお願いします。
いずれにせよ、株式市場では「みんな買っているから、私も買い」「悲観論ばかりだから、あわてて売らないと」と周りに流されるのはよくありません。長期のスタンスで、世の中の楽観・悲観の動きも一歩ひいて観察しながら、投資と向き合うのがいいように個人的に思っています。
市場のムードはまた折をみてアップデートしていきます。
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