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あるうどん屋さんの悲劇


「今日中に照明プランをお願いできませんか?」

まだCOVI対策による行動制限中だった22年の3月。
一本の外線電話を取ると深刻そうな声でのプラン依頼が。
基本的に飛び込みでの依頼は2週間ほどお時間を頂かざるをえません。

事情を伺うと。
・ウドン店のオーナー様
・新規のお店の工事が既に進んでいる
・照明計画に関して内装業者さんから
 「そういうのはオーナー側が用意するもの」(んなことはない)
・電気工事が明日明後日にも始まるのですぐにプランが必要

照明に関しては関係者が全員忘れていた、という感じでしょうか…
たまにある話ではあります。

手書きで品番の選定とプランを何とかその日の内に提出しました。

全てはお見せできませんがこんな感じです

クライアント様からお聞きしたお店の内容

・50坪弱の路面店(ウドンがメイン)
・ターゲットはお一人様から家族連れまで幅広い
・天井高さは約2.5m
・照明は全体的に明るくしたい
誰でも気軽に利用できるファミレス的なお店ですね。

クライアント様に最初にお伝えしたこと

・均等な明るさを全体的に確保
・路面店なので外部からの見た目にも考慮
・確実に在庫があり比較的安価な住宅用照明で構成
・他社品への代替が容易な器具で選定

※路面店…テナント型ではなく道路に面している独立した建物のお店

納期が無い現場では、確実に在庫がある商品の選定が必要です。
そのため在庫の豊富な住宅用の器具で構成しました。
住宅用と施設用(店舗や公共施設)の器具では、主にパワーに差があります。
こちらのうどん屋さんは天井の高さが住宅とほぼ同じです。
またこのような混乱している現場では予想外の事が起こります。
「ウチはパナソ◯ックしか使わねぇ」
と工事業者さんが言いだしても大丈夫なように、どのメーカーでも扱う
商品を選びました
(プラン作成は販促活動の一環なので会社的にはアウトですが、
そうなった場合オーナー様が不憫なので…)

3Dパースでどのような工夫をしたかを解説

簡易的3Dパース

右側が風除室です。
ダウンライトをあえて壁に寄せています。
当然壁面が明るくなり、外から見た時に自然と視線が向かいます。

二足歩行の人の視界は鉛直面(壁面など水平でない面)が多くを占めます
少し中に入ったところ

右はカウンターです。
恐らく天ぷらなどをここでピックするのでしょう。
そのため上側にメニューなどのグラフィックがあるのでスポットライトで
照らしています。

また、路面店は太陽光が入ってくるので、吊りものの照明で明るさ感を
付与する事が重要です。
外から見た際に店内が暗く感じてしまい「閉店かな?」と勘違いされる
恐れがあるためです。

人工照明に対し太陽光の明るさは強烈です
太陽に明るさで勝てなくても「開店している」と認識してもらえます

多人数客用の小上がり席は、和風のシーリング照明がよく用いらます。
しかしスマートさに欠けるので四角形状のダウンライトを集中して並べて
スッキリかつ和の雰囲気に合うようにしました。

奥の小上がり席


照明デザインのコンセプト

「今日はここで晩御飯にしちゃおうか?」
的な気取らない雰囲気の明かりの空間を目指しました。

まず「日常の明かり」の条件を整理します。
時間帯→働いたり学校に行ったり活動をする時間と定義しました
図にするとこのようなイメージです。

「日常の」時間帯の明かりの特徴は?

色温度については後述

こんな感じでしょうか。
しかし、3Dパース等を見ると以下のような疑問が生じるかと思います。

言ってることと違くね?

ここで一般的な住宅のリビングの明るさと比較してみます

上図のようなシーリング照明の対応畳数は平均照度150Lxの確保が
目安になっています。
それに対してこちらのお店は約200Lxです。

明るいといえば明るい…ということで


次に光の色を一般的な飲食店と比べます

食事はゆっくりリラックスしてとりたい。
と多くの方は考えると思います。
リラックスする時間帯といえば、活動を終えた夕方か朝方(朝苦手なので
個人的にはリラックスどころか戦いですが)です。
その時間帯の太陽光はオレンジ色の強い光色です。
数値で表すと2700~3000Kです。

しかしこのお店は3500K。
つまり電球色と日中の白色の中間です。
決して高単価なうどん屋さんではないので、サクッと食べて長居しない。
回転率を高めるよう光もサポートしなければなりません。
そのため「やや昼の光っぽい3500K」にしてリラックスし過ぎないように
しています。

光の高さはどうなの?

これに関しては先に説明した通り、日中の太陽光の中に合ってもお店が
営業しているように見せるため。
もう一つの理由は「対面テーブル対策」です。

短時間とは言え見知らぬ人と向かい合うのは勘弁

小型のペンダント照明を密集している箇所はおひとり様用の席です(多分)。
知らない人と向かい合うのは何となく気が引けます。
そこで目線にかかる高さにペンダント照明を密に吊るし、視界に人の顔が
入りにくいようにしました。
間仕切り機能を付与したわけです。

正解はない。あるのは関係性

このうどん屋さんのプランは3hほどで作成しました。
決して適当に作ったのではなく、以上のような「関係性の整理整頓」を
行ってのことです。

照明プランは「明るければいいんでしょ?」と思われがちなのですが
いざ手を付けると次から次へと課題が噴出してきます。

こんな作業を自分で行おうとすると片頭痛まっしぐらなので、
照明器具メーカーをうまく使って頼ってください。

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