Around The Planet Folks #6
『5-hours liner notes』の「フラワーズ」「星の夜、ひかりの街」編が公開になりました。古川さんを交えての、アジカンらしさについての対話です。
フラワーズ
シモリョーのプロデュースによる「フラワーズ」のMVはこちら。イラストはSUMIREさんです。ストリングスアレンジが為されることを前提に書いた弾き語りの楽曲を、シモリョーが美しく組み上げてくれました。
フラワーズのコーラスはermhoi。個人の閉じた世界の歌ではなくて、それぞれの人生と、それぞれの人生に欠かせない他者のことを歌っている曲なので、自分以外の声が必要だなと考えてermhoiに依頼しました。
共演したときに見たermhoiのソロのセットも良かったんですが、ライブハウスで観た彼女のバンドでのライブは本当に素晴らしかったです。石若駿とマーティー・ホロベックのビートセクションは言わずもがな、そこに乗っかる何とも形容し難いエスニシティが魅力的でした。小林うてなの「鬼の右腕」に通じる、独特なフィーリングというか。彼女たちのコレクティブには、語ることの難しい独特で複雑な感性を感じます。そういう表現のなかに、ときどきロック的なエッセンスを感じるところも好きです。
星の夜、ひかりの街
そして「星の夜、ひかりの街」のMVも公開になりました。ディレクターは僕のソロでもたくさんビデオを撮ってくれた中原君。楽曲のプロデュースも僕のソロを何曲か手伝ってくれているGuruconnect(以下、スグル君)。
この曲は僕が作った曲をスグル君に投げて、ある程度アレンジをしてからメンバーに下ろしました。割と任せっきりになりがちなビートセクションを外部に出してしまうことで、アジカンらしい記名性に少しの変化を与えたかったんですね。潔と山ちゃんは、ふたりとも「らしさ」をしっかりと持っているので、敢えてそのらしさを揺さぶることで、新しいテクスチャーを獲得できないかなと考えました。
ラップの人選はスグル君と相談しながら決めました。とは言え、どちらもファーストインプレッション通りです。
俺はずっとSIMI LABとOMSBのファンでした。彼のこれまでの作品のタッチからするとアジカンへの参加は断られてしまうかもなと想像したのですが、スグル君の紹介で快く引き受けてくれました。
デモに入れてくれたOMSBのラップが最高で、メンバー一同感動して、彼らは俺の仮歌をミュートしてOMSBのラップのループのうえで「星の夜、ひかりの街」のインストを録音しました。彼のラップがクリックの代わりと言うか。
彼の「CLOWN」はそれなりに落ち込んでいた2021年の夏によく聞いた曲で、表現を続けていく上で自分が感じている孤独にビシっとハマって、癒されるというよりは背筋に覚悟と悲しみがしっかり宿り直すような、そんな気持ちで何度も聴いていた曲です。トライバルな打楽器に重いキック(レイヤーされた金物がすごく好き)が加わって、さらに丸っこい錆びたギターが乗ってくるイントロで鳥肌が立ちます。ラップだけでなく、ビートへのこだわりもOMSBの魅力ですよね。
もうひとりのラッパーはchelmicoからRaychel。chelmicoは、ふたりともとても良い場所に言葉を置けるラッパーだなと思います。フロウにもしっかりとシグネチャーがある。思ったところに言葉を置けるアスリート的な能力も高い。やってみると分かるんですが、ビートにビシっと言葉を置いていくことって簡単じゃないんです。それを朗らかに、そして強い気持ちで成し遂げているなと感じます。無数にいるラッパーのなかから抜け出るスキルと声を持ってる。
アジカンのファンだと言ってくれていますが、ちゃんとカマシに来てる感じが製作時に伝わってきました。「ゴッチさんの言う通りにするッス」みたいな感じはまったくナシ。ちゃんとバチバチに挑んでくれるところが、格好いいなぁと現場で思いました。ラップもほんの2テイクくらいで完成。素晴らしい。
「星の夜、ひかりの街」は、ある種の父性や母性のような視点から、次の世代にバトンを渡していくことを意識して作った曲です。そうした曲であることが、OMSBとRaychelにラップを依頼した理由でもあります。後進に、というかこれからリリックを書き始める未明の表現者たちに、背中を見せるタームに入っているラッパーだなと。どちらも今年、傑作アルバムをリリースしました。いや、本当に最高ですよね。
HIP HOPやラップミュージックを聴かない人たちにも、聴いてほしいアルバムです。もっとも、世界的にはロックに比べて、HIP HOPやラップミュージックが盛況なんですけれども。最終的には、それぞれの文化への愛を持ちつつ、混ざり合ったり越境したりできることが、音楽の素晴らしいところだなと思います。