描写できないはずのもの
今回はちょっと特殊な漫画について語っていく。
漫画とは作者の脳内にある映像を描写として構成して読者に伝える媒体だが、
世の中には視覚と描写の間にあるはずの壁を突破してくる漫画家がいる。
その1人がpanpanya。
代表作は「足摺り水族館」「蟹に誘われて」
この作者の漫画は全てショートショート作品だ。
一見、ちょっと不思議な日常ものに見えるがこの漫画の日常には大きな違和感がある。
ストーリー構成が「夢」そのものなのだ。
脈絡がなく、藪から棒な展開に既視感と妙なリアルさが付きまとう。
記憶の蓄積からランダムに引き出された即席ストーリーであるが故に、非日常が妙に馴染む。
漫画の描き方もまた、「夢」らしさを引き出している。白黒写真のような緻密な風景と対照的に鉛筆一本でサラッと描いたようなキャラクターを見ていると、魂だけが写真の中で動いているような浮遊感が味わえる。コマに至るまで全てフリーハンドで描かれているのも読者に馴染む演出の1つとして役立っていると思う。
それでいて漫画としてしっかり面白いのが憎い。
1つのお話の間に決まって作者のエッセイが添えられている。何のことはない日常だが読ませる文章力があり、夢と現実の満ち引きをバランスよく保っている。
この作者の原動力というか力の源はとにかく充実した優雅な孤独だと思う。1人でいる時に感受性がフル回転していないとこんな漫画は描けない。
「夢」という本来描写にできないものを紙で体験できるので是非手にとってほしい。
もう1人は小池桂一。
こっちは本格的にヤバい。
夢、瞑想、悟りといったトランスパーソナルから薬物によるトリップまで全部描写に起こしてくる超人漫画家だ。
ぶっちゃけ見たほうが早いので彼の代表作であるウルトラヘヴンを紹介する。
いや、アカン。
ウルトラヘヴンは薬物によるトリップがある程度認められた未来の世界のお話だ。
医師免許を持ったトリップバーのバーテンダー達が安全な快楽を提供してくれるお店が繁華街に並んでいるという設定のSF漫画になっている。
主人公のカブは海外から輸入される新型の薬物を自身を実験台にしてキメまくっている排他的なドランカーの若者だ。
SF版トレインスポッティングと考えればちょっと分かりやすい。
この漫画の凄いところは、とにかく小池桂一の描写力だ。
夢、幻覚、トリップ、フラッシュバック、そして現実。それらが全てが境界線を持たずに入り乱れる。
薬物なんかやったことない俺らが何故かトリップ体験をできてしまう。
え?作者、マジでやってる?としか思えない。
まあ本当にやってたら漫画なんか描けないだろうけど、妙な説得力がある。
この漫画、マジでずーーーっとこんな感じ。
一応ストーリーは進んでいるのだが、主人公のカブが今マトモなのか、トリップしてるのか、夢を見ているのか、フラッシュバックしてるのかに導入がないのでとにかく混乱する。
叙述トリックのオールレンジ攻撃みたいな感じ。
ただ、この作者でしか出来ない体験なので興味があったら買ってみてほしい。
多分漫喫には置いてない。
世の中には視覚できても描写できないはずのものを紙に写し出せる天才がいるよってお話でした。
では。
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